配偶者居住権の施行はいつから? 制度を活用するメリットとは
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国税庁が発表した平成29年のデータによれば、神奈川県では相続財産の金額のうち、土地が43.4%、家屋が5.7%と、不動産だけで相続財産の金額のおよそ半分を占めました。
不動産の相続についてこのところ話題になっているのが、約40年ぶりに行われた相続法改正です。この改正相続法では、「配偶者居住権」の制度が新たにできました。
横浜でも税理士や司法書士などが、この新しい制度を一人でも多くの方に知ってもらおうと、各地でセミナーを開いています。そもそも、配偶者居住権とはどんな権利制度なのでしょうか。そして、いつから施行されるのでしょうか。横浜オフィスの弁護士が解説します。
1、そもそも配偶者居住権とは
平成30年7月6日の参議院本会議で、民法改正(相続法改正)に伴い配偶者居住権制度が賛成多数により可決・成立しました。ここでは、配偶者居住権はどんな制度なのか解説します。
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(1)配偶者居住権は遺された配偶者を保護する制度
配偶者居住権とは、被相続人(多くは夫)が亡くなった後も、遺された配偶者(多くは妻)がそのまま自宅に無償で住み続けられる権利のことです。
今までは、ケースによっては、遺産相続で自宅の所有権を得た上で、他の相続人に相応の金銭を支払わなければ、配偶者が自宅に住み続けることができないということがありました。しかし、自宅に関する権利を「所有権」と「居住権」に分けて、配偶者が「居住権」を得ることで、妻が夫の死後も安心して住み慣れた自宅で暮らせるようになったのです。この配偶者居住権は、遺された配偶者を保護するための制度と言ってよいでしょう。 -
(2)配偶者居住権が創設された背景
これまで、遺された配偶者が自宅に住み続けたくても、遺産分割協議の中で他の共同相続人が「自宅を相続したい」と主張した場合、配偶者が所有をあきらめざるをえないことが少なくありませんでした。
たいていの場合、被相続人が亡くなったときには配偶者も高齢になっています。そのため、年老いてから新しい家を探して引っ越すのは非常に酷であると、以前より問題視されてきました。そこで、被相続人の死後も引き続き持ち家で暮らせるように相続法が改正されたのです。 -
(3)配偶者居住権制度はいつから始まる?
配偶者居住権制度は、2020年4月1日より施行されます。2020年4月1日以降に相続が開始したときに、この配偶者居住権制度が適用されるので、同年3月31日以前に被相続人が亡くなったときは適用されないことに留意しておく必要があります。
また、後に解説する長期居住権は、遺言や死因贈与契約により設定することも可能です。ただ、この場合も2020年4月1日以降に作成した遺言書や契約書でなければ配偶者居住権は利用できないため、ご注意ください。
2、短期居住権と長期居住権
配偶者居住権には、短期居住権と長期居住権があります。それぞれどのような違いがあるのでしょうか。
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(1)短期居住権とは
短期居住権は、法律上当然に認められる居住権です。相続開始時、もしくは遺産分割協議で自宅を相続する人が決まった日のいずれか遅いほうから6か月間、遺された配偶者は自宅にただで住むことができます。
この短期居住権が認められているのは、配偶者が自宅を相続しない場合でも、すぐに新しい住まいを見つけて立ち退くことが現実的には難しいためだと考えられています。 -
(2)短期居住権を取得するときの注意点
この後解説する長期居住権を取得した場合は、短期居住権は自動的になくなります。両方の権利を一度に持つことはできません。また、居住権が認められるのは、被相続人の生前に無償で使用していた部分のみとなります。さらに、短期居住権は住むためだけの権利であり、たとえば誰かに居住部分を貸して収益を上げることは認められていないことも知っておきましょう。
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(3)長期居住権とは
長期居住権とは、原則として一生涯自宅にただで住み続けることのできる権利のことです。被相続人と配偶者が生前に同居していたことは必要なく、どちらかが単身赴任などで別居していたとしても、長期居住権を取得できます。また、住宅が店舗兼自宅や事務所兼自宅だった場合でも、長期居住権は建物全体に及ぶとされています。
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(4)長期居住権を取得するときの注意点
建物を被相続人が配偶者以外のだれかと共有していたときは、長期居住権の対象外となります。短期居住権とちがって、建物を第三者に貸して収益を上げることも可能ですが、所有者の許可が必要となるため注意しましょう。
3、配偶者居住権のメリット
配偶者居住権の最大のメリットは、遺された配偶者がただで住み慣れた家に住み続けることができることです。それだけでなく、生活資金の確保につながるメリットもあります。
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(1)「居住権」と「所有権」に分けて相続できる
配偶者居住権のメリットのひとつめは、居住権と所有権を分けて相続できることです。たとえば、父親が被相続人、相続人が母親と長男の二人の場合で考えてみましょう。
今までは持ち家を相続するとき、母親と長男のいずれかしか所有権を持つことができませんでした。しかし、配偶者居住権を利用すれば、母親が居住権、長男が所有権を相続する、という方法が利用できるのです。 -
(2)住み慣れた家を手放さずに済む
持ち家を居住権と所有権に分けて相続することで、住み慣れた家を手放さずにすむ点も配偶者居住権の大きなメリットです。従来の相続方法では、母親が所有権を持つのであれば、持ち家の評価額の半額を現金で長男に渡さなければなりません。逆に、長男が所有権を持つ場合は、評価額の半額を現金で入手できるものの、母親は住処を失うことになります。しかし、母親が居住権を持つことで引き続きただで家に住み続けることが可能になるのです。
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(3)当面の生活資金を確保できる
配偶者居住権を設定することで、遺された妻が当面の生活資金を確保できるようにもなります。
たとえば、3000万円の自宅と2000万円の預貯金を、妻と娘が法定相続分どおりに相続するとしましょう。従来の相続方法であれば、2500万円分ずつ相続することになります。この場合、妻が自宅を相続すると、500万円は現金で娘に渡す必要がありますが、500万円が手元にない場合は結局自宅を売却するなどしてお金を用意しなければなりません。
しかし、配偶者居住権を利用すれば、居住権を1500万円・所有権を1500万円とすることで、預貯金を1000万円ずつ妻と娘で分け合うことができます。そうすれば、妻は自宅を売却せずとも当面の生活資金を手に入れられるのです。 -
(4)二次相続時に相続税の節税が可能
配偶者居住権を取得した配偶者が亡くなって二次相続が発生したときは、相続税の節税が可能であると言われています。
なぜなら、配偶者居住権は配偶者の死亡をもって消滅し、この分の相続税がかからないからです。たとえば、先ほどの3000万円の住宅を1500万円の居住権と1500万円の所有権に分割した場合、居住権分の1500万円は消滅するのでここに相続税が課されることはありません。その結果、二次相続時には相続税の節税につながると考えられています。
4、配偶者居住権のデメリット
いいことづくめに見える配偶者居住権ですが、デメリットもあります。どのようなデメリットがあるのか、詳しく見ていきましょう。
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(1)配偶者居住権は譲渡できない
配偶者居住権は被相続人の配偶者だけに認められた特別な権利のため、他人に譲渡できません。また、配偶者居住権は配偶者の死後消滅するため、相続することもできません。したがって、配偶者が亡くなれば、所有権を相続した者が不動産の権利を居住権も含めて丸ごと取得することになります。
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(2)勝手に増改築ができない
配偶者居住権を取得した者は、他の相続人が所有する家に住まわせてもらっている立場になるので、無断で増改築ができません。また、たとえばバリアフリー仕様に家をリフォームしようとした場合も、所有権者の承諾が必要になります。費用負担については、ちょっとした修繕であれば配偶者の負担になりますが、リフォームなどの大幅な修繕となれば、所有者の負担とすることもありえるでしょう。
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(3)固定資産税がかかる
持ち家に住む以上、どうしてもかかってくるのが固定資産税です。固定資産税の納付書は、一般的に建物の所有者あてに送られますが、実際にはその家に住んでいる配偶者が支払わなければなりません。そのため、所有者がいったん立て替えた後、所有者から配偶者にその金額を請求することになるでしょう。
5、配偶者居住権の取得方法
では、配偶者居住権はどのように取得すればよいのでしょうか。短期居住権は法律上当然に認められる権利なので、ここでは長期居住権の取得方法について解説します。
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(1)遺言書もしくは遺産分割協議が必要
配偶者居住権を得るには、「配偶者○○に自宅の配偶者居住権を遺贈する」旨の遺言書を被相続人に書いてもらう方法があります。遺言書は自筆証書遺言でも公正証書遺言でも構いません。また、遺産分割協議で居住権があることを主張し、取得する方法もあります。
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(2)配偶者居住権の評価額を計算する
配偶者居住権の評価額を算出するには、まず自宅の評価額を計算します。相続税法によれば、その後配偶者居住権の評価額を以下のような計算式で算出します。
建物の時価-建物の時価×(残存耐用年数-配偶者居住権の存続年数)/残存耐用年数×配偶者居住権の存続年数に応じた民法の法定利率による複利現価率
このように、配偶者居住権の評価額の計算はとても難しいので、相続税の知識の豊富な税理士や会計士、弁護士などに計算してもらうことをおすすめします。 -
(3)登記を行う
配偶者居住権を得た場合も、その旨を登記することが必要です。登記があれば、もし所有権者が変わったときにも、居住権を主張できるからです。
改正民法には、「建物の所有者は長期配偶者居住権を取得した配偶者に長期配偶者居住権の設定の登記を備えさせる義務を負う」と定められています。登記を行うときは、配偶者と所有者である他の相続人と共同申請を行います。ただし、遺産分割調停や遺産分割審判で配偶者居住権が認められたときは、配偶者が単独で登記を行うことが可能です。
6、まとめ
高齢になってから自分の足で賃貸物件をめぐって住む家を見つけることはとても骨の折れる作業です。
配偶者居住権は、長年連れ添った夫を亡くした妻がそのような事態になってしまうのを防ぐための制度です。配偶者居住権についてはまだまだわからないことや心配なことがある方も多いと思います。そのような方は、ベリーベスト法律事務所 横浜オフィスまでお気軽にご来所の上、ご相談ください。
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