刑事裁判(事件)と民事裁判(事件)の違いと両方の対象となるケース

2023年05月29日
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刑事裁判(事件)と民事裁判(事件)の違いと両方の対象となるケース

刑事裁判と民事裁判が、ひとつの事件に対して両方起こされることがあります。

たとえば、令和4年4月14日、SNSなどを通じて飲食店経営者を誹謗中傷する虚偽の内容のメッセージを送付した男は、民事裁判によって損害賠償請求を求められ、横浜地裁に55万円の支払いを命じられました。この男はすでに刑事裁判でも裁かれていて、令和3年12月7日には、信用毀損罪の有罪判決を下されていたことが報道されています。

このように、内容によっては刑事事件と民事事件のふたつの裁判を行うケースがあります。なぜふたつ同時に行うことが可能なのでしょうか。またどのような事件が対象となるのでしょうか。ベリーベスト法律事務所 横浜オフィスの弁護士が解説します。

1、民事事件(民事裁判)とは

民事事件という言葉になじみのない方も多いでしょう。しかし、民事事件は私たちにとって身近な存在でもあります。まずは民事事件についてご説明します。

  1. (1)民事事件とは

    民事事件とは、私たちが生活していくうえで起こりうるさまざまなトラブルで、民事裁判の対象となる争いのことです。争いの対象は、個人と個人、個人と組織(法人など)です。

    たとえば、

    • 相続の遺留分を請求したい
    • 友人に貸したお金を返してほしい
    • 交通事故の慰謝料を払ってほしい
    • 会社が残業代を払ってくれないので請求したい
    • 隣人の騒音でうつ症状が出たので治療費を払ってほしい
    • 子どもが学校で悪質なイジメにあったので損害賠償請求したい


    まずは個人での話し合いで解決を目指しますが、双方に納得がいく決着がつかない場合には調停や裁判を起こすことが可能です。

  2. (2)民事裁判は私人間の争い

    民事裁判とは、私人間のトラブルを当事者だけでは解決できない場合に、裁判所に起訴し判決を出してもらうことで争いを決着させる手続きです。

    私人とは、公的な立場ではない一個人や一組織を指し、公的とは国の機関や公務員と考えられます。

    民事裁判の訴訟は、裁判所に訴状や証拠などを提出することで、私人であれば誰でも起こすことができます。訴えた側を「原告」、訴えられた側を「被告」、弁護士を「代理人」と呼びます。原告と被告がそれぞれ証拠をそろえ、主張をたたかわせていきます。

    民事裁判の判決では「被告は原告に○○万円を支払え」「○○を明け渡せ」といった、紛争を決着する内容が言い渡されます。

    判決が出たにもかかわらず相手がこれを無視した場合には、財産を差し押さえるなどして判決を実現する、強制執行をすることができます。

  3. (3)和解による解決も可能

    民事裁判では、裁判所の判決だけでなく、当人同士で和解をし、裁判を終えることもできます。和解とは双方が譲り合うことで、判決に至らずに裁判を終える手続きです。

    裁判の途中で裁判所が和解をすすめたり、原告か被告が和解を提案したりした際に、双方が納得すれば、和解条件をまとめた和解調書を作成して裁判を終了します。この和解調書には判決と同じ効力があります。

    判決まで争うよりも早く解決ができ、どちらかが敗訴ということはありません。また双方が納得するため、慰謝料支払いが滞りなく行われる可能性も高まります。

2、刑事事件(刑事裁判)とは

マスコミの報道によって目にする殺人や詐欺などは、刑事事件にあたります。メディアが報じる凶悪犯罪は遠い世界のことのようですが、思わぬトラブルに巻き込まれ、刑事事件の関係者となる可能性は誰にでもあります。

刑事事件(刑事裁判)とは何か、民事との違いも併せて解説します。

  1. (1)刑事事件とは

    刑事事件とは殺人や強盗、詐欺、痴漢などの違法な行為をした人を、国が法律に基づき逮捕したり処罰したりする手続きです。

    逮捕は警察職員や検察官、検察事務官が行います。また、現行犯であれば一般人が逮捕を行うこともあります。逮捕された人を「被疑者」と呼び、起訴されると「被告人」と呼びます。被告人につく弁護士は「弁護人」と呼ばれます。

    私人同士の争いである民事事件とは異なり、刑事事件は一個人・一組織と国家機関の争いです。警察職員や検察官は被疑者の逮捕、身柄の拘束、家宅捜索など、国家の権限を持って進めます。

  2. (2)刑事裁判は国家との争い

    刑事裁判は、刑事事件で起訴された被告人が本当に罪を犯したのか、そうであればどの程度の刑罰を科すべきなのかを裁判所が判断する手続きです。

    刑事裁判は被告人と国家との争いです。誰でも裁判を起こすことができた民事裁判とは異なり、裁判を求める起訴ができるのは検察官に限られています。

  3. (3)解決手段は判決のみ

    刑事裁判には和解がありません。裁判を終える手段は、基本的には判決だけです。

    「懲役○年、執行猶予○年」「罰金○万円」といった有罪判決、または無罪が言い渡されなければ、裁判は終わりません。

    双方が証拠を出し合い主張をたたかわせた民事裁判と異なり、刑事裁判では検察側に被告人の犯罪を証明する責任があります。
    十分な立証がなされれば有罪判決、不十分であれば無罪判決の可能性が高まります。

    金銭の支払いなどを求めた民事裁判とは違い、刑事裁判では罰金刑や懲役刑の判決が、犯した罪が重ければ、無期懲役や死刑判決が言い渡されます。

3、刑事裁判と民事裁判

刑事事件で不起訴になったり、刑事裁判で判決が言い渡されたりした後に、民事裁判を起こされるケースは少なくありません。それには理由があります。

  1. (1)刑事裁判と民事裁判の違い

    刑事裁判と民事裁判は、目的が違います。刑事裁判はあくまで犯罪行為に対する処罰を決めるものであり、判決は罰金刑や懲役刑です。

    たとえば、詐欺事件において実刑判決が言い渡されたとしても、それだけでは被害者に対する損害賠償金の支払いが命じられることはありません。

    つまり、刑事裁判で、被告人に懲役刑や罰金刑が科されても、被害者がだまし取られたお金や詐欺を受けた精神的苦痛に対する補償はされないのです。

    そのため、被害金を取り戻したり、慰謝料を求めたりするためには、さらに民事裁判を起こさなければなりません。

    なお、民事裁判は起訴されて刑事裁判になった事件だけでなく、不起訴になった事件についても行われます。たとえば、痴漢事件で不起訴になったとしても、被害者が納得できないとして民事裁判を起こすことがあるのです。

  2. (2)民事裁判は3年の消滅時効がある

    不法行為に対する損害賠償請求には、損害および加害者を知った時から3年という消滅時効があります。これは、民法第724条に下記のとおり規定されています。

    「不法行為による損害賠償の請求権は、被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から3年間行使しない時は、時効によって消滅する。不法行為の時から20年を経過した時も、同様とする」

    なお、刑事裁判の途中でも、同時並行して民事裁判を起こすことが可能です。

  3. (3)損害賠償命令制度を使えば裁判は不要

    刑事裁判とは別に民事裁判を起こすことは、被害者にとって大きな負担です。
    そこで創設されたのが「損害賠償命令制度」です。

    損害賠償命令制度とは、刑事裁判で有罪判決が言い渡された後、同じ裁判所の裁判官が続けて損害賠償について審理を行うというものです。刑事裁判で使用した記録を使って審理するため、被害者の立証負担が軽減されます。判決にあたる「決定」は、確定すれば判決と同じ効力を持ちます。

    被害者は刑事裁判の途中に申し立てをする必要がありますが、制度を利用すれば、審理は原則4回以内で終結するため、早期に解決を図ることができます。つまり、別途、民事訴訟を起こすよりも迅速かつ簡単に手続きが済むのです。

    ただし、この制度の利用対象となる犯罪は以下に限られています。

    • 殺人、傷害など、故意の犯罪行為で人を死傷させた罪と未遂罪
    • 強制わいせつ、強制性交等、逮捕監禁、略取、誘拐、人身売買の罪と未遂罪


    業務上過失致死などの過失犯は対象外となります。
    なお、無罪判決が言い渡された場合には、申し立ては却下されます。

4、刑事と民事の両方で裁判になり得るケース

すべての刑事裁判について、民事裁判が起こされるわけではありません。ではどんな事件が刑事・民事両方の裁判の対象となり得るのでしょうか。

  1. (1)両方の対象となるケースとは

    刑事と民事両方の対象となるのは、基本的には被害者がいる事件に限られます。

    たとえば違法薬物の所持や使用、売春事件はそもそも被害者がいないため、民事裁判の対象外です。一方で、被害者がいる事件では、慰謝料や被害回復を求めて民事裁判が起こされます。

    ただし被害者がいるからといって、すべての事件で民事裁判が起こされるわけではなく、あくまで被害者が請求を望んだ場合のみです。

  2. (2)交通事故が多い傾向がある

    刑事・民事両方が起こされる典型的なケースが、交通事故です。

    たとえば車で人をはねた場合、過失運転致死傷罪や危険運転致死傷罪に問われます。

    刑事裁判ではこれらの罪に対して判決が言い渡されますが、被告人が無保険であった場合などは、治療費や慰謝料が支払われなかったり不十分であったりします。そのため、民事裁判で不足分の支払いを求めるのです。

    また名誉毀損事件では、被告人に有罪判決が言い渡されたとしても、被害者が受けた心の傷は消えず、名誉も簡単には回復されません。そのため、精神的被害に対する慰謝料が請求されるのです。

5、まとめ

刑事裁判は個人と国家の争い、民事裁判は個人と個人(または組織)との手続きです。交通事故などにおいては、両方を起こすケースも少なくありませんが、最終的な解決までに長い時間を要します。被告人にとっても負担が大きくなるでしょう。

もし、刑事裁判と民事裁判の両方を抱えてしまった場合や、どちらに該当するのかわからない……というお悩みがあれば、ベリーベスト法律事務所 横浜オフィスにご相談ください。事件発生の時点でご依頼いただければ、最適な対応策のご提案はもちろん、刑事事件や刑事裁判、民事訴訟までを総合的にサポートし、依頼者さまの負担をできる限り軽減いたします。お困りの場合はお気軽にご連絡ください。

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