遺産分割協議をやり直したい! やり直しが可能なケースや注意点について
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平成29年における横浜家庭裁判所の管轄地域では、「遺産の分割に関する処分」の調停が882件受理されています。これは基本的にトラブルの件数と考えてよいでしょう。
相続では遺産の分割割合などをめぐって、親族間のトラブルが生じやすいものです。そのトラブルがもっとも顕在化しやすいイベントが、相続人間で遺産を誰が・何を・どの割合で取得するか話し合って決める遺産分割協議です。
ところで、せっかく遺産分割協議がまとまったとしても、何らかの事情でやり直したいとお考えになる方もいると思います。そこで、そもそも遺産分割協議のやり直しは可能なのか、どのような場合に遺産分割協議のやり直しをすべきなのかについて、ベリーベスト法律事務所 横浜オフィスの弁護士が解説します。
1、遺産分割協議をやり直すことは可能?
相続人全員で合意したはずの遺産分割協議について、そのやり直しを禁止する法律はありません。相続人全員の合意など一定の要件があれば遺産分割協議のやり直しは可能であり、これは判例でも認められています。遺産分割協議書(遺産分割の内容について合意したことを、相続人全員によって記名・押印している書面)の取り交わしの有無は関係ありません。
もし遺産分割協議をやり直す必要がある場合は、その理由を相続人ひとりひとりにしっかりと説明し、理解を得てください。
2、遺産分割協議をやり直すことの注意点や問題点
法律でも認められていることとはいえ、遺産分割協議をやり直すこと自体は決しておすすめできるものではありません。ただでさえ遺産分割協議は何かと負担が大きいことに加え、遺産分割協議のやり直しによる再分割の結果次第では、相続人に税務上の追加負担が生じる可能性があるためです。
たとえば、すでに相続税を申告・納付していた場合に遺産分割協議のやりなおしによって相続税額が増加する相続人は、追加の相続税を支払う「修正申告」を行う必要があります。また、遺産分割をやり直すことで相続人の間に遺産の移転があった場合、この移転が税務上の譲渡または贈与として扱われ、所得税や贈与税が課されてしまう可能性があります。
3、遺産分割が無効となり、やり直しになるケース
前述のとおり、遺産分割協議のやり直しは相続人全員の合意があれば可能です。言い換えると相続人のうち誰かが反対すれば不可能になります。
しかし、そもそも遺産分割協議にはいくつかの法的要件があります。この法的要件を欠いた遺産分割協議は基本的に無効となるということです。法的要件を欠いた協議によって不利益を被った相続人が遺産分割協議のやり直しを請求すれば、他の相続人が反対したとしても遺産分割協議はやり直しとなります。
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(1)一部の相続人を欠いて行われた遺産分割協議
遺産分割協議は、原則として相続人全員の合意のもと成立させなければなりません。この相続人には、法定相続人のほか被相続人(亡くなった人のこと)が遺言で財産を遺贈すると指定していた人も含まれます。1名でも相続人を欠いた状態で成立した遺産分割協議は基本的に無効になります。つまり、すべての相続人が参加して、改めて遺産分割協議を行う必要があります。
しかし、相続人のなかに行方不明者がおり、いくら手を尽くしても見つからないことがあります。この場合、家庭裁判所より選任された財産管理人が行方不明者の代理となり、遺産分割協議を行うことになります。
ある特定の相続人に被相続人の相続発生を意図的に隠したうえで行った遺産分割協議はもちろんのこと、相続人に行方不明者がいるのにもかかわらず家庭裁判所へ財産管理人選任の手続きなど所定のステップを踏まないで行われた遺産分割協議も無効になることを、しっかりと押さえておいてください。 -
(2)相続人が意思能力を欠いた状態で行われた遺産分割協議
遺産分割協議とは、その結果による遺産分割によって相続人に財産移転の効果が生じる重要な法律行為です。したがって、相続人には自分の行為が法的にどのような結果を生じさせるのかを理解できる意思能力が必要となります。
また、遺産分割協議が調停や審判に進んだ場合は、相続人に単独でこれらの法的手続きを遂行する能力、つまり訴訟能力が必要となります。このため、たとえば相続人の中に認知症などの患者がいて意思能力を欠いている状態であるにもかかわらず遺産分割協議が進められた場合、そのような遺産分割協議の結果は無効となります。
民法においては、意思能力の程度に応じて、成年後見・保佐・補助といった各制度が規定されています。そして、本人や利害関係人等の申し立てにより、家庭裁判所が成年後見人、保佐人、補助人を選任します。これらの成年後見人・保佐人・補助人には、本人の財産処分行為を代理、同意、取消をする権限が付与されます。
これにより無効とされた遺産分割協議は、本人の成年後見人・保佐人・補助人の代理や同意のもと、やり直しとなります。 -
(3)利益相反のある遺産分割協議
成年後見人・保佐人・補助人には、本人の親族が就任する場合が多いようです。しかし遺産分割協議においては、どちらも相続人である場合など本人との利益相反が起こる場合があります。
たとえば、成年後見人となった人が自己の利益のために成年被後見人つまり相続人本人の相続分を少なくするといった不正な遺産分割協議を成立させてしまう、というようなケースです。
このような利益相反を防ぐために、遺産分割において本人と利益相反のある場合には、成年後見人は成年被後見人を代理することはできず、それとは別に利害関係のない特別代理人の選任を家庭裁判所に申し立てることが要求されています。保佐・補助の場合も同様に、臨時保佐人・臨時補助人の選任が要求されます。
成年後見人・保佐人・補助人の選定は家庭裁判所の調査・審査のもと行われているため、このような利益相反が生じる可能性は極めて低いと考えられます。しかし、万一生じた場合は遺産分割協議はやり直しとなります。
遺産分割協議における利益相反の問題は、相続人に未成年者がいる場合に生じやすいものです。民法第818条によりますと、未成年者は父母つまり親権者の親権に服します。そして親権者は、民法第824条にて未成年者である子どもの財産に関する法律行為を代理すると定められています。
しかし、親権者と未成年者がともに相続人である場合は、親権者が未成年者を代理すると意図的に未成年者の相続分を少なくしてしまうという利益相反が発生する可能性があります。これを防ぐため、親権者と未成年者がともに相続人である遺産分割協議では、民法第826条が、親権者が未成年者を代理することを禁止しています。そして、未成年者のために家庭裁判所に請求して特別代理人を選定することが定められているのです。
また、相続人に複数の未成年者がいる場合において、たとえ親権者が相続人ではなくても複数の未成年者の代理をすることになるケースもあるでしょう。この場合もやはり利益相反の問題が生じる可能性があります。
たとえば、ひとりの親権者が複数の未成年者AとBの双方を代理したとしましょう。親権者の個人的な感情から未成年者Aの相続分を多くして、未成年者Bの相続分を少なくするというような、不公平な遺産分割協議が可能になると考えられるのです。このような場合は、親権者は一方の代理はできますが、他方については特別代理人の選任が必要になります。
このように、特別代理人の選任が必要であるのにもかかわらず省略して行われた遺産分割協議は無効となり、やり直しになります。 -
(4)あとから新たな財産がみつかった遺産分割協議
遺産分割協議は、被相続人の遺産すべてについて行うことが原則です。もし遺産分割協議が終わったあとで新たな財産がみつかった場合は、遺産分割協議そのもののやりなおしや、その財産について新たに遺産分割協議をすることになります。
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(5)あとから遺言がみつかった遺産分割協議
遺産分割協議が終わったあとで被相続人の遺言がみつかり、その遺言に執行者(被相続人から遺言の内容の実現を託された人)が指定されている場合は、執行者の意向次第ではすでに合意した遺産分割協議が無効となることがあります。
なぜなら、民法第1013条では相続人全員の合意があっても執行者(多くは弁護士または信託銀行等)の意向に反して相続人のみで遺産分割をすることはできないと定めているためです。
4、遺産分割協議のやり直しが生じないために、相続人が行うべきこと
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(1)遺言の有無を確認しておく
遺言があれば、遺産の内容や相続人全般について把握することが可能です。遺言書の原本は、公正証書遺言であれば公証役場や銀行などで保管していることが一般的ですが、自筆証書遺言であればそのかぎりではありません。思わぬところに保管されていることもありますので、遺産分割協議の前にしっかりと調べておきましょう。
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(2)遺産を漏れなく把握しておく
遺産の調査は、非常に手間がかかるものです。平日の昼間に役所や金融機関に出向かなくてはならないうえに、遺言と財産目録があったとしても実は被相続人が把握すらしていなかった財産が存在するケースもあります。
もし被相続人の遺産が多岐に亘ると想定されるのであれば、職権によって詳細な調査が可能な弁護士に依頼することをおすすめします。 -
(3)法定相続人を漏れなく把握しておく
法定相続人は、意外なところにいる可能性があります。実際に前妻との隠し子や見ず知らずの甥姪の存在など、相続が発生したあとの調査で想定外の相続人が見つかったという事例は少なくありません。
もし、遺産分割協議のあとに見知らぬ法定相続人が現れたら、遺産分割協議はやりなおしになってしまいます。これを防ぐためには、戸籍謄本を調査して法定相続人を把握しておくしかありません。
しかし、戸籍謄本は本籍地の役所でしか取得できません。たとえば戸籍に記載のある本籍地の役所が市町村合併などにより他の役所に合併されている場合は本籍地の役所はどこかということから調べなくてはなりません。そして、取得の申請も現地の役所宛てに行う必要があります。これに加えて、兄弟姉妹が相続人であったり相続人の誰かがすでに死亡していたりする場合などは、調査すべき戸籍謄本が膨大な数になる可能性があります。さらに、調査すべき戸籍謄本をすべて取得したとしても、戸籍謄本は作成時期により記載内容や様式が異なるため、解読することが非常に困難なのです。
したがって、戸籍謄本の取得についても知見と職権のある弁護士に依頼したほうがよいでしょう。 -
(4)相続人の属性を把握しておく
相続人の一部に認知症の症状が見られる方がいるというケースもあるでしょう。後日の紛争や遺産分割のやり直しを防ぐために、家庭裁判所へ成年・後見・保佐・補助の申し立てを早めに検討しておくことが必要です。
5、まとめ
遺産分割協議をやり直さなければならない理由には、何らかのトラブルの種が潜んでいる可能性があります。もし遺産分割協議をやり直すことになりそうだと感じたら、できるかぎり早めに弁護士にご相談ください。
相続問題の解決について経験と実績が豊富な弁護士であれば、状況を把握し適切なアドバイスができます。また、トラブルに発展した場合にあなたの代理人として他の相続人と協議・交渉や、家庭裁判所におけるやり取りを依頼することも可能です。ぜひお気軽に、ベリーベスト法律事務所 横浜オフィスの弁護士にご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています