もらい事故で慰謝料を交渉する際の注意点は? 相場や計算方法も解説

2022年01月20日
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もらい事故で慰謝料を交渉する際の注意点は? 相場や計算方法も解説

令和2年の横浜市内の交通事故統計によれば、交通事故の発生件数は7398件でした。このうち、車両間で起きた事故の中で“追突”が最も多く、1563件発生しています。

被害者にまったく過失のない交通事故を、通称“もらい事故”といいますが、代表的なもらい事故は、一方的な追突事故や赤信号無視です。

もらい事故によって死傷した場合は、加害者側に慰謝料を請求することができます。その一方で、もらい事故の被害者は、一般的な交通事故とは異なる対応も必要となる可能性があるため注意が必要です。

今回は、もらい事故における慰謝料請求やもらい事故の特徴について、ベリーベスト法律事務所 横浜オフィスの弁護士が解説します。

1、もらい事故とは?

もらい事故の定義と具体的なケースを解説していきます。

  1. (1)もらい事故の定義

    もらい事故とは、事故の被害者の側に過失がない交通事故のことです。ここでいう“過失”とは主に事故についての責任のことです。

    事故の加害者、被害者にそれぞれどの程度の過失があるかを示したものを過失割合といいます。

    通常の交通事故の場合、被害者と加害者の双方に過失が認められます。たとえば、進路変更をした車と後続で直進してきた車が接触して交通事故になった場合、進路変更をした車に7割、後続直進車に3割の過失割合が認められるのが一般的です。

    もらい事故は、この割合が10対0で被害者側に一切の責任がない状態のことを指します

  2. (2)もらい事故の具体的なケース

    一般にもらい事故に該当する交通事故として、以下のようなケースがあります。

    • 路肩に停車していたところ、加害者の車が突然追突してきた
    • 法定速度で走行していたところ、後続車に追突された
    • 道路を走行していたところ、センターラインを越えてきた加害者の車と正面衝突した
    • 自分の信号が青で右折したところ、赤信号を無視して走行してきた対向車に衝突した
    • 信号待ちをしていたところ、後続車に追突された

2、もらい事故で慰謝料請求はできる?

もらい事故を含めた、交通事故における慰謝料請求の基礎知識を解説します。

  1. (1)交通事故における慰謝料とは

    もらい事故をはじめ、交通事故における慰謝料とは、さまざまなケースの交通事故によって負った精神的苦痛に対する損害賠償金のことです。交通事故の被害にあって死傷することで、被害者は恐怖や苦痛などを感じます。それによって被る精神的な苦痛を慰撫(いぶ)するものとして、慰謝料が支払われます。

    交通事故の被害にあった場合でも、必ず慰謝料が発生するわけではありません。交通事故には物が損壊しただけの物損事故と、人が死傷した人身事故があります。このうち、慰謝料が発生するのは人身事故だけです。物損事故の場合に慰謝料は発生しません。

    物損事故で大切な物が壊れてしまった場合は苦痛を感じるかもしれませんが、基本的には慰謝料は発生しません。物が壊れた損害については、修理費用や時価相当額の賠償によって清算されます。

  2. (2)交通事故で請求できる慰謝料は3種類

    交通事故の被害を受けた場合に請求できる慰謝料は3種類あります。入通院慰謝料、後遺症慰謝料、死亡慰謝料です。それぞれの概要を解説します。

    ● 入通院慰謝料
    入通院慰謝料とは、交通事故を原因とする負傷を治療するために入通院をした場合に、入通院によって被った精神的苦痛を慰撫するための慰謝料です。傷害慰謝料と呼ばれることもあります。

    負傷によってどの程度の精神的苦痛を被ったかを事例ごとに判定するのは困難です。そのため、入通院慰謝料の金額の大小を決める目安となるのは、入通院に要した期間の長さです。入通院に要した日数が長いほど、基本的に受け取れる金額は高くなります。

    また、入院と通院を比べた場合、一般に入院のほうが負傷の程度や精神的な負担が高くなるため、同じ治療期間であれば基本的に入院のほうが慰謝料は高額になります。

    ● 後遺障害慰謝料
    後遺障害慰謝料とは、交通事故の負傷によって後遺障害が残ってしまった場合に認められる慰謝料です。後遺症慰謝料と呼ばれることもあります。

    交通事故における後遺障害とは、後遺症のうち交通事故を原因とし、かつ労働能力の低下または喪失が認められるものです。

    後遺障害には全部で14の等級があり、等級ごとにどのような症状が該当するかが規定されています。後遺障害の等級は症状がもっとも重い1級から、もっとも軽い14級まであり、症状が重い等級ほど、一般に後遺症慰謝料の金額が高額になります。

    ● 死亡慰謝料
    死亡慰謝料は交通事故で被害者が亡くなった場合に支払われる慰謝料です。

    基準によって、死亡慰謝料が亡くなった本人に認められるものと、遺族に認められるものに分かれる場合がありますが、被害者が亡くなっていることから、実質的な受取人は遺族になります。

    また、基準によっては被害者が生前にどのような立場であったかによって、受け取る金額が異なります。被害者が一家の生活の主柱であった場合、母親や配偶者であった場合、その他の場合の3種類があります。

3、もらい事故の慰謝料の相場と計算方法

もらい事故の慰謝料の相場と計算方法について、3つの基準とともにご紹介します。

  1. (1)慰謝料の計算基準は3つある

    交通事故の慰謝料は事故による精神的苦痛に対して支払われるものですが、事案ごとに精神的苦痛を算定するのは困難です。そのため、交通事故の慰謝料には大体の相場としての計算基準があります。

    交通事故の慰謝料の計算基準は3種類あるのが特徴です。自賠責基準、任意保険基準、裁判所基準です。それぞれの特徴と計算方法の概要をご紹介します。

  2. (2)自賠責基準

    自賠責基準とは、強制加入の保険である自賠責保険(自動車損害賠償責任保険)をもとに定められている慰謝料の計算基準です。自賠責保険基準と呼ばれることもあります。

    自賠責保険は交通事故の被害者の最低限の救済を目的とするものであることから、自賠責基準は3つの基準の中では慰謝料の金額がもっとも低いのが特徴です。

    自賠責基準における入通院慰謝料の計算方法は、治療開始から終了までの総日数または実際の入通院の日数の2倍のうち、いずれか少ない日数に4300円を掛けて計算します。

    たとえば、治療開始から終了までの日数が40日で、実際の入通院の日数の2倍が50日の場合、40日に4300円をかけるので、自賠責基準の入通院慰謝料の金額は17万2000円になります。

  3. (3)任意保険基準

    任意保険基準とは、自動車保険の保険会社がそれぞれ独自に定めている慰謝料の計算基準です。任意保険基準は基本的に公開されていないため、具体的な計算方法はありません。

    任意保険基準の慰謝料の金額は各保険会社によって異なりますが、一般的な傾向としては自賠責基準と同じかやや高く、裁判所基準よりは金額が低くなります。

  4. (4)裁判所基準

    裁判所基準とは、弁護士が交渉に用いる場合や、裁判で慰謝料を算定する場合などに適用される慰謝料の計算基準です。弁護士基準と呼ばれることもあります。

    裁判所基準の特徴は、3つの慰謝料基準の中では金額がもっとも高いことです

    裁判所基準の入通院慰謝料は表形式になっています。入院にかかった月数と通院にかかった月数の組み合わせで金額が決まります。表は別表1と別表2の2種類があり、負傷の内容によって使い分けます。

    (参考:もらい事故の慰謝料の計算方法

4、もらい事故の交渉における注意点

もらい事故について加害者側と交渉する際、注意点があります。以下より解説します。

  1. (1)被害者側の保険会社は示談代行できない

    自動車保険のほとんどは示談代行サービスが付帯されています。交通事故に遭った場合に、保険会社が相手側と示談交渉をしてくれるサービスです。

    ところが、自分に過失のない、もらい事故の場合は示談代行サービスを利用することができません。

    被害者側も保険金を支払う必要がある場合は、保険会社にとっても自社の利益に関わるため、示談交渉を代行します。しかし、被害者に過失がない場合は、被害者側の保険会社が保険金を支払う必要がなく、保険会社としての交渉は必要ないとされるからです。

    さらに、保険金を支払う必要がない場合に保険会社が示談交渉を代行すると、弁護士法における非弁活動の禁止規定違反になってしまいます。そのため、もらい事故においては被害者側の保険会社は示談交渉を代行できません。

    そのため、もらい事故では、被害者自身が加害者側と示談金などの交渉をしなければなりません

  2. (2)過失割合を主張される場合がある

    もらい事故は被害者に過失がないのが通常ですが、加害者側から被害者にも過失があったと主張される場合があります。過失ありとされた場合、過失割合に応じて被害者が請求できる損害賠償の金額が減額されてしまいます。

    たとえば、当初は加害者の過失が10割のもらい事故だと思っていたところ、加害者が主張する過失割合を認めて被害者の過失が3割になった場合、損害賠償の全額が100万円だとすると、加害者に請求できるのは7割の70万円になってしまいます。

    過失割合を主張される例として、先行していた被害者の車が後続の加害者に追突された事例において、被害者が急ブレーキをかけたから過失があるなどです。

    双方が主張する過失割合に争いがある場合、事態を収拾するのは困難になります。必要に応じて弁護士に相談するなどの対策が重要です。

  3. (3)悩む前に弁護士に相談を

    自分に過失のないもらい事故の場合、保険会社が代行できないので被害者自身が加害者側と示談交渉することになります。話し合いでスムーズにまとまればよいのですが、慰謝料の金額や過失割合などで争いがある場合はなかなか解決に至らない場合もあります。

    そのため、自力での交渉は一般に困難といえるでしょう。

    もらい事故で交渉が難しい場合は、まずは弁護士に相談してみましょう弁護士が介入することで、保険会社との交渉もスムーズに進む可能性が高まりますまた、裁判所基準での慰謝料の獲得も期待できるでしょう

    なお、弁護士費用が心配な場合は、自動車保険に弁護士費用特約があるか確認してみましょう。弁護士費用特約がついていれば、交通事故に関して弁護士費用の負担なく依頼できる可能性があります。

5、まとめ

被害者に過失のない交通事故をもらい事故といいます。交通事故によって精神的苦痛を受けた場合、慰謝料を請求することができます。交通事故の慰謝料は入通院慰謝料、後遺症慰謝料、死亡慰謝料があります。

交通事故の慰謝料はだいたいの相場として3つの基準があります。自賠責基準、任意保険基準、裁判所基準です。このうち、慰謝料の金額がもっとも高くなるのは裁判所基準です。

被害者に過失のないもらい事故の場合、被害者側の保険会社は示談交渉を代行することができません裁判所基準で慰謝料を請求したい場合などは、弁護士に依頼する必要性が高くなります

もらい事故の慰謝料などでお悩みの方は、ベリーベスト法律事務所 横浜オフィスにご相談ください。交通事故の経験豊富な弁護士が、事故トラブルの解決のためにサポートいたします。

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