普通解雇と懲戒解雇の違い。 会社が知っておくべきケースや注意点
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会社の社員が金銭を横領した、機密情報を競合他社に故意に漏らしたなど、重大な背信行為のために懲戒解雇を検討しなければならない場合があります。
神奈川県横浜市においても、医療用の麻薬を不正に使用したとして、医療センターに勤務する医師が懲戒解雇された事例があります。
もっとも、本当に懲戒解雇をして良いケースなのか、懲戒解雇ではなく普通解雇を検討すべきなのか、そもそも懲戒解雇と普通解雇はどう違うのかなど、さまざまな疑問をクリアにしておく必要があるでしょう。
そこで今回は、懲戒解雇と普通解雇の違いから、懲戒解雇の具体的ケースと注意点についてベリーベスト法律事務所 横浜オフィスの弁護士が解説します。
1、解雇とは
まずは基礎知識として、解雇の概要と主な解雇方法3種について解説します。
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(1)解雇の概要
解雇とは、労働者を雇用する使用者が一方的に雇用契約(労働契約)を終了させることです。
労働者の意思にかかわらず使用者側が一方的に契約を打ち切るのが解雇であるため、労働者の暮らしや経済状況に直結します。そのため、労働基準法や労働契約法などにおいて厳格な定めがあり、勤務態度が悪い、体調不良が多いなどの理由で容易に行えることではありません。
また、自己都合での退職や早期退職制度に応募するなど、労働者が自分の意思で自ら退職した場合は解雇にはあたりません。 -
(2)3種類の解雇方法
解雇には以下の3種類があります。
- 普通解雇
- 整理解雇
- 懲戒解雇
普通解雇とは、雇用契約で定めた約束に労働者が違反したことを理由に解雇することです。普通解雇の理由になりうる行為としては、会社の指導や配置転換などを繰り返し行ったが労働者の能力改善がない、勤務できないほどの私傷病による健康不良が一定期間以上続いているなどです。
整理解雇とは、労働者が契約通りに業務を遂行している場合であっても、使用者の都合で雇用契約を解消することです。具体的に整理解雇になりうる事由としては、会社の倒産、業績悪化による人件費削減、店舗や事業所の閉鎖などです。
懲戒解雇とは、労働者が会社の秩序を著しく乱したような場合に、制裁として行う解雇です。懲戒解雇の理由になりうる行為としては会社の金銭の横領、意図的な情報漏えい、重大な刑事事件を起こすなどがあります。 -
(3)論旨退職と退職勧奨
労働者の退職につながるが、解雇とは異なるものとして、諭旨退職と退職勧奨があります。
論旨退職とは、懲戒処分のひとつです。懲戒解雇に相当するような従業員の行為があった場合でも、すぐに処分するのではなく、一定期間内で該当社員が自己都合退職できるように猶予を与え、懲戒解雇としての重い処分を回避することです。
退職勧奨とは、従業員に自己都合退職するように企業が提案することです。「もっとふさわしい企業がある」「あなたの能力は我が社ではいかしづらい」などと伝え、自主退社するように促します。ただし、あくまで提案なので、従業員が納得して応じなければ退職義務は生じません。
執拗な退職勧奨は無効となるおそれがありますので、注意が必要です。
2、懲戒解雇と普通解雇の違い
普通解雇と懲戒解雇では、解雇の要件や退職金の有無などに違いがあります。以下より詳しく解説します。
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(1)解雇の要件
会社(使用者)と従業員では力関係に大きな差があることから、使用者が労働者を解雇する場合には、以下の2点を満たさなければならないことが法律で定められています(労働契約法16条)。
解雇の要件
- 解雇に客観的に見て合理的な理由があること
- 解雇に社会通念上の相当性があること
客観的に見て合理的な理由とは、解雇を正当化できるだけの事実や証拠があり、かつ指導などで改善の機会を与えたにもかかわらず、行為が改善されずに続いているような場合です。また、社会通念上の相当性とは、労働者が行った行為に対して“解雇”が不当に重すぎる処分にあたらないか、ということです。
要件を満たさない解雇は無効となり、これを解雇権濫用法理といいます。解雇権濫用法理は普通解雇と懲戒解雇の両方に適用されます。
懲戒解雇の場合、解雇権濫用法理に加えて、さらに厳格な要件が法律で規定されています(労働契約法15条)。懲戒解雇の要件- 会社の就業規則等に懲戒解雇の定めが明確にあること
- 従業員の行為が懲戒解雇の定めに該当すること
- 行った行為が懲戒解雇に相当する違反行為であること
就業規則に規定されている懲戒解雇の事由に該当したからといって、直ちに懲戒解雇が認められるわけではなく、懲戒解雇が妥当な処分であるかが重要なポイントとなります。
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(2)退職金の有無
会社が退職金制度を実施している場合、普通解雇では退職金を支払うのが一般的です。
一方、懲戒解雇の場合、下記の2点を満たしていると退職金を支払わないまたは減額することがあります。- 懲戒解雇の場合に退職金を不支給または減額することが、就業規則に定められていること
- それまでの勤務実績を台無しにするほどの著しい背信行為があること
就業規則に規定があったとしても、単に懲戒解雇の事由に該当するだけでは退職金の不支給・減額が認められるわけではありません。会社の財産を横領するなど、会社に不利益を与える重大な背信行為があった場合にはじめて不支給・減額が認められます。
3、懲戒解雇の具体的ケース
実際にはどのような行為が懲戒解雇になりやすいかをご紹介します。
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(1)会社の財産の横領
売上金の着服や商品の横流し、会社の経費で私的な買い物をしたなど、会社の財産を横領した場合は、懲戒解雇に該当する可能性が高いでしょう。
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(2)接待や贈答品の強要
取引先を飲食店に誘って支払いをさせたり、行ってみたい店があるなどと接待を強要したりする行為は、程度によっては懲戒解雇にあたる可能性があります。また手土産などの贈答品の強要も同様です。
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(3)競合他社へ機密情報を流す
単なるミスではなく、競合他社へ機密情報のデータを流出させたなど明らかな背信行為である場合は、重大な懲戒事由にあたる可能性が高くなります。
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(4)重大な犯罪行為
殺人、強盗、強姦などの重大な犯罪行為をした場合や、常習的な痴漢など会社の名声を著しく損なうような犯罪行為をした場合は懲戒解雇に該当する可能性があります。
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(5)長期間の無断欠勤
数日間の無断欠勤などではなく、正当な理由なく1か月以上無断欠勤を続けたような場合には、会社に与える影響が深刻です。また、出勤命令も何回も拒否した場合は、懲戒解雇に該当する可能性があります。
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(6)執拗(しつよう)なハラスメント
ハラスメント行為は職場環境に重大な影響を与える行為です。強制わいせつに相当するようなセクハラや、脅迫に該当するようなパワハラなど、悪質なハラスメント行為は懲戒解雇に該当する可能性があります。
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(7)経歴の詐称
会社に就職するにあたって、学歴や保有資格など重要な経歴を詐称した場合は懲戒解雇に該当する可能性があります。たとえば、医師として採用されたにもかかわらず、実は採用される前に不祥事で医師免許を喪失していたなどです。
4、従業員にとって懲戒解雇の影響は大きい
会社にとって懲戒解雇を選択するかどうかは重要な局面ですが、従業員にとっても懲戒解雇は大変重い処分です。懲戒解雇をした場合に、社員にどのような影響があるかを解説します。
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(1)再就職が難しくなる
懲戒解雇されると再就職するのが難しくなる可能性があります。
一般に、再就職の際に、懲戒解雇されたことを申告する義務はありません。そのため、退職理由について何も聞かれなければ、理論的には懲戒解雇されたことが発覚せずに再就職できる可能性はあります。
ただし、退職理由を尋ねられた際に、自己都合で退職したなどの虚偽の事実を申告して再就職してしまうと、後に懲戒解雇された事実が会社に発覚した際に、経歴詐称として再び解雇されてしまう危険性があります。 -
(2)経済的に苦しくなりやすい
普通解雇では退職金が支払われるのが一般的ですが、懲戒解雇は退職金が不支給・減額される可能性があり、退職後に経済的に苦しくなる場合があります。
また、解雇された労働者の生活を支えるための制度として、失業手当がありますが、懲戒解雇された場合、失業手当が給与されるまでに3か月の給付制限があります(雇用保険法33条)。
社員の懲戒解雇を検討する場合は、こうした経済的負担の可能性が高いことを踏まえたうえで、懲戒解雇が適切な処分であるかしっかりと検討することが大切です。
5、会社が懲戒解雇をする際の注意点
会社が懲戒解雇をする場合に注意すべきポイントを解説します。
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(1)就業規則に規定が必要
懲戒解雇をするには、懲戒解雇できる事由が就業規則に規定されている必要があります。就業規則に規定がない場合、どんなに悪質な行為でもその事由に基づいて懲戒解雇をすることはできません。
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(2)適正な手続きが必要
適正な手続きとは、懲戒解雇の対象となる社員に弁明の機会を与えることです。相手の言い分を聞かずに一方的に懲戒解雇した場合は解雇が無効と判断される可能性が非常に高くなります。
また、懲戒解雇をするには労働組合と協議をする必要があるなど、懲戒解雇をするにあたって何らかの条件が就業規則に規定されている場合は、その規定を順守する必要があります。
適正な手続きが行われなかった場合、懲戒解雇に相当する事由があったとしても解雇が無効と判断される可能性があるので注意しましょう。
6、まとめ
懲戒解雇は普通解雇に比べて解雇の要件が厳格です。また、懲戒解雇の事由が就業規則に規定されており、解雇される社員に弁明の機会を与えることなどが必要です。
また、懲戒解雇は普通解雇に比べて解雇される社員に与える影響が大きいのが特徴です。再就職しにくい、退職金の不支給・減額の可能性があるなどです。懲戒解雇は要件が厳しく影響も大きいことから、検討の際には企業法務の経験が豊富な弁護士に相談することをおすすめします。
懲戒解雇をすべきかお悩みの際は、ベリーベスト法律事務所 横浜オフィスにご相談ください。企業法務の経験豊富な弁護士が、懲戒解雇の可能性や妥当性についてアドバイスし、適正な処分をサポートいたします。
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