契約不履行とは? トラブル発生時に企業が検討すべき対応
- 一般企業法務
- 契約不履行とは
令和5年5月、横浜市がマイナンバーカードを使ったサービスの提供ベンダーを1か月の指名停止処分にしたという報道がありました。処分の理由は契約約款等違反としており、証明書誤交付トラブルを発生させたこと自体が契約不履行にあたると判断したのかもしれません。
本コラムでは、契約不履行についての基礎知識から、契約や約款にまつわるトラブルにあわないための事前の対策、実際にあってしまったときの対処法について、企業法務を取り扱っているベリーベスト法律事務所 横浜オフィスの弁護士が解説します。
1、契約不履行とは
まずは基礎となる、契約の定義から契約不履行について知っておきましょう。
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(1)契約とは?
契約とは、当事者間が何らかの取り決めについて合意したことにより成立する法律関係です。日本では契約の自由が認められており、契約によって誰でも自由に特定の人とさまざまな内容の契約を結ぶことが可能です(ただし、公序良俗に反する内容の契約は民法第90条の規定により無効となります)。
契約が成立すると、契約当事者のあいだで債権・債務の関係が発生します。「債権」とは、契約の内容に基づき特定の人に特定のことを請求する権利のことです。なお「債務」とは、契約上の請求権者に対してそれを履行する義務のことをいいます。 -
(2)口頭でも契約は成立する?
契約自由の原則は、契約方式についても当事者間の自由を認めています。つまり、口頭だけでも当事者間の合意があれば契約は成立し、契約書を作成する・しないは基本的に当事者間の自由です。
しかし、契約書がないと後日トラブルが発生し「合意した・していない」「言った・言っていない」などが争点になったときに、契約の内容をめぐる双方の主張について信用性が乏しくなります。その結果トラブルが長期化し、訴訟に発展することがありえます。このような事態に陥るのを防ぐため、できるだけ契約書は作成しておくべきでしょう。
なお、契約内容によっては契約書の作成が法律で義務付けられているもの、あるいは契約書を作成しておかないと法律上の効力が認められないことがあります。 -
(3)契約不履行と債務不履行との違いは?
契約不履行とは、一般的に「合意したはずの契約の内容を、当事者の一方が守らない(履行しない)」という意味で用いられています。ただし、国内の法律上にはこの言葉は登場しません。
民法では「契約不履行」ではなく、「債務不履行」という言葉が用いられています。債務不履行とは、契約などに基づき請求権を持つ債権者に対してその履行の義務を負うべき債務者が、その義務を自ら履行しないことをいいます。
たとえばAさんとBさんが金額・返済期限・利息について合意したうえで、AさんがBさんに対してお金を貸したとします。そして返済期限が到来し、AさんがBさんに貸したお金を利息付きで返済するよう要求したのにもかかわらずBさんがお金を返さないと、Bさんの債務不履行になります。
このように、民法上の言葉である債務不履行は、契約不履行の意味を持ち合わせていると考えてよいでしょう。
2、契約不履行の3つの類型について
債務者による債務不履行(いわゆる契約不履行)には、「履行遅滞」「履行不能」「不完全履行」の3つの類型があります。
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(1)履行遅滞
契約で定めた期限が到来しても、債務者がその義務を履行していないことを指します。
債務者に履行遅滞が認められた場合、民法第541条の規定により債権者は相当な期間を定めて債務の履行を催告し、それでもなお債務の履行がなかったときは契約を解除することが認められています。 -
(2)履行不能
債務者が義務を履行することが不可能な状態に陥り、期限が到来しても債務者の義務履行ができないケースです。
一般的には、天変地異によって債務者の履行基盤が喪失してしまった、債務者が破産してしまった、債務者が病気あるいは死亡してしまったなどのケースが該当します。 -
(3)不完全履行
債務の履行期日あるいは履行期日以後において、債務者による債務の履行が契約の内容に照らして不十分な状態であることを不完全履行といいます。
たとえば、債権者が債務者に100万円貸したのに50万円しか返済を受けていなければ、債務者による債務の不完全履行に該当します。借金の返済などのケースであればわかりやすいのですが、債務が完全に履行されたか、あるいは不完全履行であるかという点は、債権者と債務者のあいだで見解が分かれやすいものです。したがって、裁判においても債務の不完全履行が争われるケースは多く、履行遅滞や不完全履行に比べて長期化する傾向があります。
3、損害賠償請求できる契約不履行と、損害賠償請求ができない契約不履行
民法第415条では、債務者が契約した内容を守らない、つまり契約不履行があるときは、「債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる」と規定しています。
債務不履行(契約不履行)により生じた損害について、債権者は債務者に対して賠償することを請求する権利を有し、債務者は賠償する義務を負うことになります。また、債務者が自業自得で契約不履行になった場合でも債権者は損害賠償を請求することができるでしょう(民法第415条)。
ただし、契約不履行の原因が「債務者の責めに帰すものではない事由」、つまり債務者に「免責事由」があるときは、状況が異なります。通説および数多くの判例では、免責事由により契約の内容が履行されなかったとしても、これは債務者による契約不履行に該当しないとされています。したがって、債務者の免責事由による契約不履行に対して債権者が損害賠償を請求することは難しいと考えられます。
どのようなケースを免責事由とするかについては、当初の契約で明確にしておかなければなりません。具体的には、主要な事項を羅列したうえで「その他、(債務者の氏名・名称)の責めに帰し得ない契約の一部または全部の履行遅滞」などと明記しておくことが多いようです。もっとも、当事者間の合意があれば契約に免責事項を設けないことも自由です。
4、契約の解除は?
契約の解除とは、債務者の契約不履行など契約書に定めた解除要件に基づき、当初締結した契約を白紙撤回することです。このとき、債権者にはすでに履行された債務について債務者に返還する「原状回復義務」が生じます。
なお、民法では、契約内容のすべての履行ができないときなど特定の場合において、契約を解除できると定めています(民法第542条)。また、この場合における契約の解除に、民法第541条に定める事前の催告は不要です。
5、どうしても契約を守らない相手にできる対処方法
何度催告しても相手方が契約を守らないときに取り得る対処方法は、これまで述べた損害賠償請求および契約の解除のほかに、「強制履行」というものがあります。
強制履行とは、裁判所に訴えて債務者に契約の履行を強制的に行わせることです。たとえ契約を守らない債務者に非があるとしても、民法では債権者が自力で強引に契約の履行を実現させる「自力救済」を禁じています。そのため、裁判所の執行官が債権者に代わって債務者に契約の履行を強制的に実現させる制度が強制履行なのです。
6、企業が行うべき対策について
契約の相手方に履行力があることをしっかりと見極めることも、契約不履行というトラブルに遭わないために重要です。しかし、もっとも重要なポイントは、何よりも契約書をしっかりと作り込んでおくことです。
契約に関するトラブルは、契約書の内容の解釈をめぐるものがとても多いものです。これは、当初起こり得るトラブルを予見できなかったため、条文の定義があいまいであることに起因しています。したがって、契約書は法的知識と該当事業に対応した知見が豊富な弁護士にチェックを依頼しながら作成することをおすすめします。
仮に契約不履行に関するトラブルが生じてしまったときも、弁護士に依頼したほうがよいでしょう。依頼を受けた弁護士は、企業の代理人として履行に向けた相手方との交渉や、強制履行のための裁判所への手続きを行うことが可能です。
7、まとめ
相手方の契約不履行というトラブルに遭遇するリスクをゼロとすることは難しいものです。しかし、事前に契約書をしっかりと作成しておくことでリスクを一定度減らすことはできます。そして、もし実際に契約不履行があったとしても、その後の解決に向けた期間を短縮化することが期待できます。
しかし、このような契約書に関するチェックを企業単独で行うことは難しいものです。だからこそ、契約全般に関する事前のリスクチェックはもちろんのこと、万一トラブルに遭遇したときは、弁護士に対応を依頼してください。
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