外国人労働者を受け入れ時に気を付けることとは? 雇用主として知っておくべきこと
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平成30年10末現在、全国の外国人労働者数は約146万人(前年同期比14.2%増加)、受け入れ先の事業所数は約21万6000ヶ所(前年同期比11.2%増加)と、いずれも過去最高を記録しています。神奈川県においても約7万9000人(前年同期比10.5%増加)の外国人労働者を約1万4000ヶ所(前年同期比10.5%増加)で雇用しています。いずれも過去最高の数値です。
空前の人手不足と今後の少子高齢化進展を控えるなか、労働力不足という経営上の問題について外国人労働者の受け入れに活路を見いだそうとする雇用主は少なくありません。しかし、日本人労働者と異なり外国人労働者の受け入れには特有のルールがあり、その対応を誤ると思わぬトラブルに発展することが考えられます。
そこで本コラムでは、外国人労働者を受け入れるときに最低限知っておきたいルールについて、直近の法改正なども踏まえながらベリーベスト法律事務所 横浜オフィスの弁護士が解説します。
1、外国人労働者の受け入れは日本のメガトレンド
諸外国に例をみないスピードで少子高齢化が進展している日本では、人口構造の大幅な変化にともない労働者人口の現象が予測されています。労働力が減少すると国内総生産(GDP)が減少するわけですから、これは国力そのものの衰退を意味します。
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(1)外国人労働者受け入れは政府の施策
これを問題視する政府は、施策として企業に外国人労働者受け入れの施策を奨励しています。たとえば、平成29年3月に策定された「働き方改革実行計画」では、9つの検討テーマのひとつに「外国人材の受け入れ」が掲げられています。これは、少子高齢化問題への対応施策として経済・社会基盤の持続可能性を確保するため、必要な分野に着目して外国人労働者の受け入れのあり方を検討したものです。また、平成30年の「未来投資戦略2018」には「新たな外国人材の受け入れ」が明記されています。
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(2)外国人労働者を対象とした助成金制度
少子高齢化対策の一環として外国人労働者の積極的な受け入れの促進を目指す政府は、単なる呼びかけだけでなく助成金という形で、雇用主の外国人労働者受け入れを奨励しています。
雇用主が受け取ることができる助成金のうち外国人労働者が対象となるものは、雇用調整助成金と中小企業緊急雇用安定助成金があります。
雇用調整助成金とは、企業の業況悪化時に労働者を解雇せず、一時的な休業や配置転換のための職業訓練、あるいは他社への出向というような雇用調整により雇用を維持したときに国から支給される助成金であり、外国人労働者に対する雇用調整にも支給されます。助成率は中小企業であれば3分の2、大企業であれば2分の1です。
また、中小企業緊急雇用安定助成金とは中小企業が対象であり、雇用調整助成金と同じく休業・職業訓練・出向により雇用を維持したときに支給されます。助成率は5分の4から10分の9と、雇用調整助成金よりも高く設定されています。 -
(3)平成31年、新しい在留資格が創設
平成31年、「出入国管理及び難民認定法及び法務省設置法の一部を改正する法律」(改正入出国管理法)が施行され、一定の技能水準と日本語能力を持つ外国人を対象に、新しい在留資格として「特定技能1号」「特定技能2号」が新設されました。
特定技能1号は、特定分野(14業種を予定し、省令で規定)で各所管省庁が定めた定めた試験により一定の知識や技術があると認められており、かつ生活に支障がないレベルの日本語能力を有していることが要件とされています。なお、技能実習制度を終えた外国人については、特定技能1号に認定されるための試験が免除されます。また、特定技能2号は特定分野で熟練した技能を有していることが要件です。
雇用については、特定技能1号・特定技能2号ともに日本人労働者と同等の賃金水準であることはもちろんのこと、直接雇用が原則です。さらに、同じ分野・業種であれば転職も可能です。なお、特定技能1号は滞在期間は最長5年・家族帯同が不可であることに対して、特定技能2号は長期滞在も家族帯同も可能です。医療保険の対象となる扶養家族については、令和2年4月から日本国内に居住していることを要件とするように法律の改正が予定されています。
2、外国人を雇用する上で知っておくべきルール
日本国内で就労している以上、採用や雇用管理などにおいて外国人労働者には日本人労働者と同じように労働基準法や最低賃金法などの労働関係法令、および健康保険法や厚生年金保険法などの社会保険関係法令が適用されます。
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(1)日本人労働者と同等の雇用管理と再就職支援
当然のことながら、不当な解雇が禁止されています。さらには、経営上の理由からやむを得ない解雇を行った際の再就職支援についても日本人労働者と同様の扱いが求められています。
それにもかかわらず、いまだに外国人労働者と日本人労働者は国籍が違うから処遇は異なっても問題ないと考えている雇用主がいるようです。なかには、雇用主が日本人と外国人の言葉の壁や情報の非対称性を悪用していると思われる事例も報告されています。
もし外国人労働者だからという理由で、雇用主が労働関係法令や社会保険関係法令に違反するような処遇を行った場合、当然ながら当該法令に基づいた罰則が科されます。なお、外国人労働者に対して雇用主が必要とされる雇用管理などについては、厚生労働省の「外国人労働者の雇用管理の改善等に関して雇用主が適切に対処するための指針」において示されています。 -
(2)在留資格の確認義務
外国人労働者を雇用する際は、雇用主に当該外国人労働者が不法就労に該当しているかどうか確認することが義務付けられています。 採用を検討している外国人が不法就労か否かをチェックする主なポイントは、以下のとおりです。
- 密入国者であること
- 就労ビザがいらない「短期滞在」などの在留資格で入国しているにもかかわらず、在留期限が切れたあとも日本に滞在していること
- 強制退去が決まっていること
- 会社の事業内容または職種と、入国管理局から認められた在留資格が異なること(在留資格が技能職なのに、単純労働に従事するケース)
- 留学生や難民認定申請中であるにもかかわらず、就労許可を得ていないこと
- 留学生であるにもかかわらず、就労を予定している時間が許可された時間を越えていること
上記のような外国人を雇用すると、雇用主が不法就労助長罪が問われるおそれがあります。出入国管理及び難民認定法第73条の2の規定により3年以下の懲役または300万円以下の罰金が科されます。
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(3)雇用および離職時の届け出義務
労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律(労働施策総合推進法)第28条では、外国人雇用状況の届け出等について定めています。具体的には、外国人労働者を雇用する雇用主に対して外国人労働者の雇用および離職の際は以下の諸点を確認し、「外国人雇用状況届出書」を厚生労働大臣(実務上はハローワーク)に届け出なければならないと規定しています。
- 氏名
- 在留資格
- 在留期間
届け出の内容については、外国人労働者から在留カードや旅券(パスポート)の提示を受けることで確認する必要があります。この届け出を怠ったり、あるいは虚偽の届け出を行ったりすると、同法第40条の規定により30万円以下の罰金が科されます。
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(4)社会保険の加入義務
「外国人労働者の雇用管理の改善等に関して雇用主が適切に対処するための指針」では、社会保険の被保険者に該当する外国人労働者に対して必要な手続きをとらなければならないとされています。つまり、日本の厚生年金保険・健康保険・雇用保険・労働者災害補償保険などの社会保険については、外国人労働者や外国人技能実習生も加入させることが雇用主に義務付けられているのです。
ただし、「社会保障協定締結国」から来日している外国人労働者については、社会保険の加入義務が免除される場合があります。しかし、社会保険制度は原則として就労している国の制度に加入する義務があるのです。
したがって、場合によっては以下のような問題が発生することがあります。- 本国でも社会保険料の支払いが義務付けられている場合、社会保険料が二重払いになる
- 就労国での就労期間が短く、就労国での厚生年金保険など社会保険制度の受給資格期間を満たせない場合、就労国で支払った保険料が掛け捨て、つまり払い損になる
このような外国人労働者の不利益を防ぐため、令和元年7月現在、日本は欧米諸国を中心に22ヶ国と社会保障協定を締結、19ヶ国と発行済みです。
社会保障協定の適用は、年金窓口(日本年金機構)に外国人労働者の本国で発行された「適用証明書」を提出し、申請します。ただし、社会保障協定の内容は締結先の国によって異なるため、事前に確認が必要です。
3、雇用主に法令違反が認められると?
もし、雇用主の労働関係法令および社会保険関係法令の違反を訴えた労働調停や労働審判、さらには民事訴訟を提起されると、それに対応するための人件費や弁護士費用などのコストが発生します。また、民事訴訟は、民事訴訟法第91条の規定により企業名や訴訟内容などが公開されます。
さらに、雇用主による法令違反の事実が認められたことにより労働基準監督署によって送検された場合は、地域の労働局により「労働基準関係法令違反に係る公表事案」として会社名や事案概要が公表されてしまいます。
これによってブラック企業や反社会的企業のレッテルを貼られた結果、外国人・日本人を問わず新たな従業員の採用が難しくなる可能性は高まるでしょう。さらには、公表事案に該当する会社との取引を禁止している企業からは取引を打ち切られてしまう可能性も考えられます。
この結果、最悪のケースとして会社の存続すら危ぶまれることもあり得ることを覚えておきましょう。
4、まとめ
外国人労働者に対する制度や各種法令は頻繁に改正などが行われ、年々複雑化しています。労働関係法令や社会保険関連法令についても同様です。ただでさえ本業が人手不足のなか、雇用主や人事労務の担当者など実務に携わる方にとって、これらの改正・新制度をタイムリーにキャッチアップすることは決して容易なことではないでしょう。
経営者にとって、外国人労働者や労働関係、社会保険に関する各種法令や制度に知見がある弁護士は心強いパートナーになります。さらに、弁護士であればトラブルの対応に関しても委任できるため、経営者としての業務だけに収集することが可能です。まずはベリーベスト法律事務所 横浜オフィスへお気軽にご連絡ください。外国人労働者の雇用を検討している会社、あるいはすでに雇用している会社にとってベストな相談先となるでしょう。
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