遺産相続で父の愛人や子どもには相続権がある? 横浜の弁護士が解説
- 遺産を受け取る方
- 愛人
- 相続
神奈川県で平成29年に亡くなられた方(被相続人数)は、8万352人、このうち相続税の課税対象となった被相続人数は約1万人になります。この数は年々増える傾向にあり、相続に関するさまざまな問題が増えると考えられます。
たとえ幸福な家庭でも、妻が知らない間にご主人が愛人を作っていて、亡くなった後に遺言によって愛人の存在を知る、ということもあるでしょう。遺言がなくても、愛人やその子どもが「遺産を受けとる権利がある」と言って家族の元に押しかけるという可能性もあります。
愛人やその子どもに遺産の相続権はあるのでしょうか。また、遺言はどんなものでも有効なのでしょうか。横浜オフィスの弁護士が解説します。
1、愛人は相続人として認められない?
そもそも愛人には遺産を相続する権利があるのでしょうか。相続できる可能性があるのはどのような場合か見てみましょう。
-
(1)法定相続人にはなれない
日本の法律では「婚姻関係」があるかどうかが重視されます。民法で定められている法定相続人は、配偶者と、子どもと両親、兄弟の血族相続人となります。このため愛人は遺産の被相続人とは「婚姻関係がない」ため、法定相続人になることはできません。
婚姻関係がないという点で、愛人は「内縁の妻」と同じですが、事情は異なります。
内縁の妻とは、一緒に生活しているなど事実上の夫婦関係にあるけれど婚姻届けを出していない関係。それに対して、愛人は相手が既婚者であることを知った上で交際を続けていることを指します。いずれにせよ、どちらにも法律上の相続権はありません。 -
(2)相続人がいない場合は可能?
たとえば、被相続人が独身で、血縁者が亡くなってしまい天涯孤独という場合には、被相続人と特別な関係にあった方が家庭裁判所に申し立てることで、「特別縁故者」としてその遺産を相続できる可能性があります。
「特別縁故者」になる条件として、民法では次の3つが定められています。
- 被相続人と生計を同じくしていた者
- 被相続人の療養看護に努めた者
- その他被相続人と特別の縁故があった者
内縁の妻の方が実質的な夫婦関係を続けてきた実績があるので、「被相続人と生計を同じくしていた者」に該当し、「特別縁故者」に認められる可能性もあると言えるでしょう。
2、愛人の相続は遺言の有無がカギ
前述のとおり、愛人は法定相続人になることはできません。
では、被相続人が亡くなる前に遺言を残していた場合はどうでしょう。基本的に遺産相続では法律よりも故人の意思である遺書を重視するため、遺言書が作成されていた場合は、その内容により遺産の配分が決まります。
ただ、遺言書は自筆で作成した場合(自筆証書遺言)でも、法律で決められた要件や形式を満たしていなければ、遺言書自体が無効になる場合があります。
-
(1)遺言書が無効になるケース
自筆証書遺言が無効になるのは次のようなケースです。
- 遺言書を作成した日付がない
- 修正や加筆を法律で定めた方法で行っていない
- パソコンでの作成、または代筆されている
- 内容があいまいで不明確
- 本人ではなく他人の意思の介在が疑わしいもの
公正証書遺言の場合は、次のようなケースもあります。
- 遺言能力がない遺言書
- 不適格な証人を立てたもの
公正証書遺言書は公証人という専門家が作成する公的な遺言書です。作成の際は公証人の他、証人が2人必要です。証人には条件があり、その条件を満たさない方を立ち合いにして作成したことが発覚すると公正証書遺言は無効となります。
また、被相続人が認知症などで内容を理解できない状態で作成されている場合は無効です。
3、愛人の子ども(非嫡出子)に相続は発生する?
では、被相続人と愛人の間に子どもがいる場合はどうなるのでしょう。
婚姻関係のある妻との子どもは嫡出子となり相続権は常に発生しますが、婚姻関係のない相手の間に生まれた非嫡出子に関しては、それだけでは被相続人の財産を相続することはできません。
ただ、被相続人が「子どもを認知している」場合は、非嫡出子も相続人として認められます。認知されているかどうかは、非嫡出子の戸籍を調べることでわかります。
-
(1)非嫡出子の認知方法は?
一般的には被相続人が生前に行います。自分か子どもの本籍地、または自分の居住地の役所に非嫡出子を認知する届け出を出すだけです。このとき母親である愛人の同意を得る必要はありません。
この他にも「遺言認知」と「審判認知」・「強制認知」という方法があります。
●遺言認知
被相続人が遺言書に非嫡出子を自分の子であると書き記して認知する方法です。遺言認知を行う場合は、必ず「遺言執行者」が必要です。指定されていない場合は家庭裁判所に遺言執行者の選任を申し立てる必要があります。
●強制認知
父親である被相続人が認知しない場合、「認知調停」を申し立てることができます。このとき愛人と被相続人の合意ができれば「審判認知」となりますが、調停が不成立になってしまい、裁判所によって認知された場合には「強制認知」となります。 -
(2)非嫡出子の遺産相続割合
以前は、非嫡出子が相続できる遺産の割合は嫡出子の半分とされていましたが、平成25年12月に民法が改正され、嫡出子との差がなくなり同等に相続できることになりました。
4、父が残した遺言書で愛人に全財産が渡ってしまう? どうすればいい?
「遺産を愛人にすべて相続させる」という遺言があった場合、法定相続人である家族が納得できないのであれば、どんな行動をとるべきでしょうか。
-
(1)遺言が有効かどうか調べる
まずはその遺言書が有効なものかを調べることが大切です。
「遺言無効確認請求訴訟」を起こすことで、法的に有効かどうかを調べることが可能です。無効と判断された場合は、法律に基づいて遺産を分配することになります。 -
(2)「遺留分減殺請求」を行う
遺言書に問題がない場合でも、民法上で子どもや配偶者といった相続人には、「遺留分」という最低限の遺産を受けとる権利が定められています。 割合は次のようになっています。
- 直系尊属のみが相続人である場合:直系尊属が対象で財産の3分の1
- 上記以外の場合:配偶者と子または直系尊属が対象で財産の2分の1
被相続人が「愛人に遺産をすべて相続させる」という内容の遺言書を作成していても、遺産を相続する愛人に対して「遺留分減殺請求」を行うことで遺産を相続することができます。
ただ、遺留分減殺請求権には時効があります。
- 遺留分の権利者が相続の開始と、滅殺しなければならない贈与・遺贈のどちらかがあったことを知ってから1年
- 相続開始から10年
ここで気を付けたいのは、「贈与・遺贈を知ったときから1年」という点です。相続が開始されて1年以上経過していても、その事実を知らなければ時効は成立しません。「知ったとき」というのは、遺贈や贈与があったということだけでなく、贈与などの遺留分が侵害されていて、滅殺対象となっていることも認知していること、となっています。
また、遺留分減殺請求権には「除斥期間」というものが決められています。除斥期間は時効ではないため中断できません。遺産相続が開始されてから10年が経過することで請求権を失います。ただし10年以内に1度でも遺留分減殺請求権を行っていれば、除斥期間で権利が消滅することはありません。
5、弁護士に任せるメリット
今まで親族や家族内がうまくいっていたのに、遺産相続が発生することでトラブルが起こるということは少なくありません。さらに愛人が関わってくると、法律の知識がない一般の方だけで解決することはとても難しいと言えるでしょう。
遺産相続は法的な知識が必要になることはもちろん、手続きも複雑で、特に不動産や貴金属類などがある場合は、遺産相続の話し合いで争いごとが起こることがあるかもしれません。
弁護士はご依頼者様の味方です。遺産相続問題に関しても、ご依頼者様の利益を守るためにさまざまなアドバイスや手続き・交渉を行います。
- 弁護士がつくと相続者間の話し合いをスムーズに行いやすい
- 法律的な根拠で自分の権利を主張することができる
- 遺産相続の手続きをすべて任せることができる
- 遺産相続の問題点を発見することができる
- 裁判になったときにも任せることができる
- 相続に関する不安や悩みを相談でき、第三者目線でアドバイスをしてもらえる
このように遺産相続問題を弁護士に依頼するとさまざまなメリットがあります。
6、まとめ
遺産相続においては、家族間・親族間でも大きなトラブルに発展することもあります。
その上愛人が遺産相続を主張してきたとなると、個人で解決することは難しくなることが考えられます。
法的なことをきちんと理解していなければ、自分自身が損をすることもあります。極力トラブルを避けて、円満に解決したいと望まれるのであれば、弁護士に相談してみることをおすすめします。
遺産相続で悩んだり、疑問に思ったりしていることがあれば、お気軽にベリーベスト法律事務所・横浜オフィスにご相談ください。
ご注意ください
「遺留分減殺請求」は民法改正(2019年7月1日施行)により「遺留分侵害額請求」へ名称変更、および、制度内容も変更となりました。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています