不起訴処分なのに会社から解雇されそう……懲戒処分を回避する方法

2024年05月28日
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不起訴処分なのに会社から解雇されそう……懲戒処分を回避する方法

横浜市内だけでなく、神奈川県内で刑事事件を起こした場合、横浜地方検察庁などが刑事裁判を起こすか否かを判断します。令和4年における横浜地方検察庁における事件処分の比率のうち、不起訴となったのは56.1%です。不起訴処分とは、刑事裁判が見送られることを指し、つまり前科は付きません。完全に事実無根の無罪である場合も当然含まれているのですが、逮捕されたことを知った会社側が解雇などの懲戒処分を下すケースがあるようです。

せっかく不起訴処分となったとしても、解雇されてしまえば絶望してしまうかもしれません。解雇が不当だと感じたときはどうすればよいのでしょうか? 本コラムでは、ベリーベスト法律事務所 横浜オフィスの弁護士が、「不起訴処分」と「解雇」の関係を解説しながら、不起訴処分になったのに解雇された場合の対応について紹介します。


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1、気になる「不起訴処分」と「解雇」の関係

日本で刑罰を決めることができるのは裁判所・裁判官だけです。被疑者の逮捕や捜査を一次的におこなっているのが警察なので「警察が処罰している」と誤解している方も少なくないようですが、警察には刑罰を下す権限はありません。

また、刑事裁判を起こすか、それとも見送るのかを判断しているのは検察官だけです。刑罰が下されるかどうかは、検察官の判断にかかっているともいえます。

まずは「不起訴処分」とはどのような場合にどういったかたちで下されるものなのかを解説しながら、不起訴処分と解雇の関係について確認していきます。

  1. (1)不起訴処分の種類

    不起訴処分とは「刑事裁判を提起しない」と検察官が判断を下すことを指します。

    実は、不起訴処分はその理由に応じて20種類ほどに分類されていますが、よく登場するのはここで挙げる3つです。

    ● 嫌疑なし
    捜査によって犯人であるという疑いが完全に晴れた場合の処分です。別の真犯人が浮上した、犯行当時は別の場所に居たことが証明されたといった状況で下されます。

    ● 嫌疑不十分
    犯人であるという疑いは残るものの、捜査を尽くしても明らかな証拠が得られなかった場合の処分です。証拠がなければ刑事裁判を提起しても無罪になるのが原則なので「このまま起訴しても有罪判決が得られる見込みがない」と判断すると嫌疑不十分となります。

    ● 起訴猶予
    犯人であることが捜査によって証明されており、起訴すれば有罪判決が得られる見込みはあるものの、諸般の事情に照らして起訴を見送る処分です。たとえば、法律に照らせば犯罪は成立するものの被害がごく軽微で本人も深く反省している、被害者に謝罪と弁済を尽くして許しを得ているといったケースが考えられます。
  2. (2)不起訴処分なら原則解雇はできない

    不起訴処分になると、刑事裁判は開かれないので刑罰を受けません。

    わが国には「推定無罪の原則」があり、刑事裁判で有罪判決を受けるまでは「犯人」として扱われないので、不起訴処分になると「犯人ではない」ことになります。犯人ではないのに、不利益を受ける事態があってはなりません。

    たとえ不起訴処分になったとしても、犯罪の容疑をかけられたという不名誉は、本人を雇っている会社にとっても大きな痛手となるでしょう。

    特に、警察に逮捕されて大々的に報道されたといった状況があれば、社内はもちろん、取引先などからも非難されるおそれがあるため「解雇する」という判断もやむを得ないように感じられます。

    しかし、解雇は会社や経営者の自由な判断で下せるものではありません。特に、制裁としての性格をもつ「懲戒解雇」には、就業規則に懲戒解雇の基準が明示されており、実際にその基準を満たしたうえで、さらに弁明の機会が与えられていること、処分に合理的な理由があり解雇が相当であるといった条件を満たす必要があります

    したがって、不起訴処分を受けたという理由があるだけでは、解雇は認められません。

2、容疑をかけられても解雇されないための対策

刑事事件の被疑者として容疑をかけられてしまうと、その後の展開次第では起訴されてしまい、有罪判決を受けて解雇されてしまうおそれがあります。

職を失えば社会復帰も難しくなるので、解雇はできる限り避けなければなりません。まずは弁護士に相談して、解雇を避けるための弁護活動を検討しましょう。

  1. (1)不起訴処分を目指した示談交渉を尽くす

    解雇を回避するためには、事件を不起訴処分で解決するのが最善策です。
    とはいえ、事件を起こしたのが事実であれば嫌疑なし・嫌疑不十分としての不起訴処分を期待するのは難しいでしょう。

    不起訴処分を望むなら、起訴猶予を目指すのが現実的です。令和5年版の犯罪白書によると、令和4年中に不起訴処分になった被疑者の総数47万9092人のうち、起訴猶予となった人は41万9846人で、全体の約87%を占めています。

    起訴猶予を得るには、被害者に対して真摯(しんし)に謝罪し、被害を弁済して許しを請う活動が必要です。被害者との示談交渉を進めて、被害届の取り下げや刑事告訴の取り消しが実現すれば、起訴猶予となる可能性が高まります。

    ただし、被害者との示談交渉は容易ではありません。怒りを抱えている被害者のなかには、示談交渉を受け入れてくれない方は少なくないので、公平中立な第三者として弁護士が代理人を努めるのがもっとも安全です

  2. (2)実名報道の回避に向けた対策を尽くす

    警察に逮捕されると、新聞社やテレビ局といった報道機関に事件の情報が提供されます。
    報道各社の判断次第ですが、新聞・テレビニュース・ネットニュースで実名報道されるかもしれません。

    たとえ結果として不起訴処分になったとしても、被疑者として実名が報じられてしまえば、世間から「犯人だ」と決めつけられてしまい、さまざまな不利益が生じるでしょう。

    実名報道を回避する確実な方法は存在しません。事件を報じるのか、実名のままで公表するのかなどの判断は、報道各社に委ねられています。

    報道各社に「実名報道は控えてほしい」と伝えても、個人からの要望では聞き入れてもらえないので、弁護士を代理人として正式に要請したほうが実名報道を回避できる可能性が高まるでしょう。

3、不起訴処分で解雇!退職金や失業保険は?転職への影響は?

本来、厳格な要件を満たさなければ解雇は許されない処分です。しかし、なかには労働関係の法令を順守せず、解雇に踏み切る会社も存在するでしょう。

不起訴処分であるのに解雇されてしまった場合、退職金や失業保険といった保障はどうなるのでしょうか? また、転職にも影響が生じてしまうのでしょうか?

  1. (1)退職金は会社の規定次第

    解雇した社員に対して退職金を支払うかどうかは、会社の退職金規定によります。懲戒解雇となった社員に対する退職金については「支給しない」あるいは「減額する」と定めている会社が多数なので、不起訴処分であっても会社が懲戒解雇したのであれば不支給・減額といった措置を受けるかもしれません。

    ただし、たとえ会社が独自に定めた退職金規定の基準に該当していても、裁判で争った場合はいくらかの支払いを命じるケースが多いようです。

    不起訴処分だったのに解雇されたのなら、会社との交渉では支給を断られたとしても、裁判所の判断に委ねることで退職金が支払われる可能性があります。

  2. (2)失業保険は不利な「自己都合退職」扱いになる

    刑事事件を起こしてしまったことを理由に解雇された場合は「自己都合退職」となり、失業保険の給付日数の面で不利になります

    不起訴処分になったとしても、実際に事件を起こした事実があるなら「自己の責めに帰すべき重大な理由があった」と判断される
    でしょう。

  3. (3)転職への影響は小さい

    解雇を受け入れて新しい会社へと転職を決意した場合は、事件や解雇が転職に影響を及ぼさないのかが気がかりになるでしょう。

    まず、事件を起こしたことが転職先へと知られてしまう可能性は高くありません。前科や前歴といった情報は、司法機関が厳重に管理して外部には公開しない、極めて重大な個人情報なので、一企業が入手することは不可能です。

    会社の採用担当者は、インターネットのニュース記事などで情報を収集するしかないので、実名報道を回避できれば転職先に事件を知られてしまうことはないでしょう。

    また、一般的な履歴書には「賞罰」の欄があるため、刑罰を受けた経歴がある場合は包み隠さずに記載しなければなりません。

    しかし、不起訴処分で終わった場合は、刑罰を受けていないので賞罰欄への記載は不要です。
    もちろん、起訴されて刑罰を受けた場合は賞罰欄に記載しないと経歴詐称になってしまうので注意しましょう

4、事件の穏便な解決や不当解雇の問題は弁護士に相談を!

犯罪の容疑をかけられてしまった場合は、直ちに弁護士に相談してサポートを求めましょう。事件を最大限に穏便なかたちで解決できる可能性が高まるうえに、不当解雇への対抗にも力添えが受けられます。

  1. (1)不起訴処分を目指した弁護活動が期待できる

    刑事事件の容疑をかけられてしまっても、不起訴処分になれば刑罰は科せられません。犯人として扱われることもなければ、不利な処分も受けないのが原則です。

    弁護士に依頼すれば、被害者との示談交渉の代理や本人の強い反省を検察官に伝えるなどの弁護活動による不起訴処分の実現が期待できます。

    不起訴処分を得るには積極的なアクションが必要です。待ち構えているだけでは起訴されてしまうおそれがあるので、直ちに弁護士にサポートを依頼しましょう

  2. (2)不当解雇への対抗を依頼できる

    事件が不起訴処分で解決したのに、会社から解雇を言い渡されたり、退職金を不支給にされたりといった不当な扱いを受けた場合も、弁護士の助けが必要です。弁護士が代理人となって会社側と交渉することで、解雇の撤回や退職金の支払いが実現する可能性があります。
    必要があれば裁判を起こして対抗するサポートも得られるので、弁護士への相談を急ぎましょう。

5、まとめ

刑事事件を起こしてしまっても、検察官が不起訴処分を下せば刑事裁判が開かれないので刑罰は科せられません。犯人としての扱いも受けないので、解雇をはじめとした不利益は受けないのが原則です。

もし無実であればなおさら、解雇される理由はないといえます。このようなケースであれば、警察から連絡が来た時点で弁護士に対応を依頼することで、会社に対して働きかけたり、逮捕などの事実が会社には伝わらないよう配慮を求めるなどの対応が可能です。そのうえで、不起訴処分を得られるよう力を尽くします。

刑事事件の解決や不当解雇の回避を目指すのであれば、ベリーベスト法律事務所 横浜オフィスの弁護士におまかせください。刑事事件や労働問題についての知見が豊富な弁護士が、スタッフと一体となりあなた自身が受ける不利益を最小限に抑えられるよう力を尽くします。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています