ネットへの書き込みで侮辱罪になることはある? 成立要件を解説

2022年10月13日
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ネットへの書き込みで侮辱罪になることはある? 成立要件を解説

令和4年、神奈川県内に住む人物が「侮辱罪」で書類送検されました。某球団に所属する特定の選手について、SNS上で暴力的なコメントを投稿したとのことです。

有名人・芸能人・スポーツ選手などは批判の的になりやすい存在ですが、ネット上での侮辱・脅迫・誹謗中傷は見過ごすことのできない問題として注目されているところです。

本コラムでは、ベリーベスト法律事務所 横浜オフィスの弁護士が、ネットへの書き込みで「侮辱罪」が成立する要件や、まぎらわしい名誉毀損罪との違い、注目されている侮辱罪の厳罰化の内容などを解説します。

1、侮辱罪の刑罰│厳罰化の内容

侮辱罪に問われて刑事裁判で有罪判決を受けると、刑法第231条の定めにもとづいて刑罰が科せられます。

  1. (1)令和4年7月7日から厳罰化

    実は侮辱罪は、数ある犯罪のなかでも刑罰が軽いことで知られていました。

    改正前の法定刑は「拘留または科料」です。拘留とは30日未満の自由刑、科料は1万円未満の財産刑なので、犯罪の抑止という面では効果が薄いという問題がありました。

    ネット上の誹謗中傷によるトラブルが頻発したことから侮辱罪の厳罰化を求める声が高まった結果、令和4年7月7日からは「1年以下の懲役もしくは禁錮もしくは30万円以下の罰金または拘留もしくは科料」に改正されています

    なお、厳罰化が適用されるのは、令和4年7月7日以降に犯した侮辱行為です。厳罰化された刑法が施行された日よりも前におこなった書き込みに侮辱罪が適用される場合は、改正前の規定が適用されます。

  2. (2)公訴時効も延長

    刑法が予定している刑罰が重くなったことで、公訴時効も延長されました。

    拘留・科料のみの場合、公訴時効は1年です。一方、1年以下の懲役・禁錮、30万円以下の罰金が改正により加えられたので、これに対する公訴時効は3年となります。

2、まぎらわしい「侮辱罪」と「名誉毀損罪」の違い

ネット上の誹謗中傷を罰する犯罪として典型的なのが「侮辱罪」と「名誉毀損罪」です。書き込みの内容によってどちらの適用を受けるのかが異なり、科せられる刑罰の重さも違います。

  1. (1)ポイントは「事実の摘示」の有無

    侮辱罪と名誉毀損罪を区別するポイントは「事実の摘示」があるかどうかという点です。

    侮辱罪は「公然と人を侮辱した者」を罰する犯罪ですが、名誉毀損罪は「公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した者」を罰します。

    「公然と」とは、不特定または多数の人に伝達され得る状態です。SNS・ブログ・ネット掲示板などはまさに公然性が高い場所だといえるでしょう

    両罪を区別するのは「侮辱」と「事実の摘示」ですが、次のように解釈するとわかりやすくなります。

    • 「侮辱」とは
      「バカ」「ブス」など、人を蔑視する表現で、内容の真偽を確かめることができないもの
    • 「事実の摘示」とは
      「会社のお金を横領している」「上司と不倫している」など、具体的な事実を指した表現で、内容の真偽を確かめることが可能


    たとえば「バカ」は、人の性格や能力を蔑視する表現であり、しかも実際にその性格や能力を判定することができないので侮辱罪が成立します。

    一方で「会社のお金を横領している」は、横領という具体的な事実を指しており、しかも実際に横領しているのかどうかを調べて明らかにすることが可能です。

    この場合は、実際に横領しているかどうかを問わず、名誉毀損罪の対象となります。根も葉もない虚偽の噂を流した場合はもちろん、実際に横領をしていても公然とその事実を知らしめる行為は犯罪になる危険があるので注意が必要です。

  2. (2)刑罰の重さも違う

    侮辱罪と名誉毀損罪は、刑罰の重さも違います。

    名誉毀損罪の法定刑は「3年以下の懲役もしくは禁錮または50万円以下の罰金」です。
    厳罰化された侮辱罪の法定刑が「1年以下の懲役もしくは禁錮もしくは30万円以下の罰金または拘留もしくは科料」なので、名誉毀損罪のほうが重い刑罰が予定されています。

    拘留・科料で済まされる可能性がある点を考えれば、侮辱罪が適用されるのか、名誉毀損罪が適用されるのかは大きな問題となるでしょう。

3、ネット上で侮辱してしまった!解決策はある?

ネット上で人を侮辱してしまった場合は、問題を放置しておくべきではありません。侮辱罪の厳罰化をはじめ、社会は「ネット上の誹謗中傷を許さない」という気運が高まっているので、強い悪意がなくても被害者の申告によって事件化されてしまう危険があります

厳しい刑罰を受けてしまう事態を避けるには、積極的に解決する姿勢が大切です。

  1. (1)被害者への謝罪・賠償に向けた交渉を急ぐ必要がある

    穏便な解決に向けて何よりも優先すべきは、相手を侮辱している状態の解消です。

    被害者や閲覧者からの通報によってSNSなどのサービスを提供している事業者側が削除することもありますが、投稿者ではない者からの削除要請には多大な労力がかかります。

    まずは被害者が削除要請に費やす労力を積極的に解消し、侮辱の状態が公にされている状態をみずから解消しましょう。

    そのうえで、被害者に対して侮辱行為を謝罪し、侮辱によって与えた損害や精神的苦痛を賠償する意思があることを伝えて交渉の機会を設ける必要があります。甚大な被害を与えていなければ、問題の書き込みを削除して誠心誠意の謝罪を伝えるだけで許しを得られるかもしれません。

  2. (2)示談交渉は弁護士に依頼したほうが安全

    被害者への謝罪を含めたコンタクトは、個人でも可能です。しかし、加害者からの突然の連絡に警戒心を抱く被害者も少なくありません。

    また、個人間で賠償の交渉を進めていると、示談金を支払わなければ刑事告訴するなどの恐喝を受けたり、被害者側から提示される示談金が過大になってしまったりすることもあります。

    被害者への謝罪を含めて、示談交渉の対応は弁護士に一任したほうが安全です。経験豊富な弁護士が代理人となって交渉を進めることで、被害者の警戒心や個人的な怒りなどの感情をやわらげながら対応できるだけでなく、適切な示談金での和解も期待できます

4、まとめ

ネット上で人を蔑視する内容の書き込みやコメントを投稿すると「侮辱罪」に問われるおそれがあります。ほかのユーザーも同じような内容を投稿している、とくに攻撃的な悪意はなかったといった言い訳は通用しません。

厳罰化が施行され、社会に「ネット上の誹謗中傷を許さない」という気運が高まっているため、侮辱行為を受けた被害者がこれまで以上に強い姿勢で臨んでくる事態も考えられます。

厳しい刑罰や過大な示談金の支払いによる無用な負担を避けるには、弁護士のサポートが欠かせません。ネット上で人を侮辱してしまい、穏便な解決を図りたいと望むなら、ベリーベスト法律事務所 横浜オフィスにおまかせください。刑事事件の解決実績を豊富にもつ弁護士が、トラブルの解決に向けて全力でサポートします。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています