詐欺と知らなかった! 子どもが詐欺容疑で逮捕されたらどうすべきか
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いわゆるオレオレ詐欺などの特殊詐欺では、被害者をだます役目と、現金や荷物を受け取る役目とが分かれていることがあります。この、現金などを受け取る役割を「受け子」といい、簡単なアルバイトなどと勧誘され、事情を知らずに巻き込まれる事件が増えています。
事情を知らなかった場合でも詐欺行為の重要な役割を担うため、目的物を受け取るだけでも詐欺罪が成立する可能性があります。実際、令和元年6月に横浜の70代女性からカードと通帳を受け取った男が、詐欺容疑で逮捕されています。
もし、あなたの未成年の子どもが、詐欺の計画には関わっておらず、単なる荷物運びのアルバイトをしているつもりであっても、目的物の受け取りや運搬に関わったとしたら、どうしたらいいのでしょうか。そこで今回は、「詐欺と知らずに目的物の受け運びをした場合、詐欺罪が成立するのか否か」から、未成年者が逮捕された場合の対処法も合わせて解説します。
1、詐欺罪とは
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(1)詐欺にあたる行為
詐欺は刑法第246条に規定されている犯罪です。故意および不法領得の意思を有した上で他人をだまし、その結果、相手の財物を自分、もしくは第三者に移転させることが、その成立要件となります。
故意とは他人から財物をだまし取ろうとしているという自覚であり、不法領得の意思とは権利者を排除して他人の物を自己の所有物として利用、または処分しようという意思をいいます。だます行為に基づいて財産の移転が行われなければ詐欺罪は成立しません。これを、因果関係といいます。
ただし、財産をだまし取ることを目的にだます行為をした時点で、たとえ実際に財産を受け取ることができなくても未遂罪(刑法第250条)が成立します。 -
(2)詐欺罪の罰則
詐欺罪の罰則は10年以下の懲役と定められています(刑法第246条第1項)。このような定められ方をしている場合、刑罰を受ける期間の下限は1か月です。したがって、詐欺罪で有罪となれば執行猶予にならない限り、加重や減軽がなければ1か月以上10年以下の懲役刑が科されることになります。
なお、詐欺未遂罪であっても同じ刑罰が設定されている点に注意が必要です。
2、詐欺と知らずに関わった場合でも犯罪になる?
特殊詐欺は、電話などで被害者をだまし、対面することなく、現金を振り込ませるなどして被害者から財産をだまし取る犯罪です。複数の役割に分けられ、これを実行する場合もあります。
その中で、未成年の子どもなどが割のいいアルバイトといわれ、通帳や現金の受け渡し役を引き受け、知らず知らずのうちに犯罪の片棒を担がされることも少なくありません。そのような場合、手伝った者にも詐欺罪は成立するのでしょうか。
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(1)詐欺の共犯となるタイミング
たとえば、何人かで被害者に暴行を加えているところへ通りがかり、自分も暴行を加えたような場合に、暴行罪ないし傷害罪が成立することは問題ありません。他人へ暴行を加えること自体が犯罪だからです。
ところが、被害者がだまされて交付した財物を、途中から頼まれて受け取り、運んだだけという場合、話は難しくなります。荷物を受け取って運ぶ行為自体は犯罪ではないためです。
最初から詐欺グループの一員として計画を立てていたか、もしくは財物の受け取り前に詐欺の目的物だと知らされていた場合は、当然ですが共犯として扱われます。しかし、問題は詐欺だと知らずに関わった場合でしょう。 -
(2)詐欺の故意の有無
すでに説明したように、詐欺罪の成立には「相手をだまして財物を交付させよう」という故意が必要です。そして、詐欺と知らずに荷物の受け運びをした場合、故意は存在せず、詐欺罪も成立しないはずです。
しかし、特殊詐欺は社会問題ともなっている重大な犯罪です。アルバイト代が他と比べて高額だったケースや、素行が良いとはいえない人物から依頼されて断れなかったケースなどでは、特段の事情がない限り「もしかしたら……」という疑念を抱くだろうと予想できます。
そのため「詐欺だと知らなかった」といういい訳に対して、裁判所は厳しい判断をする傾向にある点に注意が必要です。
具体的には、次のような事実がある場合、詐欺である可能性の認識(未必の故意)があったとみなされてしまう可能性が高いでしょう。- 単なる荷物運びにしては高額のアルバイト料だった
- 偽名を使うよう指示された
- 相手が高齢者である
- 荷物が金銭であると推測できた
3、未成年者(14歳以上)が詐欺事件で逮捕された場合の流れ
たとえ未成年者であっても、刑事責任があるとみなされる14歳以上であれば、逮捕されて取り調べを行われます。本稿では、14歳以上の未成年者が詐欺容疑で逮捕されてしまった後の流れについて解説します。
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(1)逮捕後の流れ
逮捕されると、まず警察で取り調べが行われます。48時間以内に警察から検察に身柄が送致され、24時間以内に検察官が裁判所に勾留を請求するかどうか決定します。勾留の期間は最長20日間で、ここまでは一般成人の刑事事件と同様です。
勾留期間中に、検察官は事件の捜査を行い、家庭裁判所に事件を送ります。その後の身柄拘束は観護措置という方法により行われます(少年法第17条)。観護措置の期間は原則2週間で、最長8週間となっています(少年法第17条3項、4項、9項)。 -
(2)少年審判での処分
少年審判で下される保護処分としては、社会の中で更生を図る保護観察、児童自立支援施設などへの送致、少年院で指導や訓練を受けさせる少年院送致という3種類がメインになります。ただし、殺人など、重大事件を起こしていた場合には再び検察官に送致されます。
このほかに審判を開始せず、調査のみを行って事件を終わらせる不処分、審判不開始があります。なお、処分を直ちに決められない場合は家庭裁判所による試験観察が行われます。
特殊詐欺で、本当に詐欺であると知らず犯情にもくむべき点があるなら、保護観察や不処分も考えられます。しかし、「知らなかった」との主張が通らず、犯行もかたくなに否認するような場合は、反省が見られないとして少年院送致や検察官送致となる可能性も否定できません。
詐欺は重い刑罰が科せられる可能性がある犯罪です。逮捕された場合には、可能な限り迅速に弁護士に相談するなどして、アドバイスをもらう必要があります。
4、逮捕されたら速やかに弁護士へ
少年事件には、成人事件とは違って犯罪が軽微、示談が成立しているなどによる起訴猶予(不起訴処分)や保釈制度がなく、原則、すべて警察・検察から家庭裁判所に送られることになっています。このため、非常に長い身体拘束を受ける可能性があります。
このような事態を避けるためにも、できるだけ早急に弁護士に相談することをおすすめします。依頼を受けた弁護士は、以下のような対応を行うことができます。
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(1)取り調べでのアドバイス
逮捕された後、警察や検察での取り調べ段階においては、未成年者であっても基本的に成人と同様の扱いを受けます。「詐欺だと知りませんでした」と主張したところで、信じてもらえるとは限りません。さらに、家族との面会は逮捕後72時間も認められず、被疑者は孤独な対応を強いられます。
しかし、依頼を受けた弁護士であれば、速やかに被疑者との面会を行うことができます。取り調べに対する受け答え方のアドバイスを行えるほか、家族からの差し入れも渡すことができます。弁護士は、法律面と精神面の双方から被疑者を支えることができるでしょう。 -
(2)被害者との示談交渉
詐欺事件には被害者が存在します。少年や親権者に代わり、被害者との示談交渉を弁護士がすすめることが可能です。被害者に許してもらうことができれば、少年事件においても重い処分が科されずに済む可能性が高くなると考えられます。
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(3)子どもの将来を見据えた対処
少年審判では子どもの将来を考え、更生するための判断が行われます。しかし、本人の事情や心情を法的な論理にのっとって裁判官へ伝えるには、弁護士の手助けが不可欠といえます。より望ましい処分を求めるならば、弁護士へのご相談をおすすめします。依頼を受けた弁護士は、少年審判においても付添人として少年に重すぎる処分が下されないよう、働きかけることができます。
5、まとめ
今回は詐欺と知らずに荷物の受け取りや運搬を行っていた場合の詐欺罪成否や、逮捕されたのが未成年の子どもだった場合における事件の流れについて解説しました。
特殊詐欺は被害者の数も被害総額も増加しており、深刻な社会問題となっています。「受け子」という言葉やその役割も広く知られているため、「知らなかった」という主張も通りにくい可能性が高いでしょう。
もし未成年のお子さまがそれと知らずに詐欺に関わり、逮捕されてしまった場合は、ベリーベスト法律事務所 横浜オフィスの弁護士へ早急にご相談ください。お子さまの将来を見据え、最適と考えられるサポートを行います。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています
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