一方的な契約解除には損害賠償請求できる? 解除権や損害賠償について解説
- 一般企業法務
- 契約解除
- 損害賠償
民法において、契約をかわすと原則として当事者は契約書の内容に拘束されます。たとえば、製品を発注して代金を支払うという契約であれば、発注元は代金を支払う義務があり、発注先は製品を製造して引き渡す義務があります。
ところが、急な資金繰りの悪化などを理由に、発注元から契約を解除することを一方的に主張され、製造した製品の代金を支払ってもらえないケースがあります。横浜市を管轄する横浜地方裁判所においても、契約の解除の効力が認められるかが争点のひとつとなった民事事件が、実際に起きています。
今回のコラムでは、相手方から一方的な契約解除を主張された場合の損害賠償請求について、ベリーベスト法律事務所 横浜オフィスの弁護士が解説します。
1、契約書の法的拘束力
契約書とは、売買や貸し借りなどの何らかの事項について、当事者間が合意した内容を書面にして表したものです。
契約書には特に決まった書式はありませんが、法律が規定する強行法規(当事者の意思にかかわらず、強制的に適用される法規)に抵触する条項を除いて、契約を締結した当事者は、契約書に記載された条項を順守する義務があります。
そのため、契約書の条項に反する行為をした場合には、契約の解除や、損害について賠償金の支払いを請求できる可能性があります。
2、契約の解除とは?
いったん締結した契約を解除することを、契約の解除といいます。契約の解除の概要と、契約を解除できる条件を解説します。
-
(1)契約の解除の概要
契約の解除とは、契約を締結した後に、相手の同意を得ることなく、当事者の一方的な意思表示によって契約を解除することです。
契約が解除されると、契約によって生じた債権や債務はさかのぼって消滅し、最初から契約がなかったことになります。
しかし、相手の同意や理由を問わずに一方的に契約を解除できるとすると、せっかく契約を結んだ相手にとっては酷な結果になります。
そのため、相手の同意無しで一方的に契約を解除するためには、“法定解除”または“約定解除”のいずれかの事由に該当している条件が必要とされます。解除事由に該当しない場合は、一方的に契約の解除を主張しても合法とはいえません。
法定解除と約定解除とは何か、次章で詳しく解説します。 -
(2)法定解除とは?
法定解除に該当する事由は、契約の相手方に債務不履行があった場合です。債務不履行とは、端的にいえば、契約によって結んだ約束(債務)を果たさないことです。
債務不履行は、一般に以下の3種類を指します。- 履行遅滞
債務を履行すべき時期を経過しても、債務を履行しない場合
(期日を過ぎても借金を返済しないなど) - 履行不能
債務を履行することが不可能な場合
(相手に引き渡す物を紛失してしまったなど) - 不完全履行
履行したものの、不完全であった場合
(100万円を返済すべきところ、50万円しか返済しないなど)
相手方に以上のような債務不履行があった場合、契約の当事者は契約を解除することができます。
- 履行遅滞
-
(3)約定解除とは?
約定解除とは、あらかじめ契約で定めておいた解除事由のことです。締結した契約書の中に約定解除の条項がある場合、それに基づいて契約を解除することができます。
たとえば、相手に違約金を支払えば当事者はいつでも契約を解除することができる、という条項を契約書に盛り込むなどです。
また、期日までに業務を完了させないなど何らかの違反類型に抵触した場合に、相手方が契約を解除できるとするなどのケースもあるでしょう。
3、損害賠償請求は可能か?
契約を解除できる事由が存在しないにもかかわらず、取引先が一方的に契約の解除を主張し、商品の代金を支払わない場合に、損害賠償請求はできるのでしょうか?損害賠償請求の基礎知識も併せて解説します。
-
(1)損害賠償請求権とは?
損害賠償請求権とは、故意または過失によって他人の権利や法益(法律上保護されるべき利益)を侵害した者に対して、それによって生じた損害の賠償を請求する権利のことです。
たとえば、投げたボールによって窓ガラスが割れてしまった場合、ボールを投げた人に対して窓ガラスの修理代を損害賠償請求することができます。
損害賠償請求権が発生する事由はさまざまですが、そのひとつが債務不履行に基づく損害賠償請求です(民法415条)。
また、お金を借りている方が約束した期日までに債権者に返済しないことは、債務不履行の1種にあたります。お金を期日までに返済するという義務を負っているところ、期日までに返済しないことは、正当な理由なく債務を履行しないことにあたるからです。
発注者が発注先に商品の製造を依頼して契約を締結したところ、一方的に契約の解除を主張し、代金を支払うという責任を果たさない場合も、債務不履行にあたります。契約を解除できる事由がない場合は、一方的な主張により契約を解除することはできません。発注者は、契約の内容通りに代金を支払う債務を依然として負っています。
そのため、発注先は、代金を支払わない発注者に対して、債務不履行を理由として損害賠償請求をすることができると考えられます。 -
(2)損害賠償の範囲
相手に対して損害のどこまでを請求できるのか、損害賠償の範囲を確認しておくことは重要です。損害賠償の範囲によって、相手に請求できる損害賠償の内訳や金額が変わってくるからです。
損害賠償の範囲については、信頼利益と履行利益という2つの考え方があります。- 信頼利益
有効ではない契約が有効であると誤信したことによって生じた損害を賠償するもの - 履行利益
契約がきちんと履行されていれば得られたはずの利益を賠償するもの
信頼利益と履行利益を比較すると、履行利益のほうが相手に請求できる範囲は広くなります。
たとえば、不動産を購入後に欠陥住宅であることが発覚したなど、契約がきちんと履行されなかった場合、契約締結や登記のために支払った費用は信頼利益にあたります。契約が有効である(欠陥住宅でない)と信じたために、契約や登記の手続きに必要な費用を捻出したからです。
一方、購入した不動産を他者に転売することで得られたはずの転売利益(購入代金と転売代金の差額)は、履行利益にあたります。不動産を転売することは、実際に契約が履行されてはじめて達成できるものであり、単に契約が有効だと誤信するだけでは得られない利益だからです。
債務不履行を理由として契約を解除する場合、損害賠償請求できる賠償の範囲は、信頼利益ではなく履行利益です。
したがって、一方的な契約解除に対して損害賠償請求をする場合は、履行利益を相手に請求することになります。 - 信頼利益
-
(3)原始的不能の場合の履行利益
それでは、履行利益ではなく信頼利益のみを相手に請求できるのは、どのようなケースでしょうか。
従来は、契約の原始的不能の場合には、履行利益ではなく信頼利益のみの請求が認められると一般に考えられていました。
原始的不能とは、契約を締結した時点で、すでに契約の目的を達成することか不可能な場合のことです。たとえば、建物の売買契約を締結したところ、契約の前日に火災で建物が喪失してしまうケースなどです。
しかし、履行が不能になる事由が生じたのが契約の前か後かによって、信頼利益か履行利益か、請求できる範囲が変わってしまうのは不当であるとの批判が強くありました。
そこで、平成29年の民法改正の際に、原始的不能の場合にも、債務不履行の場合と同様に損害賠償を請求できる旨に改正されました(改正民法412条の2第2項)。
この改正によって、従来は信頼利益に限られるとされていた原始的不能の場合にも、通常の債務不履行による損害賠償と同様に、履行利益についても損害賠償請求ができるとされるようになりました。
4、損害賠償請求の手続き
代金を支払わない相手にどのように損害賠償を請求すればいいのか、損害賠償請求の手続きについて解説します。
-
(1)まずは交渉する
相手に損害賠償を請求するというと、訴訟を起こして裁判で判決をもらうというイメージがあるかもしれませんが、損害賠償を請求する方法は裁判に限りません。
裁判所の手続きによらなくても、まずは相手にコンタクトをとって損害賠償を請求する方法もあります。基本的には損害賠償を請求する旨の文章を相手に送付して、相手の連絡を待ちます。
相手が賠償金の支払いに応じる場合は、賠償金の金額や支払い方法などを書面で合意したうえで、賠償金の支払いを受けます。
相手と直接交渉して賠償金の支払いを受けられれば、裁判にかかる費用などを支出せずに解決することができます。もっとも、相手が必ず支払いに応じてくれるとは限りません。
交渉の段階でも弁護士に依頼することができます。特に法人間の交渉は、実績のある弁護士が介入することで相手との交渉がスムーズにいく可能性が高まります。まずは状況を相談してみることをおすすめします。 -
(2)まとまらなければ調停手続き
相手が交渉に応じなかったり、交渉がまとまらなかったりした場合は、裁判所の調停手続きを利用します。調停とは、裁判所が指定する第三者である調停委員を交えて、当事者が話し合って解決策を探る方法です。
調停が成立した場合は調停調書が作成されますが、調停調書は裁判の確定判決と同様の効果があるので、相手がきちんと弁済をしない場合は調書に基づいて強制執行をすることができます。
なお、調停はあくまで当事者の合意に基づいて成立するものであり、当事者が調停案に同意しない場合に調停は成立しません。 -
(3)最終的な手段として訴訟
交渉や調停でまとまらない場合は、最終的に訴訟を提起して、裁判の形で決着をつけることになります。損害賠償を請求できるかどうか、請求できる場合の金額などを争います。
請求が認められて判決が確定すれば、確定判決に基づいて強制執行をすることができます。なお、訴訟を提起する前に必ずしも交渉や調停をする必要はなく、制度上はいきなり裁判を起こすことも可能です。
裁判では、裁判官を納得させるような法的根拠に基づいた主張や、損害賠償を請求する権利を証明できる証拠などが重要となります。弁護士のサポートを受けずに進めることは困難といえるでしょう。
5、まとめ
契約を締結した当事者の一方が、相手の同意なしで契約を一方的に解除できるとすると、相手にとっては多大な損失につながるおそれがあります。
契約解除が認められるには、法律が規定する法定解除か、当事者が契約書に規定した約定解除のいずれかの事由に該当する必要があります。
解除事由に該当しないにもかかわらず、一方的に契約の解除を主張して代金を支払わない相手には、債務不履行に基づく損害賠償を主張して、未払い代金などの損害を請求できる可能性があります。
一方的な契約解除を主張されてお困りの場合、まずはベリーベスト法律事務所 横浜オフィスにご相談ください。民事事件の経験が豊富な弁護士が、事態の解決に向けて尽力します。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています