詐欺幇助で逮捕された! 特殊詐欺への加担を疑われたらどうすべきか?

2021年09月14日
  • その他
  • 詐欺
  • 幇助
詐欺幇助で逮捕された! 特殊詐欺への加担を疑われたらどうすべきか?

令和元年6月、詐欺に関与することを知りながら地元の友人を特殊詐欺グループに勧誘した19歳の少年が神奈川県警察に逮捕されました。容疑は詐欺幇助(さぎほうじょ)です。横浜市内の高齢女性宅に赴いてキャッシュカードを盗んだ疑いで、特殊詐欺グループの受け子が逮捕される事件がありましたが、この受け子と特殊詐欺グループを結びつけた点が犯罪になると判断されての逮捕でした。

このように、特殊詐欺グループに関与し、犯行を手助けすると詐欺幇助の罪で逮捕され、厳しい刑罰を受ける危険があります。

本コラムでは、詐欺幇助に注目しながら、幇助の成立要件や特殊詐欺との関係、詐欺幇助の容疑をかけられた場合にとるべき行動について、ベリーベスト法律事務所 横浜オフィスの弁護士が解説します。

1、「幇助」は共犯のひとつ

幇助(ほうじょ)とは、刑法に定められている、共犯のひとつです。幇助の意味を正しく理解するために、共犯の意味や種類、幇助が成立する要件を確認していきましょう。

  1. (1)共犯とは

    日常生活のなかでも「これであなたも共犯だ」といった会話をすることがあるのではないでしょうか。法律上の共犯も、一般的な用語としての解釈とほぼ同じです。

    刑法における共犯とは、複数の者が同一の犯罪に関与することを意味します。ただし、同一の犯罪のなかで「どのように関わったのか」によって、共犯の種類や扱い方が変化します。

  2. (2)共犯の種類

    刑法における共犯には3つの種類があります。

    • 共同正犯(刑法第60条)
    • 教唆(刑法第61条1項)
    • 幇助(刑法第62条1項)


    ひとつ目の共同正犯となるのは、2人以上が共同して犯罪を実行した場合です。ここでいう、共同が成立するには、次の2点が必要となります。

    • 犯罪の実現にむけた意思があること
    • 実際に犯罪行為を共同・分担していること


    共同正犯はすべて正犯として扱われるため、犯罪に関与した全員が正犯として処罰を受けます。

    ふたつ目の教唆(きょうさ)とは、人をそそのかして犯罪を実行させることをいいます。そそのかす行為を受けた人に犯罪を遂行する意思が生じて、その意思に基づいて犯罪を実行した場合は、教唆犯も正犯として処罰されます。

  3. (3)幇助が成立する要件

    幇助とは、犯人の犯罪遂行を容易にする行為を指すものです。同一の犯罪には関与していながらも、実行行為には加わっていない場合に成立し、次の4点が要件となっています。

    • 犯人の犯罪行為を物理的・精神的に手助けすること
    • 犯人の犯罪行為を手助けする意思があること
    • 犯人が犯罪行為を実行すること
    • 手助けする行為によって、実際に犯罪行為が容易になったこと


    共同正犯と教唆はいずれも正犯として罰せられますが「幇助」だけは従犯として処罰されます。従犯とは正犯を手助けした罪のことです。

    従犯は、刑法第63条の規定によって必ず減軽されることになり、たとえば、刑罰が有期懲役の場合には「長期および短期の2分の1」が減じられます(刑法第68条3号)。

2、特殊詐欺は共犯関係になりやすい

特殊詐欺は、ほかの方法による詐欺と比べて特に共犯関係になりやすい犯罪です。なぜ特殊詐欺が共犯関係になりやすいのか、特殊詐欺と幇助の関係も含めて解説します。

  1. (1)特殊詐欺は組織的に実行するケースが多い

    特殊詐欺は、リーダーであり主犯格を頂点に、次のような組織を構成しています。たとえば、オレオレ詐欺であれば以下のような組織形態であると考えられます。

    • メンバーを統率する「指示役」
    • 嘘の電話をかける「かけ子」
    • 被害者から現金やキャッシュカードを受け取る「受け子」
    • ATMやコインロッカーから現金を出す「出し子」
    • 携帯電話や受取口座のキャッシュカードなどの犯行ツールを用意する「道具屋」
    • ターゲットのリストを組織に販売する「名簿屋」


    まるでひとつの会社のように組織のメンバーが役割を分担して犯行に及ぶのが特徴です。

  2. (2)特殊詐欺と幇助の関係

    特殊詐欺はひとつの犯罪のために多数のメンバーが関与しているため、それぞれが共犯関係にあることになります。

    指示役はもちろん、かけ子・受け子・出し子は詐欺罪が成立するための要件に深く関わっているため、共同正犯として厳しく処罰される可能性が高いでしょう。

    一方で、犯行ツールとして携帯電話やキャッシュカードを用意した、逃走を手助けするために交通費を受け子の口座に振り込んだといったなどの関与であれば、幇助と判断される可能性があります。

    共同正犯と幇助を区別する線引きは、おおむね次のような点が判断材料になるでしょう。

    • 特殊詐欺であるという認識
    • 特殊詐欺に加担した動機や経緯
    • 特殊詐欺に加担して得た利益の大小
    • 特殊詐欺グループ内の地位
    • 犯行における役割の重要性


    特殊詐欺をはたらくグループであることを認識しつつも「お金が欲しかった」といった動機や経緯をもっていて、短時間や少ない手間で破格の報酬を得ていた場合は、共同正犯になる可能性が高いでしょう。

    一方で、犯行ツールの提供や受け子・出し子の紹介のように、特殊詐欺の犯行を容易にはしているものの、犯行そのものには加担していないケースでは、幇助と判断されるケースもあるでしょう

3、詐欺罪が成立する要件と刑罰

特殊詐欺は刑法に規定されている、詐欺罪の手口のひとつです。詐欺罪が成立する要件や刑罰も確認しておきましょう。

  1. (1)詐欺罪の成立要件

    詐欺罪は刑法第246条に規定されている犯罪です。第1項では「人を欺いて財物を交付させた者」を、第2項では「前項の方法により、財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させた者」を罰すると明記されています。

    詐欺罪が成立するための要件は、次の4点です。

    • 欺罔(ぎもう)
      欺罔とは、相手にうそをいってだます行為を指します。特殊詐欺では、息子のふりをして「トラブルを起こしてしまいお金が必要だ」と電話をかけるなどの行為が該当します。
    • 錯誤(さくご)
      錯誤とは、被害者がうそにだまされて信じ込んだ状態を指します。
    • 処分行為
      錯誤に陥った被害者が自ら金品を差し出すことを処分行為といい、別の呼び方として交付ともいいます。特殊詐欺では、うそを信じ込んだ被害者が口座にお金を振り込んだり、レターパックなどを使って現金を指定された住所に送ったりする行為が該当します。
    • 財物・利益の移転
      欺罔・錯誤・処分行為の一連の流れを受けて、財物や財産上の利益が加害者に移転することで詐欺罪が成立します。たとえ、うそにだまされた被害者がお金を振り込んでも、すでに口座が凍結されていたり、郵送したのに宛所がわからず返送されてきたりすれば詐欺罪は既遂に達しないため未遂となります。
  2. (2)詐欺罪の刑罰

    詐欺罪の法定刑は10年以下の懲役です。

    詐欺罪には懲役しか定められていないので、罰金刑は適用されません刑事裁判で有罪になると確実に懲役となり、最短で1か月、最長では10年にわたって刑務所に収監されることになります

    判決が3年を超える懲役であった場合は執行猶予もつかないため、被害者が多数である、被害額が多額にのぼる、特殊詐欺グループのなかでも上位の立場にいるといったケースでは、初犯でも実刑判決を受けるおそれがあります。

    一方で、積極的に犯行には加担していないため詐欺幇助にあたると判断された場合は、刑法第62条・63条の規定に従って従犯減軽を受けます詐欺罪で従犯減軽を受けると懲役の上限が5年になるため、執行猶予つきの判決が下される可能性もあるでしょう

4、詐欺幇助の容疑をかけられた場合にとるべき行動

特殊詐欺の幇助として容疑をかけられてしまい、警察に逮捕された場合は、どのような行動をとるべきなのでしょうか。

  1. (1)すぐに弁護士に接見を依頼する

    警察に逮捕されると、警察の段階で48時間、検察官の段階で24時間、合計72時間にわたり捜査を受けます。身柄を拘束されていれば、たとえ家族であっても面会は認められません。

    逮捕直後の72時間は、警察・検察官からの取り調べのなかで特殊詐欺グループとの関わりや動機・経緯などを詳しく聴取されるため、誤解を招く発言があれば不利な状況になるおそれがありますこの期間に逮捕された被疑者と面会できるのは弁護士だけなので、弁護士による接見を依頼して、今後の見通しや取り調べに際してのアドバイスを受けることが大切です

  2. (2)被害者との示談交渉を進める

    特殊詐欺グループに関与した容疑で罪を問われている場合は、被害者との示談交渉を進めるのが最善策です。被害者に謝罪のうえで被害を弁済して許しを得ることで、検察官が不起訴処分を下す可能性が高まります。しかし、特殊詐欺事件への社会的な批判は強いため、たとえ示談が成立していても検察官が起訴に踏み切るおそれがあることも留意しましょう。

  3. (3)無罪を主張する

    携帯電話やキャッシュカードを提供していたり、知人を紹介していたりといった事実があったとしても、特殊詐欺に関与することを知らなければ詐欺幇助にはあたりません。

    実際に、特殊詐欺の現金送付先として利用された私書箱業者が「特殊詐欺に利用されることを認識していた」として詐欺幇助の罪を問われた事件について、裁判所が無罪を言い渡した事例も存在します。

    この事例では、特殊詐欺に利用されるかもしれないという認識があったとしても、法律上の義務とされている本人確認を実施しており、特殊詐欺に利用することを容認していたとまではいえないとして、有罪とする一審判決をくつがえし、控訴審で無罪が言い渡されました(東京高裁平成27年11月11日)。

    特殊詐欺の一連の流れに巻き込まれて詐欺幇助の疑いをかけられてしまったとしても、特殊詐欺に関与する認識・容認の有無によって判決に大きな違いがでる可能性があります。
    ただし、裁判で適切な主張するためには高度な法律の知識と経験が求められるだけでなく、有益な証拠収集の必要もあります。なるべく早く、刑事事件の解決実績が豊富な弁護士のサポートを求めましょう。

5、まとめ

SNSやインターネット掲示板などを通じて思いがけず特殊詐欺グループに関与してしまい、共犯として罪を問われる事例は跡を絶ちません。積極的に犯行に関わっていなくても、犯行ツールを提供したり、受け子や出し子として知人などを紹介したりといった行為があれば、詐欺幇助が成立してしまいます。

しかし、特殊詐欺に関与することをまったく知らなかったのに、思いがけず刑罰が科せられて前科がついてしまう事態は避けたいと考えるのが当然です。特殊詐欺に関与してしまい、詐欺幇助の疑いをかけられているなら、素早い弁護活動が必要です。ぜひ、早いタイミングでベリーベスト法律事務所 横浜オフィスにご相談ください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています