当たり屋行為で問われうる罪とは?|逮捕の可能性から科される罰則
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“当たり屋”は昔からある犯罪手口のひとつです。令和5年8月、横浜市内の路上ですれ違いざまにぶつかってきた男から高額なスマホの修理代を求められる事案が発生していることから、神奈川県警から注意喚起が呼びかけられているという報道がありました。
当たり屋と呼ばれる行為は、ぶつかる相手が自転車や自動車かなどとは関係なく犯罪行為です。では、詐欺罪と恐喝罪のどちらに問われるのでしょうか? 本コラムでは、当たり屋で問われる罪や刑罰、当たり屋行為をした場合に逮捕される可能性はあるのかといった疑問について、横浜オフィスの弁護士が解説します。
1、当たり屋とは
当たり屋とは、交通事故の被害者を装って賠償金や慰謝料などを不正に得る行為です。ただし、一口に当たり屋といっても、さまざまな手口が存在します。
まずは当たり屋とは、どのような行為なのかを手口別に解説しましょう。
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(1)典型的な“当たり屋”のケース
以前から存在するもっとも典型的な当たり屋の手口は、見通しの悪い交差点や狭い路地などで走行中の車にわざとぶつかるものです。
当たり屋自身の目的はあくまでも金銭なので、重症を負うような事故に発展するケースはほとんどありません。多くのケースでほとんど無傷か、あるいはごく軽症で済むものの、加害者となってしまった運転手は人身事故の責任を追及される事態をおそれて、言われるがまま金銭を支払ってしまうのです。 -
(2)わざと追突事故を起こさせる“噛ませ屋”
走行中に突然、急ブレーキをかけて追突事故を起こさせる手口は、当たり屋のなかでも“噛ませ屋”と呼ばれることがあります。
もともと噛ませ屋とは、他人の飼い犬にわざと噛ませて怪我を負い、治療費などの名目で金銭を脅し取る犯罪ですが、故意に追突事故を誘発させることから転じて同じ名前で呼ばれているのです。
最近では悪質な“あおり運転”が問題視され、道路交通法が改正されて妨害運転罪が創設されましたが、あおり運転を誘発する“あおられ運転”と呼ばれる行為も処罰の対象となりました。 -
(3)“非接触系”も目立つ
近年の当たり屋の手口としてもっとも多いのが“非接触系”と呼ばれる方法です。
接近してきた車に驚いて転倒して怪我をした、車を避けようとして手に持っていたスマホを落として壊れてしまったといった名目で、治療費や修理代を請求します。
実際に車とは一切接触していない場合でも「車に驚いた」「車を避けた」という理由で相手が怪我をすれば人身事故となるため、加害者となってしまった運転手は「穏便に解決したい」と考えてしまいがちです。
請求される金額はとりあえずの治療費やスマホなどの修理費・新品購入費など、数千円から数万円程度の少額となるため、要求に応えてその場で現金を支払ってしまうケースもめずらしくありません。運転手をだますために最初から壊れたスマホなどの小道具を用意したうえで「事故で壊れた」と主張するケースもあるようです。
2、当たり屋行為で問われる罪
当たり屋行為は、刑法の詐欺罪、または恐喝罪に問われることになるでしょう。
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(1)詐欺罪
詐欺罪は刑法第246条に定められた犯罪です。他人にうそを言い、金銭などをだまし取ることで成立します。
実際には車に接触しておらず、怪我の治療費やスマホの修理費なども必要ないのに請求する行為は詐欺罪にあたります。
また、車に接触したことは事実でも、怪我をしていないのに「怪我をしたので病院へ行く」と主張して金銭を要求したり、軽症で治療も必要ないのに高額の治療費や慰謝料を請求したりといった行為も詐欺罪にあたるでしょう。 -
(2)恐喝罪
恐喝罪は刑法第249条に定められた犯罪です。他人を脅して金銭などを差し出させた場合に成立します。
事故現場やその後の交渉の場において「警察に届け出ればあなたは逮捕されるだろう」と不安に陥れて治療費などを差し出させたり、金銭交渉の際に「暴力団の知り合いがいる」と脅しをかけて高額の慰謝料を請求したりすれば、恐喝罪に問われるでしょう。
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3、詐欺罪と恐喝罪の罪は重い
当たり屋行為は詐欺罪または恐喝罪に問われるおそれがあります。どちらの罪に問われた場合でも、厳しい刑罰を覚悟しなければなりません。
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(1)有罪になれば初犯でも確実に懲役となる
詐欺罪と恐喝罪は、どちらも同じく“10年以下の懲役”が規定されている犯罪です。
罰金などの規定はないため、刑事裁判で有罪となった場合はたとえこれまでに前科のない初犯であっても確実に懲役が下されます。執行猶予がつかない限り、刑務所に収監される事態は避けられません。
刑法第25条の定めによると、3年を超える懲役には執行猶予がつかないので、余罪(他に犯している罪)が多数である、被害が多額にのぼるといったケースでは、実刑が下されるおそれは高いでしょう。 -
(2)加重規定が適用されることもある
当たり屋行為は、成功すれば簡単にお金が手に入ってしまうため、一度手を染めてしまうと何度も繰り返してしまいやすい犯罪といえます。
そのため、もし余罪が多数である場合や、すでに同様の事件で刑罰を受けたことがあるといった再犯の場合では、刑事裁判の判決において言い渡される刑罰が重くなりやすいでしょう。
また、当たり屋グループや暴力団のような組織の活動として当たり屋行為をはたらいた場合は「組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律(通称:組織犯罪処罰法)」第3条1項13号または14号が適用されるおそれがあります。
組織犯罪処罰法が適用されると、たとえば刑法の詐欺罪ではなく「組織的詐欺罪」として1年以上の有期懲役が科せられます。有期懲役の上限は20年なので、刑法の詐欺罪が適用された場合よりも罪が重くなる可能性は高くなるでしょう。
4、逮捕の可能性と弁護活動
当たり屋行為を繰り返していたり、被害者から多額の金銭を得ようとして恐喝にあたる行為をはたらいてしまったりすれば、逮捕の可能性は高まります。
道路交通法のルールとして、車の運転手には事故発生時に警察へと通報する義務が課せられているため、当たり屋行為でお金を得ようとしても交通事故として警察の事情聴取を受けるおそれが高いでしょう。不自然な点があれば厳しく追及されるうえに、近年ではドライブレコーダーを装備している車も増えているため、当たり屋行為だと見抜かれてしまうケースも多いのです。
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(1)逮捕の危険が非常に高い
警視庁が公表する「令和5年版 犯罪白書」によると、令和4年中に検察庁で取り扱われた刑事事件のうち、逮捕などによる身柄拘束を伴った事件の割合は、詐欺事件で47.7%、恐喝事件では73.0%でした。
全刑法犯の平均は34.3%なので、詐欺罪・恐喝罪は特に「逮捕されやすい犯罪」だといえるでしょう。 -
(2)自首による逮捕の回避が期待できる
逮捕を避けるために有効となるのが、自首です。
自首とは、犯罪や犯人が捜査機関に発覚するよりも前に、犯人自らが捜査機関に対して犯罪を申告したうえで処罰を求める手続きを指します。刑法第42条1項は、自首について「その刑を減軽することができる」と明記しているため、自首が有効に認められれば、刑事裁判において裁判官が言い渡す刑が減軽される可能性があります。
ただし、自首の法的な効果は、あくまで可能性にとどまります。しかし、自首することで「逃げたり証拠隠滅を図ったりはしない」という意思と捜査協力の姿勢を示すことで、逮捕の要件である「逃亡・証拠隠滅を図るおそれ」が否定されるため、逮捕されず任意の在宅事件となる可能性が高まるでしょう。
自首する前に、弁護士に相談することで、自首や取り調べに対するアドバイスを受けることができます。まずは弁護士に相談することをおすすめします。 -
(3)逮捕後の流れと弁護活動
警察に逮捕されると、警察によって48時間以内、検察官によって24時間以内、最長72時間にわたる身柄拘束を受ける可能性があります。さらに、検察官の請求を裁判官が認めれば最長20日間にわたる勾留を受けるため、逮捕から合計23日間は自宅へ帰ることも、会社や学校へと通うこともできません。
その後、検察官が起訴すると刑事裁判に移行します。裁判官が保釈を認めなかった場合は刑事裁判が終了するまで被告人としての勾留を受けるため、さらに数か月にわたる身柄拘束を受けてしまいます。
逮捕による不利益を回避するには、弁護士のサポートが必須です。自首の付き添いや被害者との示談交渉によって、長期にわたる身柄拘束の回避が期待できます。
もし逮捕されてしまった場合も、やはり弁護士のサポートは欠かせません。勾留が決定するまでの72時間は、たとえ家族であっても逮捕された本人との面会は認められないので、取り調べに対するアドバイスを提供できるのは弁護士だけです。被害者との示談が成立すれば検察官が不起訴を下す可能性も高まるので、早期の身柄釈放や厳しい刑罰の回避も期待できます。
5、まとめ
「当たり屋」行為は、刑法の詐欺罪や恐喝罪が成立するおそれのある行為です。被害者をだましたり脅したりして金銭を得ると、警察に通報されて逮捕される可能性があります。すでに容疑をかけられているのであれば、直ちに弁護士に相談してサポートを受けましょう。
当たり屋行為をしてしまい逮捕や刑罰に不安を感じているなら、素早い対応が必要です。刑事事件の解決実績が豊富なベリーベスト法律事務所 横浜オフィスにご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています