下請法の対象取引は? 義務と禁止事項、書類の記載内容
- 一般企業法務
- 下請法 対象取引
下請法の対象となる下請取引は、業界ごとの取引慣習や親事業者の戦略によってさまざまな形で行われます。そのため、このような下請取引に対して実際にどのように下請法が適用されるのかは、事業者にとって関心が高いところでしょう。
特に下請法改正により下請取引の範囲は拡大してきおり、下請法に関する理解はより一層必要になってきています。
令和5年6月29日にも、横浜市に本社を置く家電量販店が下請法違反で公正取引委員会から勧告を受けました。下請法違反となると、公正取引委員会からの「勧告」や「指導」がなされたり、「50万円以下の罰金」が科せられたりするおそれがあります。
本コラムでは、下請取引の対象となる取引や対象となる場合の義務の内容・禁止事項などをベリーベスト法律事務所 横浜オフィスの弁護士が解説します。
1、下請法の対象取引
下請法とは、下請取引において下請業者が不当な扱いを受けないよう、公平な取引を目指して制定された法律です。
下請法の対象となる下請取引は主に4種類あります。それぞれの内容について確認していきましょう。
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(1)4種の下請取引と対象となるケース
下請法では、一定の取引を下請取引として定めています。下請法の対象取引には、以下の4種類があります。
① 製造委託
製造委託とは、製品、半製品、部品、付属品、原材料や金型などの物の製造を他の事業者に委託することです。製造には純粋に新しく物品を作り出すものだけでなく、加工も含まれます。【対象となるケース】- 自動車メーカーが販売する自動車の部品の製造を部品メーカーに委託
- スーパーマーケットを営業する小売事業者が、プライベートブランド商品に関する製造を食品業者に委託
- 出版社が、販売する書籍の印刷を印刷業者に委託
② 修理委託
修理委託とは、物品の修理を他の事業者に委託することです。自ら利用する物品の修理を業として行っている場合に、その業務を委託する行為も含みます。【対象となるケース】- 自動車販売業者が、顧客から請け負った自動車の修理を自動者修理業者に委託
- 製造業者が、工場で使用している工作機械の修理を自社で行っている場合にその修理の一部を修理業者に委託
③ 情報成果物作成委託
情報成果物作成委託とは、情報成果物を仕様や内容で指定したうえでその作成を委託することです。情報成果物には、以下のようなものが挙げられます。- アプリケーション、ゲームソフト等のプログラム
- 映画や放送番組などの動画
- デザイン、設計図、広告、コンサルティングレポート
【対象となるケース】- プログラム開発事業者が、消費者に提供するアプリケーションソフトの一部の開発を他の事業者に委託
- 広告業者が、作成を請け負う広告デザインの一部の作成をデザイン業者に委託
④ 役務提供委託 役務提供委託とは、事業者が他者に対して役務・サービスを有償で提供する場合に、その全部または一部を他の事業者に委託することです。修理委託と異なり、自らのために行う役務を委託する場合は含みません。
【対象となるケース】- 自動車販売業者が、顧客から請け負った自動車の整備を自動者整備業者に委託
- ソフトウエアを販売する事業者が、そのソフトウエアの顧客サポートサービスを他の事業者に委託
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(2)親事業者と下請事業者の資本金
下請法は、適用の対象となる事業者について、資本金(資本区分)によっても一定の要件を定めています。この要件に該当する事業者が、(1)の4種の取引のいずれかを行うと下請法の対象となります。
資本金の要件の内容は以下のとおりで、取引の内容によって大きく2つの組み合わせに分けられます。
製造委託・修理委託の場合親事業者 下請事業者 資本金3億円超の法人 ➡ 資本金3億円以下の法人
(または個人事業主)資本金1000万円超3億円以下の法人 ➡ 資本金1000万円以下の法人
(または個人事業主)
情報成果物作成委託・役務提供委託の場合
親事業者 下請事業者 資本金5000万円超の法人 ➡ 資本金5000万円以下の法人
(または個人事業主)資本金1000万円超5000万円以下の法人 ➡ 資本金1000万円以下の法人
(または個人事業主)
2、親事業者の4つの義務と11の禁止事項
取引が下請法の対象となった場合、親事業者には一定の義務と禁止事項が生じます。
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(1)3条書面の交付義務
親事業者は、下請事業者への発注に際して、取引の条件など一定の内容を記載した書面を交付することが義務付けられています。
下請法3条にこの義務が定められていることから、一般的にこの書面は「3条書面」呼ばれています。
この義務が定められているのは、以下の3つの問題に対応するためです。- ① 発注内容や支払い条件等が不明確なまま発注がなされ、業務が完了した後で取引条件が定められることになると、下請事業者に不利益がある
- ② 口約束だけだと後になって合意内容について争いが生じる可能性がある
- ③ 禁止事項である、親事業者による受領拒否、代金の減額、支払遅延、不当な返品などの有無を判断するためには、発注時の合意内容が明確になっている必要がある
3条書面に記載すべき具体的な内容については、「3、3条書面の記載事項」で詳しく解説します。
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(2)5条書類の作成・保管義務
親事業者は、下請事業者への発注に際して、その下請取引に関する事項を記載した書類を作成して保存しなければなりません。
下請法5条にこの義務が定められていることから、一般的にこの書面は「5条書類」呼ばれています。
5条書類は、親事業者にこれを作成して保存させることによって、親事業者自らが下請事業者との取引の状況について常に注意をさせることで、下請取引に関するトラブルを防止することを目的としています。また、公正取引委員会からの検査に迅速・正確に対応させることも期待できます。 -
(3)支払期日を定める義務
親事業者は、下請事業者への発注に際して、下請代金の支払期日を定める必要があります。
また、その支払期日は、親事業者が下請事業者からの委託業務の給付の受領後60日以内でできる限り短い期間としなければならないとされています。
もし、これに反して支払期日を定めなかった場合は、下請業務の給付の受領日が支払期日となります。また、委託業務の給付の受領後60日を超えて支払期日を定めた場合には、60日を経過した日の前日が支払期日となります(下請法第2条の2第2項)。 -
(4)遅延利息の支払い義務
親事業者は、商品や役務を受領した日から起算して60日を経過した日から支払いをする日までの期間について、未払金額に年率14.6%の遅延利息を支払う義務を負います(下請法4条の2、公正取引委員会「下請代金支払遅延等帽子法第4条の2の規定による遅延利息の率を定める規則」)。
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(5)禁止事項
① 受領拒否の禁止
親事業者は、下請事業者からの下請取引に関する給付の提供に対して、その受領を拒むことはできません。
下請事業者は、親事業者に受領をしてもらわなければ下請代金の請求ができません。そのため、せっかく下請業務を提供したにもかかわらず、親事業者が不当に受領しないことにより下請代金を請求できないということがないように、親事業者が受領を拒否することを禁止しているのです。
ただし、下請事業者の責めに帰すべき事由がある場合には、受領を拒否することができます。
たとえば、下請事業者から提供された給付の内容が発注されたものと異なっている場合です。この場合には、受領を拒否することは不当ではありません。
また、下請事業者からの委託業務の提供が納期に遅れてしまったために、委託業務の提供自体が不要となったような場合も受領を拒否することができます。
② 支払遅延の禁止
親事業者は、下請事業者への下請代金の支払いを遅延することができません。
この禁止事項については例外がなく、たとえば下請事業者からの請求書の発行の遅れや、検査が完了していないことを理由に支払いを遅延することも下請法違反となってしまいます。
注意が必要なのは、支払日は、委託業務を受領した日から60日以内でなければばらないということです。すでに解説したとおり、仮に60日を超えて支払期日を定めても、60日を経過する前日が支払期日となります。
この点に関して、支払の条件として納品締切制度ではなく検収締切制度をとっている場合は特に注意が必要です。
たとえば、支払いの条件として、「月末締め翌月末払い」という条件がよくとられます。納品締切制度の場合、納品がたとえば7月30日に行われた場合、7月末日で締めることになるので、支払日は8月31日になります。この場合、納品から60日以内の支払いとなるため問題はありません。
これに対して、検収締切制度をとったときには、7月28日に納品があっても、検査に時間がかかり、検収が完了するのが8月3日などになることがあります。この場合、8月末日で締めることになるため、支払日はさらに翌月の9月30日となり、納品から60日を超えてしまいます。
検収締切制度をとること自体は問題ではないのですが、この点を理解しておかないと気付かないうちに下請法違反となってしまう可能性があるため、注意をしましょう。
③ 減額の禁止
下請法の対象取引については、下請代金の減額をすることが禁止されています。センターフィ、事務手数料など別名目で料金を取るような行為も、減額に含まれます。これは、親事業者と下請事業者との間で合意があったとしても許されず、下請事業者の帰責性がある場合のみ、減額することができます。
受領拒否と同様に、下請事業者から提供された給付の内容が発注されたものと異なっているようなときなどには、減額をすることも許されます。
④ 返品の禁止
下請事業者に帰責性がないのに受領後に返品することを許してしまうと、受領拒否の場合と同様に、下請事業者が下請代金を受領する機会が不当に失われてしまうため返品も禁止されています。後に引きとることを約した一時的な返品であっても、規制対象です。
下請事業者に帰責性がある場合でも、実務上、返品が適法に行える期間は厳密に解されています。
⑤ 買いたたきの禁止
下請代金について、委託された業務の給付に支払われるべき通常の代金額から著しく低い代金を不当に定めることは、買いたたきとして禁止されています。
なお、減額は一度定めた代金通りに支払わない行為を指し、買いたたきは、価格決定時の行為に関する規制です。
⑥ 購入強制・利用強制の禁止
親事業者は、正当な理由がない限り、下請事業者に対して自己が指定する物の購入やサービスの利用を強制することはできません。
委託業務の品質を維持するために原材料や工具などを購入することを条件とするような場合には、正当な理由があるとされます。
⑦ 報復措置の禁止
下請事業者が親事業者の下請法違反について公正取引委員会や中小企業庁などに知らせたことに対して、下請取引の数を減らしたり中止したり不利益な取り扱いをすることは報復行為として禁止されています。
⑧ 有償支給財投の対価の早期決済の禁止
親事業者は、下請事業者に有償で支給した原材料等の対価を下請代金の支払いよりも早く決済することができません。
⑨ 割引困難な手形の交付の禁止
下請代金の支払いにつき、支払期日までに一般の金融機関による割引を受けることが困難な手形を交付することは禁止されています。割引を受けることが困難な手形とは、手形のサイトが120日、繊維業では90日を超えるものとされています。
⑩ 不当な経済上の利益の提供要請の禁止
親事業者が下請事業者に対して、自己のために金銭・サービスその他の経済上の利益を提供させることは禁止されています。
親事業者が下請事業者に協力金や協賛金等の名目で金銭を要求するようなことがあります。しかし、このようなことは下請代金の減額等と同じように、下請事業者の利益を不当に害することにつながるため、一律に禁止されています。
⑪ 不当な給付内容の変更・やり直しの禁止
下請事業者の帰責性がないのに、委託業務の給付の内容を変更したり、給付受領後に給付をやり直させたりすることは禁止されています。
3、3条書面の記載事項
3条書面に記載すべき事項は、以下のとおりです。
- ① 親事業者・下請業務者の名称
- ② 発注日
- ③ 発注内容
- ④ 納期
- ⑤ 納品場所
- ⑥ 親事業者が検査をする場合は検査を完了する期日
- ⑦ 下請代金の額または算定方法
- ⑧ 下請代金の支払期日
- ⑨ 手形で支払う場合は手形の金額(支払比率も可)・手形の満期
- ⑩ 一括決済方式で支払う場合は、金融機関名、貸付けまたは支払可能額、親事業者が下請代金債権相当額または下請代金債務相当額を金融機関へ支払う期日
- ⑪ 電子記録債権で支払う場合は、電子記録債権の額・電子記録債権の満期日
- ⑫ 発注者が受注者に原材料等を有償支給する場合は、その品名、数量、対価、引渡しの期日、決済期日、決済方法
3条書面は、特定の様式である必要はなく、内容として上記の記載事項が記載されていれば3条書面として認められます。そのため、契約書や発注書に上記記載事項を盛り込み、3条書面とすることも可能です。
4、下請法に関するお悩みは弁護士へ
下請法については、そもそも下請法の対象取引となるか、対象となった場合にどのようにすべきか、ケースによって対応が多岐にわたるため、悩ましいと感じる点が多いでしょう。
下請法を遵守するためには仕組みや業務フローをととのえることが大事です。下請取引を行う事業者においては早い段階から企業法務の実績がある弁護士に相談して適切な体制をととのえることをおすすめします。
また、下請として業務を引き受けている会社の場合、この取引は不当ではないかと気になる場面もあるかもしれません。そのような場合も、弁護士にご相談頂くことにより、相手方に対して取引の修正を求める提案を行う方法が見つかる可能性があります。
5、まとめ
本コラムでは下請法の対象取引・親事業者の義務を解説しました。冒頭の事例のように、下請法違反となると事業者名を公表される可能性があり、会社の評判・社会的評価の低下にもつながります。
ベリーベスト法律事務所 横浜オフィスでは、企業法務の実績がある弁護士が下請法に関するお悩みにも対応しております。気づかずにうっかりと違反をしてしまわないためにも、弁護士のアドバイスを受けながら、適切に下請取引を運用することをおすすめします。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています