労災で休職したものの復帰できない! 労働者が行うべき対応方法とは
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2021年に神奈川県で発生した労働死亡災害は49件で、前年比12件の増加となりました。
労働災害(労災)によるケガや病気が治りきらず、なかなか仕事に復帰できない場合、労災保険から休業(補償)給付などを受給できます。さらに、労災保険ではカバーされない損害についても、会社に対して賠償を請求できる可能性があります。
今回は労働災害に遭った後、仕事へ復帰できない労働者が行うべき対応について、ベリーベスト法律事務所 横浜オフィスの弁護士が解説します。
出典:「令和3年 死亡災害発生状況(神奈川労働局)
目次
1、労災被害から復帰できない場合に受けられる補償
業務中または通勤中にケガをしたり、病気にかかったりした場合、労災保険給付を受けることができます。
特に、労働災害に起因するケガや病気が重症の場合、すぐには仕事に復帰できないケースもあるでしょう。その場合には、ケガや病気が「治癒※」の状態に至るまでの間、以下の労災保険給付を受給できます。
※治癒:ケガや病気の症状が安定し、医学上一般に認められた治療を行っても、その医療効果が期待できなくなった状態。「症状固定」と呼ぶこともあります。
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(1)休業(補償)給付
「休業(補償)給付」は、労働災害に起因するケガや病気の療養のため、被災労働者が仕事を休んだ場合に、収入の補填(ほてん)として行われる労災保険給付です。
業務災害の場合は「休業補償給付」、通勤災害の場合は「休業給付」が行われます。
休業(補償)給付を受給するには、ケガや病気によって労働できない状態にあることにつき、診療担当者の証明(医師の証明)を受けることが必要です。
休業(補償)給付の金額は、業務災害・通勤災害のいずれも、総額で給付基礎日額(平均賃金)の80%です。
ただし、通勤災害のケースで療養給付を受ける場合には、初回の休業給付から一部負担金として200円が減額されます。
なお、休業(補償)給付が支給されるのは休業4日目以降で、3日目までは会社による休業手当の支給対象期間となります(労働災害補償保険法第14条1項)。 -
(2)療養(補償)給付
「療養(補償)給付」は、労働災害に起因するケガや病気の治療費をカバーする労災保険給付です。
労災保険指定医療機関において治療等を受ける場合は「療養給付」が行われ、被災労働者は窓口での費用精算を行うことなく治療等を受けられます。
一方、それ以外の医療機関において治療等を受ける場合は、被災労働者がいったん費用を立て替えたうえで、後に「療養補償給付」を請求する流れとなります。
療養(補償)給付では、治療費・入院費などに加えて、通院にかかる交通費も補償の対象です。原則として、片道2km以上の通院が必要となる場合に、公共交通機関の利用代金相当額が補償されます。
2、会社から早く復帰するよう求められたらどうすべき?
労働災害に起因するケガや病気が治っておらず、職場復帰が困難な状態なのに、会社から早く復帰するようにせかされた場合、被災労働者はどのように対処すべきなのでしょうか。
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(1)医師の診断書を示して、復帰が困難であることを説明する
会社としては、人員の穴を埋めるために早く復帰してほしいのかもしれませんが、職場復帰の時期はあくまでも医師と相談して決めるべきです。
医師に依頼すれば、治療の経過を示す診断書を作成・発行してくれます。医学的に職場復帰が困難な状態であれば、診断書の中でそのことがわかる記載が行われます。
会社からしつこく早期の職場復帰を求められる場合には、医師の診断書を会社に提示したうえで、依然として療養に専念する必要があることを説明しましょう。 -
(2)療養期間中の解雇等は違法|復帰要求に応じる必要はない
会社の職場復帰命令に背いた場合、
「給料の支払いが止まってしまうのではないか」
「会社から懲戒処分を受けてしまうのではないか」
などと不安に感じる方もいらっしゃるでしょう。
しかし、被災労働者は労災保険給付を受けることができるため、給料の支払いが止まったとしても、基本的に生活に困ることはありません。休業(補償)給付は平均賃金の80%に相当するため、生活費を賄うことは十分可能でしょう。
また、客観的に合理的な理由がなく、社会通念上相当と認められない懲戒処分は、懲戒権の濫用として違法・無効となります(労働契約法第15条)。
労働災害に起因するケガや病気の療養のために、被災労働者が仕事を休むのはやむを得ないことであり、懲戒事由に該当するものではありません。
したがって、被災労働者が長期間休んでいることを理由に、会社が被災労働者に対して行う懲戒解雇その他の懲戒処分は無効と考えられます。
このように、被災労働者の待遇・立場は労災保険や法律によって保護されているため、会社から早期の復帰を無理強いされたとしても、決してそれに応じる必要はありません。ケガや病気からの回復を優先して、じっくり療養に努めてください。
3、労災保険ではカバーされない損害もある|会社への損害賠償請求
被災労働者は労災保険給付を受けられるものの、労災保険給付はすべての損害をカバーするものではありません。損害全額の補填を受けたい場合には、労災保険給付の請求と併せて、会社に対する損害賠償請求をご検討ください。
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(1)労災保険によってカバーされない損害の例
たとえば、被災労働者が被る以下の損害については、労災保険から補填を受けることはできません。
① 慰謝料(精神的損害)
② 後遺障害・死亡による逸失利益の一部(労災保険では全額は補填されない)
③ 休業損害の40%相当額
※労災保険による休業(補償)給付の内訳は、休業(補償)等給付として給付基礎日額の60%、休業特別支給金として給付基礎日額の20%(合計80%)です。
このうち、休業特別支給金については休業損害に対する直接の補償ではありません。
したがって、労災保険によってカバーされていない休業損害は、法的には40%相当額となります。 -
(2)会社の損害賠償責任の発生根拠|使用者責任・安全配慮義務違反
労災保険によってカバーされない上記の各損害については、会社に対して損害賠償を請求できる可能性があります。
会社が被災労働者に対して負う損害賠償責任の根拠は、「使用者責任」または「安全配慮義務違反」です。① 使用者責任(民法第715条第1項)
従業員の故意または過失による行為により、被災労働者がケガをし、または病気にかかった場合、使用者である会社も被災労働者に対して損害賠償責任を負います。
② 安全配慮義務違反(労働契約法第5条)
会社が、生命・身体等の安全を確保しつつ労働できるように配慮する義務を怠り、その結果として被災労働者がケガをし、または病気にかかった場合、被災労働者に対して損害賠償責任を負います。
4、労災被害について弁護士ができるサポート
労働災害に起因するケガや病気に関して、会社に対する損害賠償請求を行いたい場合には、弁護士へのご相談をお勧めいたします。
労働災害について弁護士ができる主なサポートは以下のとおりです。
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(1)損害賠償請求に関する法的検討
弁護士は、被災労働者に生じた損害の内容や、過去の裁判例の傾向などを分析して、会社に対してどの程度の損害賠償を請求できるかについての検討を行います。
法的な観点から詳細に検討を行うことで、適正な損害賠償額の水準や、今後の和解交渉や訴訟などの見通しを知ることができます。 -
(2)会社との和解交渉の代行
損害賠償請求に関する会社との和解交渉も、弁護士が全面的に代行いたします。
組織力や資金力などで勝る会社に対抗するためには弁護士のサポートを受けるのが安心です。被災労働者がご自身で対応する必要がないため、時間・労力・精神面での負担軽減にもつながります。 -
(3)損害賠償請求訴訟の代行
会社が損害賠償を拒否し、訴訟での争いに発展した場合にも、弁護士が訴訟手続きの準備・対応を一括して行います。訴訟は専門性の高い手続きですが、弁護士に依頼すれば、戸惑うことなくスムーズに対応できるでしょう。
労働災害に起因するケガや病気について、会社に損害賠償を請求したい場合には、お早めに弁護士までご相談ください。
5、まとめ
労働災害によるケガや病気の療養が長引き、休職期間満了が近づいても復職のめどが立たないケースもあるでしょう。その場合でも、被災労働者は休業(補償)給付などの労災保険給付を受けられるほか、会社が解雇その他の不利益処分を行うことは違法なので、ご安心ください。
ただし労災保険給付は、被災労働者に生じた損害を全額カバーするものではありません。
損害全額の補填を受けたい場合には、弁護士に相談のうえで、会社に対する損害賠償請求をご検討ください。
ベリーベスト法律事務所 横浜オフィスでは、労働災害に関する損害賠償請求等のご相談を随時受け付けております。業務中・通勤中の事故などによってケガを負い、または病気にかかってしまった方はご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています