未払い医療費を回収したい! 回収する方法や未払いを防ぐ方法とは?
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2019年4月より政府の外国人労働者の受け入れ拡大がスタートし、人手不足が著しい日本の産業界からは大きな期待が寄せられています。
しかし、その一方で外国人による医療費の未払いが全国各地で問題となっています。神奈川県では、1993年より医療費の未払いなどで損失を受けた医療機関に対し、県がその一部を穴埋めする独自の制度があります。
医療費が支払われなければ、医療機関の経営基盤に大きくダメージを受けるばかりか、そこで働く医療スタッフのモチベーションの低下にもつながります。未払いの医療費を請求する方法や医療費の未払いを防ぐ手だてには、どのようなものがあるのでしょうか。
1、未払い医療費の実態
まずは、年々増加する外国人の未払い医療費の実態から解説します。
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(1)外国人患者の医療費の未払い状況
平成31年3月に発表された厚生労働省の調査結果によれば、在留外国人に関する未収金の合計金額は外来で998万3357円、入院で4830万552円です。また、訪日外国人に関する未収金の合計金額は外来で387万9088円、入院で4083万153円となっています。これらの金額を合計すると1億円以上にものぼります。
※厚生労働省「医療機関における外国人患者の受入に係る実態調査結果報告書」 -
(2)医療費の未払いを理由に診療拒否できるか
医師の立場からすると、医療費を払ってもらえないことは、病院の死活問題です。
しかし、医師には正当な理由がなければ患者からの診療の求めを拒んではならないとする「応招義務(医師法第19条第1項)」があります。また、昭和24年9月10日に厚生労働省から出された通達でも、「医業報酬が不払であっても直ちにこれを理由として診療を拒むことはできない」とされています。つまり、医療費が未払いでも、医師が診療を拒む正当な理由にはならないのです。 -
(3)診療拒否できる正当な理由とは
令和元年12月25日の厚生労働省通達によれば、医師が診療をしないことが正当化されるのは以下のような場合です。
- 医師の専門性や診察能力、医療機関の設備などで診察が不可能と言える場合
- 診療時間外・勤務時間外の場合
- クレーム等の迷惑行為を繰り返し続けた場合
- 支払能力があるにもかかわらず悪意を持ってあえて医療費を支払わない場合 等
※厚生労働省「応招義務をはじめとした診察治療の求めに対する適切な対応の在り方等について」令和元年12月25日付、 医政発1225第4号、 厚生労働省医政局 長
2、未払い医療費の時効はいつ?
他の金銭債務と同様に、未払い医療費にも消滅時効があるので注意が必要です。
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(1)未払い医療費の消滅時効は5年
民法改正により令和2年4月1日から、未払い医療費の消滅時効は、3年から5年へと変更されました。
かつては、公立病院の医療費が地方自治法や会計法上における公債権となるため時効は5年、私立病院は3年とされていました。しかし、今回の改正により、私立病院・公立病院ともに5年の消滅時効に規定されました。なお、消滅時効は未払いが発生した日の翌日から起算されます。 -
(2)時効の進行を止める方法(催告)
消滅時効の進行を止める方法は3つあります。
ひとつめは、催告をすることです。催告とは、簡単にいえば未払いになっている料金や費用を請求する書類のことを指します。単なる督促状よりも請求の度合いが強く、「直ちに支払わない場合は法的措置を取る」といった内容が書かれていることもあります。催告をすれば6か月間、時効の完成が猶予されます。 -
(3)時効の進行を止める方法(仮差し押さえ・仮処分)
裁判所に仮差し押さえや仮処分を申し立てる保全手続きを取ることによっても、時効の進行を止めることが可能です。この場合、仮差し押さえや仮処分が終了したときから6か月間は時効の完成が猶予されます。
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(4)時効の進行を止める方法(裁判上の請求や支払い督促など)
裁判上の請求や支払督促、調停などをしたときも、時効の進行をストップさせることができ、勝訴判決や和解などで権利が確定した場合、それらの手続きが終了したときからリセットされて進行します。また、権利が確定せずに裁判が終了してしまった場合でも、終了時から6か月間は時効の完成が猶予されます。
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(5)時効が過ぎてしまった場合の対応方法
時効が到来したからといっても直ちに時効が成立するわけではありません。3年たって債務者(医療費を払っていない患者)が「時効だ」と宣言して初めて時効が成立します。これを「時効の援用」といいます。
なお、時効が過ぎてしまった場合は、債務者に1円でも支払ってもらうもしくは支払約束書や支払猶予願などを書いてもらうようにすることで、時効の成立を避けることが可能です。
3、未払い医療費の請求方法
未払いの医療費は、時間がたつにつれて請求しづらくなります。そのため、医療費が未払いになっている患者に対しては、できるだけ早急に請求することが重要です。
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(1)請求書を送付する
はじめに、未払い医療費の金額や支払期日を記載した請求書を相手方に送付します。このとき、振込先の銀行口座を指定するだけでは、心理的なハードルが高いと感じる方もいます。どこのコンビニでも支払えるように、コンビニ用の払い込み取扱票を添えて送ると、相手方も支払いに応じやすくなるでしょう。
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(2)内容証明郵便を送る
請求書の支払いに応じない場合は、督促状を内容証明郵便で送ります。このとき、弁護士の名前で送れば、相手方に「無視できない」と思わせる可能性が高まります。もし未払いの金額が少額の場合であっても、弁護士の名前を書いた督促状を普通郵便で送ることで、「支払ってほしい」という意思を十分に伝えることができるでしょう。
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(3)支払督促
内容証明郵便での督促にも応じない場合は、裁判所に支払督促を申し立てる方法もあります。支払督促とは、裁判所から債務者に対して督促をしてもらう方法です。裁判所での手続きは必要ですが、裁判のように出廷する必要はなく、費用も裁判の半額ですむので、訴訟を起こす前の手だてとして有効といえるでしょう。
ただし、債務者から異議が出されると、訴訟に移行することになります。 -
(4)訴訟・少額訴訟
支払督促を申し立てた場合で債務者から異議が出された場合、訴訟を追行することになります。また、支払督促に対して異議が出されることが見込まれるケースでは、支払督促は申し立てずに、支払いを命じる判決を得るために訴訟を起こすことになります。請求金額が60万円以下の場合は、簡易裁判所での少額訴訟を利用でき、一般的な訴訟よりも費用や時間をかけずに判決を得ることが可能です。
4、医療費の未払いを防ぐ方法
上記のように未払いの医療費を支払ってもらう方法もありますが、そもそも医療費の未払いを防ぐことが大切です。医療費の未払いを防ぐために、医療機関はどのようなことができるのでしょうか。
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(1)保険証などで身分を確認する
病院では、初診のときやその月に初めて受診するときには、必ず保険証や公的医療証で身分を確認することが大事です。訪日外国人などで保険証を持っていない場合は、パスポートなどの身分証明書で身元を確認し、コピーを取っておくようにしましょう。
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(2)入院時に入院保証金を預かる
入院治療が必要な場合、未払いを防ぐ手段として、入院中にかかると想定される費用を「入院保証金」として事前に預かっておく方法もあります。入院保証金を預かる場合は、費用の内訳や金額、精算方法などを明示した書類を準備して、入院前に患者やその家族に説明し、同意が得られたら署名・捺印してもらいます。なお、多くの場合、入院前に入院保証金を預かり退院時に精算する、という形を取ります。
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(3)連帯保証人を設定する
入院などで医療費が高額になりそうな場合は、連帯保証人をつけておくことも重要です。連帯保証人がいれば、万一患者が亡くなった場合でも医療費を回収できないリスクを避けることができます。
ただし、令和2年4月1日以降、民法改正により連帯保証契約を締結するときには極度額(連帯保証人が支払う最大の額)をあらかじめ決めておくことが必要となりました。また、債務者は連帯保証人に財産状況やほかの債務の有無などについて情報提供もしなければならなくなりますのでご注意ください。 -
(4)契約書や誓約書を作成する
また、手持ちの現金では医療費を支払えないという患者に対しては、医療費の金額や支払期日、支払方法などを明記した契約書や誓約書を作って締結しておくこともおすすめします。契約書や誓約書で指定した期日までに支払われず訴訟になったときにも、この契約書や誓約書が有力な証拠となるからです。連帯保証人の氏名や連絡先の欄も設けて、署名・捺印をもらっておきましょう。
5、外国人の医療費未払いにはどう対応すべきか
2019年に法務省が発表した調査データによれば、在留外国人の数は2018年3月には273万1093人と、前年末と比較して6.6%増加し、過去最高となっています。その分、外国人の不慮の事故や急病などで医療機関を受診することも多くなっており、医療費の未払いも深刻な状況になっています。未払いを防ぐにはどう対応すべきなのでしょうか。
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(1)外国人の受け入れ体制を整える
院内で外国人の受け入れ体制を整えることが重要です。訪日外国人の中には、日本人の医療スタッフの言っていることがよくわからず、診療内容や医療費のことでトラブルになるケースもあります。民間企業では電話医療通訳サービスや国際医療事務代行サービス、翻訳ツールなどが開発・提供されているので、それらを利用するのも良いでしょう。
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(2)クレジットカードや電子マネーで支払えるようにする
日本の健康保険証を持っていないと医療費は全額自己負担となり、高額になる傾向があります。そのため、クレジットカード決済ができるようにしておくことも、医療費の未払いを防ぐことにつながります。また、電子マネーで決済できるような端末も準備しておくとなおよいでしょう。
6、まとめ
政府が推奨する外国人労働者の受け入れ拡大に伴い、在留外国人の医療費の未払いリスクもさらに増大する可能性は否めません。
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