外国人留学生をアルバイト採用するときに気をつけたいポイントとは
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横浜市の行政書士事務所で働くフィリピン人の女性労働者が、勤務先の代表者にパスポートを取り上げられて返してもらえないという事件がありました。この女性はもともと日本語学校に通う留学生として来日し、卒業後は最初の2週間はアルバイト、その後は契約社員として働いていたそうです。
この事件のように、外国人留学生をアルバイトとして採用する場合には、気をつけたいポイントがあります。それはどんなことでしょうか。
1、外国人労働者・外国人留学生の概況
近年、コンビニや飲食店などで、外国人が働いているのをよく見かけるようになりました。それは、日本で働く外国人が年々増えていることが背景にあります。ここでは、外国人労働者や外国人留学生の概況について解説します。
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(1)外国人労働者・外国人留学生は年々増加傾向
外国人労働者は、平成26年には約79万だったのが平成30年には146万人と約2倍に増えています。外国人留学生も、平成23年から平成30年にかけて、約16万人から約30万人へとおよそ2倍になりました。平成31年1月に日本学生支援機構が発表した調査によれば、男女別割合では男性が16万7000人、女性が13万1000人で、男性の方がやや多くなっています。
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(2)アジアからの留学生が多い
先ほどの日本学生支援機構の調査によれば、出身地域別の外国人留学生の割合は、アジア地域が93.4%と圧倒的多数を占めました。国籍別にみると、多い順に中国が38.4%、ベトナムが24.2%、ネパールが8.1%、韓国が5.7%、台湾が3.2%となっています。中国・ベトナム出身の留学生だけで6割以上占めていることがわかります。
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(3)業種別では宿泊業・飲食サービス業が最多
では、外国人留学生はどの業界でアルバイトをしている人が多いのでしょうか。厚生労働省の調べによれば、宿泊業・飲食サービス業が36.6%の割合と最も多く、続いて卸売業・小売業が20.6%、製造業が9.0%の順になっています。この結果を見ると、ホテルやファーストフード店、ファミリーレストラン、コンビニなどで外国人の店員を見かけることが多いのもうなずけるのではないでしょうか。
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(4)「留学生30万人計画」が背景に
ここまで外国人留学生が急増したのは、日本政府が留学生の受け入れ政策を積極的におし進めていることが背景にあります。政府は、2020年までに留学生を30万人に増やすという「留学生30万人計画」を2008年に発表しました。それに伴い、毎年留学生がアジア地域を中心に世界各地からやってくるのです。留学生が日本にやってくる理由としては、高いレベルの教育が受けられる、日本語を学ぶことが将来のキャリアアップにつながる、留学費用が他国に比べて安価である点があげられています。
2、外国人留学生を採用するための条件は?
外国人留学生はたいていの場合、留学ビザを申請し、「留学」の在留資格を得て来日します。留学期間中には学費や生活費の捻出のためにアルバイトをしたいと考える学生もいますが、入管法上「留学」では原則として就労が認められていません。では、外国人留学生をアルバイト採用するためには、どのような条件をクリアする必要があるのでしょうか。
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(1)「資格外活動許可」を受けている
外国人をアルバイト採用するには、その留学生が入国管理局から「資格外活動許可」を受けていることが必要です。資格外活動許可とは、本来の在留資格でできる活動を阻害しない範囲内でほかの活動ができるようにする許可のことです。したがって、留学生は原則として就労はできないものの、この「資格外活動許可」があれば一定の範囲で働けるのです。
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(2)ハローワークへ外国人雇用状況届出書を提出している
法律上、全事業主は、外国人留学生の雇入時と退職時にハローワークへの届出が義務付けられています。雇用した者の氏名や在留資格、在留期間などを外国人雇用状況届出書に記入し、ハローワークへ提出します。届出は外国人雇用状況報告システムを使って電子申請で行うことも可能です。
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(3)働ける時間は週28時間まで
外国人留学生が働ける時間は、週28時間までと制限が設けられています。所定労働時間だけでなく残業時間も含めて週28時間までしか仕事ができないため、会社側は留学生の就業時間をしっかり把握しなければなりません。夏休みなど学校が長期で休みになる期間は,例外的に1日8時間以内、週40時間まで仕事ができるようになっていますが、これも残業時間を含んでいるので注意が必要です。
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(4)外国人留学生がしてはいけないアルバイトとは
外国人留学生は、風俗営業関連のお店でのアルバイトが禁止されています。デリバリーヘルス(デリヘル)やソープランドなどの性風俗店だけでなく、パチンコ店やゲームセンター、麻雀店、スナック、クラブ、料亭なども風俗営業にあたります。これらのお店では外国人留学生を採用することはできないため、注意しましょう。
3、外国人留学生のアルバイトを採用する際の注意点
外国人留学生をアルバイトとして迎え入れるときには、日本人を採用するときとは違った法律上の規定があります。規定を守らなければ会社側にも留学生側にもリスクが生じることになりますが、具体的にどのようなことに注意すればよいのでしょうか。
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(1)資格外活動許可を受けているかどうかを確認する
まず、アルバイト採用面接の際に、留学生に資格外活動許可を受けていることを確認しましょう。パスポートに貼付されている証印シール、もしくは交付されている資格外活動許可書で確認することができます。中長期在留者の場合は、在留カードの裏に許可を得ている旨が記載されています。もし、許可をまだ受けていない場合は、雇用契約の前に必ず受けてもらうようにしましょう。
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(2)雇用契約書や労働条件通知書を作成する
外国人労働者には、日本の労働基準法や労働契約法などの各種労働法規が適用されます。アルバイト採用であってもそれは同じです。そのため、採用面接をして内定を出したら、雇用契約書や労働条件通知書を作成し、採用する外国人留学生に交付することが必要です。これらの書類は、できれば留学生の母国語で作成することがのぞましいとされています。
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(3)母国語の就業規則やマニュアルを用意する
特に複数の外国人留学生を採用する際は、母国語で書かれた就業規則やマニュアルを用意するとよいでしょう。後々のトラブル防止のため、その就業規則には、雇用期間をはっきり定め、資格外活動許可など必要な許可を得ていない場合は雇用を継続することができないので労働契約が消滅することを明記しておくことが必要です。
就業規則は、特定の職種や雇用形態(アルバイト・パートのみなど)に適用されるものであればよいのですが、外国人のみに適用されるものは国籍による差別にあたるとして禁止されていますので、その点も留意しておきましょう。 -
(4)外国人留学生のために労災保険に加入する
外国人留学生のアルバイトは、健康保険や厚生年金保険、雇用保険については原則的に条件を満たさないため加入は不要です。しかし、勤務中もしくは通勤途中のケガや病気に備えるために労災保険には加入しなければなりません。そのため、外国人留学生に支払われる賃金も保険料算出のための賃金に参入することが必要です。
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(5)労働時間の上限を超えないようにする
先述のとおり、外国人留学生が働けるのは原則として週28時間(学校の長期休業期間中は週40時間)までです。そのため、採用時にダブルワークをしていないかどうかを確認し、可能であればダブルワークをしていないことに関する誓約書を書いてもらいましょう。もしダブルワークをしているときは、もうひとつの勤務先での勤務時間を報告させ、週28時間を超えないように所定労働時間を調節します。
4、法律違反をしたときに受けるペナルティは?
上記のように、外国人留学生を雇用する際には、日本人の学生を雇用するときとは異なるルールがあるので、慎重に採用手続きを進めなければなりません。注意事項を守らなかった場合、企業側にも外国人留学生にもペナルティが生じるリスクがあります。ここでは、それぞれが受ける可能性のあるペナルティについて解説します。
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(1)企業側が受けるペナルティ①雇用対策法違反
外国人留学生をアルバイト採用する際にハローワークへの届出を怠った、または届出時に虚偽の届出をした場合は、雇用対策法第38条第2項違反となります。この法律に違反した企業には、30万円以下の罰金が科せられます。
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(2)企業側が受けるペナルティ②不法就労助長罪
資格外活動許可のない留学生を働かせたり、外国人留学生を週28時間(学校の長期休業期間中は週40時間)以上働かせた場合は、企業が不法就労助長罪に問われます。雇用主は、3年以下の懲役もしくは300万円以下の罰金に処せられますが、これらが併科されることもあります。また、会社の代表者だけでなく、人事責任者である店長もこれらの刑罰が科されることがあるため、留学生の労務管理には細心の注意を払うことが必要です。
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(3)外国人留学生が受けるペナルティ①資格外活動許可が取り消される
外国人留学生は本来勉強をするために来日しているため、アルバイトをする場合でも学業に支障をきたさない範囲である週28時間(学校の長期休業期間中は週40時間)以内にとどめなければなりません。また、外国人留学生の就労が認められていない業種もあります。これらの規定に違反した場合、資格外活動許可が取り消される可能性があります。
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(4)外国人留学生が受けるペナルティ②退去強制の対象になることも
上記の規定に違反した場合は不法就労となるため、在留期間が短縮されたり、在留期間の更新ができなくなることがあります。また、退去強制の対象となり、母国へ強制送還される可能性もあります。そうなると、その後5年間は日本に再入国ができなくなるため、外国人留学生はもちろん、アルバイト採用をした企業にとっても大きなダメージとなることが予想されます。
5、まとめ
昨今では小売業界や飲食業界で人手不足が深刻になっており、外国人留学生をアルバイト採用することで、少しでも人手不足を解消しようと考える企業が多くなっています。しかし、アルバイトとして留学生を迎え入れる際に法令違反があれば、事業主に刑事罰が科されるだけでなく、留学生自身も退去強制されるリスクがあります。そのため、きちんとルールに則った採用活動を行うことが非常に重要です。
ベリーベスト法律事務所 横浜オフィスでは、外国人および外国人留学生の採用に関するご相談を受け付けています。外国人と日本人とでは採用の際の手続きが異なりますし、慣習の違いから日本人と外国人労働者との間でトラブルが発生することもあります。トラブルの未然防止のためにも、外国人留学生の採用に際しお困りのことがありましたら、当事務所までお気軽にご相談ください。
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