介護施設で負傷したら損害賠償請求はできるのか? 横浜の弁護士が解説
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介護業界の人手不足が取り沙汰される中、ニュースで報道されているように介護現場での事故や、それに伴うトラブルも生じています。横浜市では、介護保険事業者による事故報告について電子申請システムを導入し、迅速な確認を可能とする取り組みを行っています。
ご家族が介護施設を利用している場合、万が一事故が起きてしまった後の対応を考えておくことは大切です。介護事故によって入院や通院、後遺症をもたらしてしまうケースもあります。そんな場合に、家族として何をすればいいのか、知っておくと心強いでしょう。
そこで今回は、介護の現場で起きやすい介護事故や、それに対する損害賠償請求の流れについて、横浜オフィスの弁護士が説明します。
1、介護現場での事故
介護サービスには、大きく分けて訪問サービスと通所サービス、入所サービスの3種類があります。それぞれのサービス形態によって生じやすい事故が異なるため、確認しておきましょう。
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(1)訪問サービスでの事故
訪問サービスとは、介護者が利用者(被介護者)の自宅を訪問し、入浴や食事を手伝う身体介護や、掃除洗濯などの生活援助といった介護サービスを行うものです。
介護労働安定センターによる平成30年の「介護サービスの利用に係る事故の防止に関する調査研究事業」報告書では、訪問サービスでの事故142事例中、もっとも多いのが訪問先での紛失・破損に関する賠償(56.3%)であり、次いで転倒・滑落(23.2%)だとされています。さらに、人身事故の発生状況としては、付き添い介助中や車いす使用中、車いす移乗時が多いという結果となっています。 -
(2)通所サービスでの事故
通所サービスとは、利用者ができるだけ自宅で自立した生活を送れるように、利用者が介護施設に通って日常生活の支援などの介護サービスを受けられるというものです。
上掲の報告書によれば、通所サービスでの事故245事例中、もっとも多い具体的な事故は転倒・転落・滑落(78.0%)で、次いで通所中食事の誤嚥(1.2%)だとされています。人身事故の発生状況としては、付き添い介助中や見守り中、室内移動中が多いという結果となっています。 -
(3)入所サービスでの事故
入所サービスとは、利用者を一定期間施設内に受け入れて、食事などの介護、健康管理や衛生管理指導、リハビリなどを提供するものです。
上掲の報告書によれば、入所サービスでの事故258事例中、もっとも多いのが転倒・転落・滑落(77.9%)で、次いで紛失・破損(7.8%)だとされています。人身事故の発生状況としては、室内移動中や他の利用者の介助中、見守り中が多いという結果となっています。
2、介護施設に損害賠償の支払いが命じられたケース
利用者の人身事故では、介護施設に損害賠償の支払いが命じられた裁判例があります。具体的な事例を紹介しますが、あくまでも個々の事例によって判決は異なるものとなります。必ずしもあなたのケースが当てはまるとは限らない点に注意が必要です。
また、地方裁判所での判決は第1審であり、裁判によっては控訴審が行われ、結論が覆る可能性がある点を含みおきください。
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(1)転倒による死亡事例
本件は96歳だった利用者が、特別養護老人ホームの短期入所生活介護事業サービスを利用中、転倒して傷害を負い、そののち死亡してしまった裁判例です(福岡地裁小倉支部平成26年10月10日判決)。
裁判所は以下の点を挙げ、施設側は利用者の転倒は予見できたと認定しました。- 利用者の足腰がかなり弱っていた
- 訪問看護記録に歩行状態の不安を指摘する記載があった
- 訪問看護計画書にも転倒する可能性の高さを示す記載がある
- 施設も利用者に対して歩行介助を提案していた
このように、転倒が予見できたのにもかかわらず、施設側は利用者の歩行に際して歩行介助や見送りなど、事故を防止するための適切な措置を怠ったことにつき、責任が認められました。
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(2)誤嚥(ごえん)による死亡事例
本件は、75歳だった総入れ歯で嚥下障害の利用者が、特別養護老人ホームに入所しているときにこんにゃくやはんぺんなどおでんなどの食事を提供され、介助を受けた食事中に誤嚥し、窒息で死亡したという裁判例です(名古屋地裁平成16年7月30日判決)。
裁判所は、このような利用者に対してこんにゃくやはんぺんを食べさせる際に、介護者は誤嚥を生じないよう細心の注意を払い、食べさせた後も嚥下できたか確認する義務があったとして、原告の損害賠償請求を一部認めました。 -
(3)損害賠償請求が認められるポイント
施設側の損害賠償責任の有無については、次の3点に主眼を置き判断されるケースがほとんどです。
- 施設側が事故の発生を予見できたか
- 事故防止のための注意義務があったか
- その注意義務を怠るなどの違反があったか
先述の裁判例では、利用者が転倒しやすいとわかっていたにもかかわらず歩行介助などをしなかった、飲み込みに不自由があるとわかっていたにもかかわらず利用者に食べにくいものを食べさせた、などの事情がありました。
このため、介護事故で損害賠償請求をするには、事前に利用者の状況が適切に施設へ伝わっていたかどうかも重要となります。
3、介護事故における損害賠償請求の流れ
施設側に介護事故の責任があると考えた場合、実際に施設に対して損害賠償請求を行うにはどうすればよいのか、大まかな流れを確認しておきましょう。
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(1)証拠集め
いつ、どこで、どのような事故が起きたのかを確認し、証拠として残しておく必要があります。医師による診断書や検査結果、傷あとの写真のほか、施設での事故なら他の利用者による証言なども証拠となりえます。
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(2)示談交渉
いきなり裁判を起こすのではなく、まずは施設側と示談交渉を行うことが一般的です。示談とは、当事者間の話し合いによって紛争を解決することを指します。
施設側が責任を認めようとしなかったり、示談金の額で折り合わなかったりする場合は、訴訟提起が視野に入るでしょう。ただし、裁判となった場合、判決が下るのは1~2年越しとなることもあります。どちらかが控訴して最高裁まで戦うことになれば、場合によっては10年近い年月がかかることもあります。 -
(3)調停・裁判
話し合いで解決できなければ、裁判所に調停を申し立てる、もしくは施設を相手に損害賠償請求訴訟を提起することになります。介護サービス契約の債務不履行、もしくは不法行為を理由とする損害賠償の請求です。
なお、不法行為に基づく損害賠償請求では施設側に過失があることを示さなければなりません。ただし、介護事故では後見人が事故現場を見ているケースは少なく、立証が困難になりやすいという問題もあります。
4、介護事故での損害賠償請求は弁護士へ相談を
介護事故で損害賠償請求を検討している方には、以下の理由から早急に弁護士に相談することをおすすめします。
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(1)適切な証拠を用意できる
示談交渉においても、施設側の責任を問うためには証拠が必要になります。また、裁判に進んだ場合は、法廷で施設側の過失や利用者の損害などを立証できる証拠が必要不可欠です。
証拠を集める段階から、法律のほか、介護や医療の知識が求められることになります。有資格者ではない方が「~なはず」と考えたとしても、通用することはないでしょう。弁護士に相談することで、何をどのようにそろえたらよいのかについてのアドバイスがもらえます。さらには、医師などの専門家と連絡を取り合い、適切な証拠をそろえるための準備を行うことができるでしょう。 -
(2)賠償金額の妥当性を判断できる
示談交渉の場で、施設側が示談金(損害賠償金)の額を提示してくることがあります。しかし、多くの方は介護事故での損害賠償の相場もわからず、金額が妥当なのかどうかの判断が難しいと考えられます。
そのようなときは弁護士に確認することで、類似の事例と比較した上で金額が妥当であるかどうかを判断します。 -
(3)代理人として交渉などを任せられる
示談交渉や裁判をするとなると、手間も時間も取られます。その間、場合によっては介護事故により負傷した、被介護者の世話を誰が行うのかという問題も生じるでしょう。そんなときも、交渉や訴訟手続きを弁護士に代行してもらえば、被介護者の介護や看護に注力することができます。また、相手方と直接交渉しなくてよいという、精神的なメリットも大きいでしょう。
5、まとめ
今回は介護サービス別に見た介護事故のパターンや、損害賠償請求が認められた事例、損害賠償請求を行う場合の流れについて解説しました。
不幸にも介護事故が起きてしまった場合、お世話になった介護施設や職員を訴えるのは抵抗があるという方も少なくないでしょう。しかし、介護事故が起これば、入院費用の発生や、精神的苦痛など、患者側が苦しい立場に置かれることは事実です。
介護事故で施設に対する損害賠償請求をお考えのときは、ベリーベスト法律事務所横浜オフィスの弁護士にご相談ください。民事事件の経験豊富な弁護士が、示談から裁判まで丁寧に対応します。
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