【企業向け】独占禁止法とは? 目的や違反した場合の罰則などについて
- 独占禁止法・競争法
- 独占禁止法とは
2019年の経済センサス基礎調査によると、横浜市の民営事業所数は15万4700事業所となっています。
独占禁止法とは、公正かつ自由な競争を促すことを目的として、一部の事業者による市場の独占等を規制する法律です。違反行為に対しては、罰則や課徴金の制裁が設けられているため、事業者は独占禁止法による規制内容を正しく理解しておきましょう。
今回は、独占禁止法の概要・規制されている行為・違反時のペナルティーなどについて、ベリーベスト法律事務所 横浜オフィスの弁護士が解説します。
出典:「横浜市の主な指標 事業所数」(横浜市)
1、独占禁止法とは?
独占禁止法は、事業支配力の過度な集中を防止して、事業活動の不当な拘束を排除することで公正・自由な競争を促進し、一般消費者の利益確保と国民経済の民主的・健全な発展を促すことを目的とした法律です(同法第1条)。
一部の事業者が市場シェアを独占している状態では、事業者間の競争が発生せず、商品やサービスの価格の高止まりや、品質向上の停滞を招いてしまいます。
こうした事態を防ぐため、独占禁止法では、市場の独占につながる行為等を規制して、事業者間の競争を促進することが意図されています。
2、独占禁止法が規制している行為・状態
独占禁止法では、以下の6種類の行為・状態が規制されています。
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(1)私的独占
「私的独占」とは、他の事業者の事業活動を排除または支配することで、公共の利益に反して、一定の取引分野における競争を実質的に制限することを意味します(独占禁止法第2条第5項)。
「排除型私的独占」と「支配型私的独占」の2種類があります。- 排除型私的独占:不当な低価格販売などによる競争相手の排除
- 支配型私的独占:株式取得などによる競争相手の支配
事業者による私的独占は、一律禁止とされています(同法第3条)。
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(2)不当な取引制限
「不当な取引制限」とは、事業者が他の事業者と共同して、相互に事業活動を拘束・遂行することにより、公共の利益に反して、一定の取引分野における競争を実質的に制限することを意味します(独占禁止法第2条第6項)。
「カルテル」と「入札談合」の2種類があります。● カルテル
各事業者が自主的に決めるべき商品・サービスの価格・販売数量・生産数量などを、複数の事業者が共同で決める行為
● 入札談合
公共工事・公共調達などの入札に際し、複数の事業者が話し合って、事前に受注事業者や受注金額を決める行為
事業者による不当な取引制限も、私的独占と同様に一律禁止です(同法第3条)。
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(3)事業者団体の行為
「事業者団体」とは、複数の事業者が共通の利益増進を目的に結成する結合体・連合体を意味します(独占禁止法第2条第2項)。
事業者団体を通じた市場の独占を防ぐため、事業者団体による以下の行為が禁止されています(同法第8条)。- 一定の取引分野における競争の実質的な制限
- 不当な取引制限または不公正な取引方法を内容とする、国際的協定または国際的契約の締結
- 一定の事業分野における、現在または将来の事業者数の制限
- 構成事業者の機能または活動の不当な制限
- 事業者に不公正な取引方法に該当する行為をさせること
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(4)企業結合
「企業結合」は独占禁止法上定義されていませんが、一般に株式保有や合併などによって、複数の企業が実質的に一体化・グループ化することを意味します。
市場における独占を防止する観点から、事業支配力の過度な集中を招いたり、一定の取引分野における競争を実質的に制限したりする企業結合は禁止されています(独占禁止法第9条以下)。 -
(5)独占的状態
「独占的状態」とは、市場規模が年間1000億円超の事業分野について、以下のいずれかの市場構造および市場における弊害がある状態を意味します(独占禁止法第2条第7項)。
- ① 1社の市場シェアが50%超、または2社合計の市場シェアが75%超
- ② 新規参入を著しく困難にする事情があること
- ③ 市場環境に照らして商品・サービスの価格上昇が著しく、または低下が僅少であり、かつ以下のいずれかに該当すること
● 当該事業者が、標準的な利益率を著しく超える過大な利益を得ていること
● 当該事業者が、標準的な金額よりも著しく過大な販売費・一般管理費を支出していること
独占的状態が発生している場合、公正取引委員会は事業者に対して、事業譲渡などの競争回復措置命令を行うことができます(同法第8条の4)。
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(6)不公正な取引方法
「不公正な取引方法」とは、以下のいずれかに該当する行為を意味します(独占禁止法第2条第9項)。
- 共同の取引拒絶
- 差別対価
- 不当廉売
- 再販売価格の拘束
- 優越的地位の濫用
- 上記のほか、公正取引委員会告示で指定されている行為
事業者が不公正な取引方法を用いる行為は、禁止されています(同法第19条)。
3、独占禁止法に違反した場合の罰則・行政処分
事業者が独占禁止法に違反した場合、刑事罰・過料の対象となるほか、公正取引委員会から課徴金納付命令を受ける可能性があります。
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(1)刑事罰・過料
違反行為の内容 罰則条文 量刑等 - 私的独占
- 不当な取引制限
- 事業者団体による、一定の取引分野における競争の実質的な制限
- 上記各行為の未遂
独占禁止法第89条 5年以下の懲役または500万円以下の罰金
※両罰規定により、法人・団体について5億円以下の罰金(同法第95条第1項第1号、第2項第1号)
※私的独占に限り、違反の計画を知りながら防止・是正に必要な措置を講じなかった法人代表者に対しても500万円以下の罰金(同法第95条の2)- 不当な取引制限に該当する事項を内容とする国際的協定または国際的契約の締結
- 事業者団体による、一定の事業分野における現在または将来の事業者数の制限
- 事業者団体による、構成事業者の機能または活動の不当な制限
- 確定した排除措置命令または競争回復措置命令に従わない行為
同法第90条 2年以下の懲役または300万円以下の罰金
※確定した排除措置命令または競争回復措置命令に従わない行為に限り、両罰規定により、法人・団体について3億円以下の罰金(同法第95条第1項第2号、第2項第2号)
※上記以外の行為につき、両罰規定により、法人・団体について300万円以下の罰金(同法第95条第1項第4号、第2項第4号)
※不当な取引制限に該当する事項を内容とする国際的協定または国際的契約の締結、および構成事業者の機能または活動の不当な制限に限り、違反の計画を知りながら防止・是正に必要な措置を講じなかった法人代表者に対しても300万円以下の罰金(同法第95条の2)- 銀行業または保険業を営む会社による、株式保有割合制限等違反
同法第91条 1年以下の懲役または200万円以下の罰金
※両罰規定により、法人について200万円以下の罰金(同法第95条第1項第4号)
※違反の計画を知りながら防止・是正に必要な措置を講じなかった法人代表者に対しても300万円以下の罰金(同法第95条の2)- 事業支配力の過度集中防止に関する各種報告書の提出義務違反、届出義務違反、届出前の株式取得等
- 再販売価格の決定、維持に関する契約の届出義務違反
同法第91条の2 200万円以下の罰金
※両罰規定により、法人について200万円以下の罰金(同法第95条第1項第4号)- 公正取引委員会の委員長、委員、職員等による秘密保持義務違反
同法第93条 1年以下の懲役または100万円以下の罰金 - 事件の調査に対する公正取引委員会による出頭命令、鑑定命令、物件提出命令への違反
- 事件の調査に対する公正取引委員会による検査の拒否、妨害、忌避
同法第94条 1年以下の懲役または300万円以下の罰金
※両罰規定により、法人・団体について2億円以下の罰金(同法第95条第1項第3号、第2項第3号)- 公正取引委員会による出頭命令への違反(事件の調査に関するものを除く)
同法第94条の2 300万円以下の罰金
※両罰規定により、法人・団体について300万円以下の罰金(同法第95条第1項第4号、第2項第4号)- 秘密保持命令違反
※親告罪
同法第94条の3 5年以下の懲役または500万円以下の罰金
※両罰規定により、法人について3億円以下の罰金(同法第95条第3項)- 排除措置命令違反(刑を科すべき場合を除く)
同法第97条 50万円以下の過料 - 裁判所による違反行為等の一時停止
- 命令への違反
同法第98条 30万円以下の過料
なお、独占禁止法違反を犯した事業者団体に対して刑を言い渡す場合、裁判所は事業者団体の解散を宣告することができます(同法第95条の4第1項)。
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(2)課徴金納付命令|ただし減免制度あり
課徴金の対象行為 根拠条文 課徴金の算定率 - 不当な取引制限
- 支配型私的独占
- 排除型私的独占
- 共同の取引拒絶
- 差別対価
- 不当廉売
- 再販売価格の拘束
- 同法第20条の2
- 同法第20条の3
- 同法第20条の4
- 同法第20条の5
- 優越的地位の濫用
独占禁止法第7条の2 10%
※違反事業者およびそのグループ会社がすべて中小企業の場合は4%同法第7条の9第1項 10% 同法第7条の9第2項 6% 3% 同法第20条の6 1%
不当な取引制限・支配型私的独占・排除型私的独占について、課徴金と罰金の双方が課(科)される場合は、罰金額の2分の1に相当する金額が課徴金から控除されます(同法第7条の7第7条の9第3項、第4項)。
なお、違反事業者が公正取引委員会に対する報告・調査協力を行った場合、申請順位や協力度合いなどによって、以下の割合による課徴金の減免を受けることができます(課徴金減免制度)。
申請順位 申請順位に応じた減免率 協力度合いに応じた減算率 - 調査開始日前の申請
1位 全額免除 - 2位 20% +最大40% 3位から5位 10% 6位以下 5% - 調査開始日以後の申請
最大3社※ 10% +最大20% それ以降 5% ※調査開始前の申請と併せて5社まで
4、独占禁止法に関する疑問点は弁護士にご相談を
他社と共同で事業に取り組む場合や、特定の商品・サービスの市場シェアを大きく確保しようとする場合などには、独占禁止法の規制に注意する必要があります。
独占禁止法違反を犯した場合、罰則や課徴金の対象となり、経済的にも社会的評判の観点からも、会社にとって大ダメージになりかねません。
独占禁止法の規制がよくわからない場合や、違反の可能性が少しでもあるのではないかと心配な場合は、お早めに弁護士までご相談ください。
5、まとめ
独占禁止法では、市場の独占によって事業者間の競争を不当に制限する行為等が禁止されています。独占禁止法による規制は多岐にわたるため、事業者が違反を回避するためには、弁護士によるリーガルチェックを受けることをおすすめします。
ベリーベスト法律事務所は、独占禁止法に関する事業者からのご相談を随時受け付けております。独占禁止法の規制内容について知りたい、自社の事業が独占禁止法に照らして問題ないか確認したいという事業者の方は、まずはベリーベスト法律事務所 横浜オフィスにご相談ください。
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