元夫からの嫌がらせは違法の可能性も? 弁護士ができる対応方法とは
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平成30年6月、横浜市で元夫が押しかけて元妻の父親を殺害し、その親族にも重傷を負わせた事件が発生しました。残念ながら、原因はどうあれ、離婚という事実を受け入れたくないと考えるのか、常識では考えられない行動に出る方は存在します。元夫による執拗なストーカー行為など、犯罪を疑うような嫌がらせに悩んでいる方や、その可能性におびえて行動を起こせないという方もいるでしょう。
元夫からの嫌がらせがあるとしたらどのような内容が考えられるのか、さらにはどのように対処すべきなのかなど、あらかじめ対策ができることもあります。どうすればよいのかについて、ベリーベスト法律事務所 横浜オフィスの弁護士が解説します。
1、元夫があなたに嫌がらせをしてくる背景は?
すでに離婚が成立し、これまでの結婚生活から新たな生活を踏み出したことに満足している男性であれば、別れて赤の他人となった妻のことなどに何も未練など抱かないでしょう。ましてや、別れた妻と会ったり話したりすることなど願い下げという人のほうが多いのではないでしょうか。
それでもなお嫌がらせをしてくるということは、元夫が離婚に納得しておらず、あなたに対して何らかの感情を抱き続きていることを意味します。そのような元夫は、次のような4つのタイプに該当すると考えられます。もちろん、複数に該当することもあるでしょう。
いずれのタイプにおいても重度である場合は、あなたを敵として認識した元夫が常人では思いもよらない報復行動に出る可能性があります。もし、元夫の言動にあなたが身の危険を感じるほど明らかな異常性が見られる場合は、早急に警察や弁護士などと対策を講じておく必要があります。
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(1)典型的なモラハラタイプ
婚姻期間中を通じて妻を精神的に苦しめ続けるモラル・ハラスメントの典型としては、暴言と束縛でしょう。
モラハラ夫は常に自分が正しいという偏った固定観念を持っており、妻は自分に付き従うべきと思い込んでいる傾向があります。また、なかにはモラハラ行為を自身のストレス解消の手段としている悪質なケースもあります。そのようなモラハラ夫のなかには、自分が原因で妻から離婚された事実を受け入れようとしない人が存在します。このようなタイプの元夫は、離婚したあとも元妻に対して暴言、価値観の押し付けや束縛などモラハラ行為を続け自分を満足させることに、何も疑問を抱かないものなのです。 -
(2)離婚条件に納得していないタイプ
慰謝料、養育費、財産分与、子どもの親権、子どもとの面会交流、そもそも夫婦のどちらに離婚の原因があったのか…。離婚においては夫婦でさまざまな離婚条件を決めなくてはならず、それはお互いに利益が相反するものです。
たとえ裁判の結果によるものであろうと、決められた離婚条件に納得と理解ができず自分の主張を押し通したい元夫は、離婚後も引き続き離婚条件の修正を元妻に求めてくることがあります。これはモラハラ夫にも共通する特性です。 -
(3)経済的に困窮しているタイプ
理由を問わず、あなたに対して金銭の支払いのみを要求してくる元夫は、経済的に困窮している可能性があります。経済的な困窮の原因は、あなたへの慰謝料や養育費などの支払いであるとはかぎりません。
このようなタイプの元夫は、あなたに対してすでに愛着や未練など抱いていません。あなたと婚姻関係にあったため、見知らぬ赤の他人よりも難癖をつけやすく金銭をまきあげやすいターゲットとみているから、執拗にまとわりついてくるのです。 -
(4)精神的な疾患を抱えているタイプ
元夫の性格だけでなく、発達障害やパーソナリティー障害、あるいは統合失調症などというような、元夫が抱えている精神的な疾患があなたへの嫌がらせにつながっている可能性があります。あなたへの嫌がらせにつながっている精神疾患は、夫自身の先天的なもの、あるいは離婚したことがきっかけで発症したもの、いずれかあるいは両方が原因と考えられます。
2、よくある元夫からの嫌がらせと刑事責任について
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(1)しつこい電話やメール
もっとも多いといわれている嫌がらせのパターンが、電話やメール、LINEなどでしつこく連絡を試みようとしてくるものです。
その内容は、元夫自身の生活状況の報告など取るにたらないものから、あなたや子どもの生活への干渉、離婚したことへの恨みつらみ、さらには嫌がる子どもとの会話を要求してくるなど、さまざまなものがあります。あなたが受け流していたり無視したりすると、元夫からの連絡はさらにエスカレートする傾向があります。
あまりにも常軌を逸した頻度であればストーカー規制法違反が成立する可能性があります。ストーカー規制法違反として有罪になれば、2年以下の懲役または200万円以下の罰金が科される可能性があります。 -
(2)誹謗中傷を広めようとする
元夫があなたに対して何らかの恨みを持っているのであれば、あなたの親族や友人、勤務先などの関係者に対して、あることないことに関係なく誹謗中傷を言いふらす可能性があります。さらには、インターネットやSNSに実名まで出して拡散させることもあるかもしれません。
このような場合は、名誉毀損(きそん)罪(3年以下の懲役もしくは禁錮または50万円以下の罰金)、信用毀損罪(3年以下の懲役または50万円以下の罰金)、侮辱罪(1日以上30日未満の拘留または1000円以上1万円未満の科料)などが成立すると考えられます。 -
(3)脅しをかけてくる
電話やメールなど手段を問わず、たとえば「~しないのであれば、お前や親族を殺す」などのような恐ろしい脅迫をした場合は、脅迫罪(2年以下の懲役または30万円以下の罰金)や強要罪(3年以下の懲役)が成立する可能性があると考えられます。
また、あなたの弱みを握ったうえで脅しをかけ、お金を支払わせた場合などは、恐喝罪(10年以下の懲役)が成立すると考えられます。 -
(4)自宅や勤務先などへ押しかけてくる
元夫からの連絡を無視していたら、元夫があなたの自宅や実家、さらには勤務先や子どもの学校などにまで押しかけ強引に会おうとしてくるというケースがあります。
あなたや親族が会うつもりもないのに自宅などへ押しかけ居座ろうとしてくる場合は、ストーカー規制法違反に加えて住居侵入罪(3年以下の懲役または10万円以下の罰金)、不退去罪(3年以下の懲役または10万円以下の罰金)、軽犯罪法違反(1日以上30日未満の拘留または1000円以上1万円未満の科料)、建造物侵入罪(3年以下の懲役または10万円以下の罰金)、業務妨害罪(3年以下の懲役または50万円以下の罰金)などが成立すると考えられます。 -
(5)身体的な危害を及ぼす
元夫が自宅などに押しかけてきた場合は、要注意です。元夫が興奮し理性を失っている場合は身体的な危害を被る可能性があるため、あなたの親族を含め絶対に会ってはいけません。もし道ばたなどで偶然会ったとしても、できるかぎり遠ざかるべきです。
考えたくはないことですが、万が一あなたの身内に身体的な危害が及ぶ事態に陥ったときは、殺人および殺人未遂罪には死刑または無期懲役もしくは5年以上の懲役、傷害罪には15年以下の懲役または50万円以下の罰金、暴行罪には2年以下の懲役もしくは30万円以下の罰金または1日以上30日未満の拘留もしくは1000円以上1万円未満の科料が科されることになります。
3、元夫からの嫌がらせを受けたときの対応と対策は?
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(1)警察に相談する
元夫からの嫌がらせが、あなたの日常生活を脅かすものと判断したら、警察に相談することも一案です。
これにより元夫の嫌がらせが刑罰法令に抵触する、すなわち犯罪であると警察が判断した場合は、捜査担当部門が対応することになります。そしてあなたが正式に被害届を提出することで捜査に着手し、加害者つまり元夫の検挙に動くことになります。
ただし、基本的に警察は民事不介入の立場です。警察が動く判断基準は、元夫の嫌がらせが刑罰法令に抵触する犯罪行為であるか否かにあります。あなたが元夫の嫌がらせにより被害を受けていると感じていても、元夫の嫌がらせが原因であなたに被害が発生していると客観的に判断できないあいだは事件として扱うことができないため、積極的に動けません。せいぜいパトロールの強化や元夫への説得などにとどまるでしょう。
したがって、元夫の嫌がらせについて警察に動いてもらうためには、あなたが受けた被害が元夫による犯罪行為であることを、口頭による説明だけでなく明確な証拠とともに警察へ訴えることが必要なのです。 -
(2)弁護士に相談する
警察が動くほどの程度ではないとしても、元夫からの嫌がらせが明らかにあなたの平穏な生活を脅かすほど度を越えていると感じた場合は、ぜひ弁護士にご相談ください。
弁護士であれば、あなたに代わって元夫に対し嫌がらせをやめるよう交渉することができます。また、いよいよ警察へ対処を求めることになった場合でも、弁護士は警察への相談方法などについてサポートを行いますし、もちろんあなたと警察へ同行することも可能です。
元夫による嫌がらせがエスカレートして生じた事件は数多くあります。このなかには、もっと早めの対策に動いていれば最悪の結末が未然に防げたと考えられる事件がとても多いのです。しかし、先述のとおり警察は事件性がないと積極的に動けません。
この点、弁護士に依頼することで元夫からの嫌がらせが事件化する前から、あなたを守るためのサポートを受けることができます。
4、まとめ
離婚後の元夫による嫌がらせは、あなたや親族に対して取り返しのつかないことになりまねません。対策としての重要なポイントは、必要以上に悩んだりせず嫌がらせをやめさせるための具体的な行動を早めに起こすこと、そして決してひとりで行動しないことです。
弁護士は元夫からのこれ以上の嫌がらせを防ぐため、法的な知見と職権によりあなたを全力でサポートします。お気軽にベリーベスト法律事務所 横浜オフィスの弁護士までご相談ください。
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