一気飲みの死亡事故(アルハラ)は罪に問われるか? 弁護士が解説
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忘年会シーズンや歓送迎会シーズンになると、大学生や社会人がアルコールの一気飲みによって緊急搬送されるというケースは少なくありません。
2012年には、東京大学の学生サークルの飲み会にて、当時21歳の学生が急性アルコール中毒で死亡しました。
飲んだお酒はアルコール度数が約25%の焼酎原液であり、それを1.1リットルも飲んでいたという悲惨な死亡事故です。
アルコールの一気飲みは、場合によっては飲酒した者を死に至らせます。
今回は、一気飲みをさせ死亡事故を起こしてしまった場合、飲ませた者がどのような罪に問われるのかを解説します。
1、お酒の一気飲みを強要した場合に問われる可能性のある刑罰とは?
急性アルコール中毒とは、大量のアルコールを短時間に摂取することにより、血中のアルコール濃度が急激に上昇し、一気に「泥酔」や「昏睡」状態に陥ることを言います。
場合によっては、呼吸困難となり死亡するケースも多々あります。
一気飲みをさせた場合、または周りで一気飲みをあおった場合には、どのような罪に問われるのかを見ていきましょう。
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(1)アルコールハラスメントとは
アルコールの一気飲みを強要することは「アルハラ(アルコールハラスメント)」と呼ばれています。
飲み会の席で場を盛り上げるゲーム感覚、サークルなどの伝統行事などでアルコールの「一気飲み」、新人へ「俺の酒が飲めないのか」と無理やりすすめるケースなどがありますが、一気飲みは急性アルコール中毒に陥り、死亡事故につながり兼ねない重大な危険行為です。
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(2)強要罪
アルコールの一気飲みを強要すると「強要罪」に該当するおそれがあります。
この強要罪が成立する条件として、「生命、身体、自由、名誉もしくは財産に対して害を加えることを告知して脅迫」または「暴行」するなどの行為があった上でお酒を強要した場合です。
強要罪が成立すると、3年以下の懲役に処せられます。
たとえば、「押し売り」や「土下座」などであっても、義務でないことを強要し、脅迫・暴行を用い、身体や名誉などに危害を加える行為であった場合には、強要罪に該当する可能性が高いです。
脅迫や暴行などしていないという場合であっても、意図的に飲酒を強要した、または酔い潰したなどの場合には、下記の刑罰に該当するおそれがあります。 -
(3)傷害罪・傷害現場助勢罪
強要罪のように脅迫や暴行を伴わない場合でも、アルコールの一気飲みをさせた結果、急性アルコール中毒となってしまったという場合には、「傷害罪」にあたる可能性があります。
会社の飲み会などで上司から部下へ無理やり一気飲みをさせる場合だけでなく、飲まなければならない雰囲気を作っただけでも傷害罪にあたる可能性はあります。
傷害罪が成立すると、15年以下の懲役、または50万円以下の罰金に処せられます。
傷害罪と言うと、一般的には「相手に怪我を負わせた場合の罪」というイメージが強いですが、たとえば3精神的苦痛を与えて精神疾患を患わせた場合などでも該当します。
また、刑法第60条・61条・62条・206条に記載されているように、上司の一気飲みを止めなかった者や周りであおった者も「傷害罪の共犯」、もしくは「傷害現場助勢罪」として罰せられる可能性があります。
傷害罪の共犯が成立すると、共犯の態様によって、正犯と同じく15年以下の懲役または50万円以下の罰金か、それが減軽された刑に処せられます。
そして、傷害現場助勢罪が成立すると、1年以下の懲役、または10万円以下の罰金に処せられます。
一気飲みをせざるを得ない状況、一気飲みをさせられている光景、思い当たるという方は周りにいる者も罪に問われる可能性を覚えておきましょう。 -
(4)傷害致死罪・過失致死罪
一気飲みをさせた結果、飲まされた者が死に至った場合には、「傷害致死罪」や「過失致死罪」に該当するおそれがあります。
傷害致死罪とは、一気飲みはさせたが結果的に死亡するとは思わなかった場合に該当します。
法定刑は、3年以上の有期懲役となります。
傷害罪と比較すると、罰金がなく、懲役が最低でも3年ある点において、より罪が重くなっていることが分かります。
そして、過失致死罪とは、死亡させる意図がない過失の状態で死亡させてしまったと判断された場合に成立します。
法定刑は、50万円以下の罰金に処せられます。
一見すると、過失致死罪は罪が軽いようにも感じますが、これはあくまで誰が見ても過失であった場合に限ります。
一気飲みを順番に行っていた、罰ゲームでやることになっていたなど、明らかに一気飲みをさせる意図があったと判断される場合には、罰金では済まない可能性が高いでしょう。 -
(5)保護責任者遺棄致死罪
保護責任者遺棄致死罪とは、酔い潰れて介抱が必要な者を置き去りにし死亡させた場合の罪です。
冒頭でご紹介した事件が、まさにこのようなケースに該当します。
保護責任者遺棄致死罪が成立すると、3年以上20年以下の懲役となります。
たとえば、子どもに食事を与えず衰弱死させた場合や、介護を必要とする老人を放置し死亡させた場合なども該当します。
また、一気飲み後の放置は保護責任者遺棄致死罪では済まず、場合によっては「殺人罪」に問われる可能性もあります。
加害者側に殺意があったかどうかがポイントとなり、被害者が「アルコール依存症だと知っていた」「明らかな致死量のアルコールだった」などの場合には、保護責任者遺棄致死罪では済まないかもしれません。
アルコールの一気飲みによる死亡事故については、状況によりさまざまな刑罰が該当します。
具体的な量刑や刑期については、一気飲みの悪質加減、前科の有無など、ケースバイケースで異なります。
一気飲みをさせた結果、相手が死亡してしまったなどの場合には、すぐに弁護士に依頼することをおすすめいたします。
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2、損害賠償請求される可能性がある
冒頭でご紹介した死亡事件では、死亡した学生の両親が当時参加していた21人の学生らに対して、総額で1億6900万円の損害賠償を求めています。
「大丈夫だろう」という安易な気持ちが4時間の放置につながり、救急車到着の2時間前にはすでに死亡していました。
21人の学生らが和解に応じなかったことが、今回の損害賠償請求につながったとみられています。
また、平成24年8月1日には、大阪のホストクラブで新人ホストが急性アルコール中毒で死亡するという事件がありました。
新人としてこれから頑張っていこうという旨が記載された手記も見つかっており、アルコール度数が40度もあるテキーラを立て続けに5杯も飲んでいたことが分かっています。
このときにホストの男性の両親は、ホストクラブとその店の責任者に対して約8600万円の損害賠償を求めました。
いずれの事件にしても、アルコールの一気飲みをさせたという事実があり、その結果として死亡事故となってしまったことが原因です。
刑事事件とまではいかなくとも、相手を一気飲みさせたことにより、急性アルコール中毒になってしまったり、肉体的・精神的な損害を負ったとなれば、民事上の損害賠償責任を負う可能性があります。たとえば、急性アルコール中毒による治療費や入院費などの費用が発生すれば、その費用を相手から請求されたり、治療費や入院費と合わせて慰謝料を請求される可能性も高いといえるでしょう。
上記ニュースのように故意ではなかったにせよ、相手を死亡させた場合は、非常に高額な損害賠償額となるでしょう。
3、罪に問われてしまった場合には弁護士にご相談を
アルコールの一気飲み強要により罪に問われてしまった場合には、すぐに弁護士に依頼されることをおすすめします。
弁護士に依頼するメリットを見ていきましょう。
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(1)解決方法の提示
一気飲みをさせてしまった場合、それがふたりきりで飲みに行ったのか、それとも複数人で飲み会をしていたのかなど、あらゆるケースが考えられます。
特定の人物に対し率先して一気飲みをさせたのか、あるいは仕方なく一気飲みをするように自分も強要されたのかなど、状況を詳しく弁護士に相談することにより、その状況に合わせた解決方法を提示してくれます。 -
(2)確かな証拠資料
まったく証拠がないという場合であっても、一気飲みが行われた現場の「従業員の証言」や「店内カメラの映像」などから、確かな証拠を収集します。
証拠がないし諦めるしかないと自己判断してしまう前に、本当に証拠がないのかを疑い、あなたが置かれた状況を冷静に法的な立場から判断できる弁護士に相談することが賢明です。 -
(3)弁護士への依頼で不起訴処分にできる可能性がある
相手に一気飲みをさせてしまい、逮捕されてしまった・逮捕されそうな場合は、なるべく早く弁護士にご相談ください。
なるべく早くご依頼いただければ、早期に相手と示談交渉を進められる可能性があります。
示談交渉が成立すれば、逮捕されたとしても起訴される前に早期釈放となったり、不起訴処分となる可能性もあります。不起訴処分となれば、前科はつきません。
4、まとめ
今回は、一気飲みによる死亡事故が起きてしまった場合、どのような罪に問われてしまうのかを解説しました。
お酒の一気飲みは、一歩間違えると重大な死亡事故につながる危険性があります。
相手に一気飲みをさせて逮捕されてしまった・逮捕されそうな方は、ベリーベスト法律事務所 横浜オフィスの弁護士にご相談ください。
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