連絡が取れない・音信不通の相続人がいる場合の対処方法とは?横浜の弁護士が解説
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親が亡くなると、しなければいけないのが相続の手続き。
遺言が残っていなかったり、残っていても不完全だったりする場合は、相続人で話し合って遺産の分割方法を決めなければいけません。
ただ中には「連絡が取れない兄弟がいる」とか「知らない人が相続人にいることがわかった」といったケースもあります。
ではその場合はどうしたらいいのでしょうか?無視して遺産分割協議をしてもいいのでしょうか?
誰でも直面する可能性のある相続。
その相続で起こり得る、連絡が取れない相続人がいる場合の対処方法について、横浜の弁護士が詳しく解説します。
1、連絡の取れない相続人を無視した遺産分割協議は「無効」
相続が発生し遺言が残されている場合、基本的にはその内容にしたがって分割を行います。
ただし「遺言があれば遺産分割協議はしなくていい」というわけではありません。
遺言が残っていても遺産分割協議が必要となるケースも多いのです。
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(1)遺言書があっても遺産分割協議が必要なケースとは
遺言書が残されていれば、まずそれが優先されます。
ですが遺言書があっても「自宅は妻に相続させる」など一部の財産にしか指定がなかったり、「長女と長男に2分の1ずつ遺産を相続させる」など相続分の指定しかなく、具体的にどの財産を誰に与えるか指示がなかったりすることも多いもの。
また相続人全員が遺言の内容に不満を持ち、受け入れられないと思うこともあるでしょう。
その場合には相続人で「遺産分割協議」を行い、具体的な分割方法を決める必要があります。
ただし遺産分割協議を成立させるためには、共同相続人全員の合意が必要です。
相続人のうち一人だけ遺言に不満がある一方、他の相続人は賛同している場合には、協議をすることはできません。
遺言書が残っていない場合には、基本的には法定相続分に応じて分割することになります。
ただしこちらも遺産分割協議により相続人全員が賛同すれば、異なる分割をすることができます。 -
(2)連絡が取れない相続人を無視して遺産分割協議はできない
遺産分割協議には相続人全員の同意が必要となりますが、この相続人には連絡がとれない相続人も含まれます。
まだ他にも相続人がいることがわかっていながら「あの人には遺産を分けたくないから」「疎遠だから」「音信不通だから」といった理由で、その相続人のいないまま遺産分割協議をしても、それは無効になります。
2、遺産分割協議の期限は?
連絡が取れない相続人がいるからといって何もしないでいると、面倒なことになります。
相続の手続きには、期限が設定されているのです。
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(1)相続放棄や相続税の納税・申告には期限がある
遺産として借金が残されている場合、相続人は相続放棄や限定承認も考えるでしょう。
これらには「相続人が自己のために相続の開始があったことを知った時から3ヶ月以内」という手続き期限があります。
また相続税の納税と申告にも「相続の開始があったことを知った日の翌日から10ヶ月以内」という期限があります。
「連絡が取れない人がいるから判断できない」と無為に時間を費やすと、期限が来てしまうことがあります。 -
(2)遺産分割協議には期限はない
相続の手続きには期限がありますが、遺産分割協議には期限はありません。
民法には以下のように規定されています。
「共同相続人は、次条の規定により被相続人が遺言で禁じた場合を除き、いつでも、その協議で、遺産の分割をすることができる」(民法907条)
たとえば遺産分割をした後に新たに相続人が判明した場合には、遺産分割協議をやり直すことができます。 一度決めた協議内容に不満がある場合にも可能ですが、相続人全員の合意が必要です。
協議自体には期限はありませんが、相続税などに手続き期限があるため、早め早めに行っていくことが大事です。 -
(3)協議が終わったら「遺産分割協議書」を作成しよう
遺産分割協議が済んで実際に相続をする際、遺産分割協議書がなければ被相続人の不動産の名義変更をすることはできません。
預貯金を下ろすことができないこともあります。
つまり相続の手続きを進めることができないのです。
遺産分割の話し合いが終わった場合には、その内容を記した遺産分割協議書を作成しておきましょう。協議書には相続人全員の署名・押印が必要です。
3、音信不通の相続人がいる場合の対処方法
相続が始まってみると「兄と長年連絡が取れない」「会ったこともない人が相続人になっている」ということは珍しくありません。
複数の相続人がいる場合、そのうちの誰かが音信不通だったり、行方がわからなかったりすることもあるでしょう。
連絡先がわからなければ、被相続人の死亡や相続について知らせることができず、もちろん遺産分割協議もできません。
そのため、次のような手段を使って音信不通の相続人とも連絡を取る必要があります。
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(1)戸籍謄本を辿り本籍地を調べる
誰が相続人であるのか確定させるためには、被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本が必要となります。
その戸籍謄本から、今度は音信不通の相続人の戸籍を辿っていきます。結婚などしていると新しい戸籍に移転しているため、移転先の戸籍謄本を取得します。
すると本籍地がわかります。 -
(2)戸籍の附票を取得してみる
本籍地がわかったら、次は戸籍の「附票」を取得します。
本籍地のある市区町村役場で交付してもらえます。窓口のほか郵送でも取得可能です。
戸籍自体には現住所は記されていませんが、附票には戸籍が作られてから現在までの住所が記載されています。
そこで附票に記載された現住所に手紙を送ったり、実際に家を訪れてみたりして連絡を取ってみましょう。 -
(3)連絡を無視される場合には遺産分割調停も
相続人の連絡先がわかっても、手紙などが届いているはずなのに、明らかに無視されることもあるかもしれません。
どうしても遺産分割協議に協力してもらえない場合には、家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てます。調停でも合意できない場合には、審判へと移行します。 -
(4)弁護士に相談する
戸籍の附票から現住所がわかっても、届け出をせずに引っ越してしまっていることもあります。
自ら調べても相続人の連絡先がわからないときは、弁護士に相談してみましょう。
弁護士であれば被相続人の親の代の戸籍も調べるなど、より細かく調査をしてくれます。
また住所がわかった場合でも、いきなり遺産分割協議書を送りつけて同意を求めるなどすると、相手も不信感を持つかもしれません。
その点弁護士であれば、相手も信用して話を聞いてくれる可能性が高まります。
中には親の不倫相手の子どもなど、お互い直接連絡を取りたくないケースもあるでしょう。
ですが遺産分割協議を成立させるためには、全ての相続人の同意が必要であり、そのままにしておくわけにはいきません。
個人でのやりとりをしたくない場合や話がこじれてしまった場合には、弁護士に仲介をしてもらいましょう。 -
(5)不在者財産管理人を立てる
相続人が住民票を移さず転居していたり、最後の住所地が海外だったりすると、手を尽くしても連絡が取れないこともあります。
その場合には、家庭裁判所に「不在者財産管理人」の選任を申し立てることになります。
申し立てには以下のような書類が必要です。- 申立書
- 連絡が取れない相続人の戸籍謄本・附票
- 財産管理人候補者の住民票または戸籍附票
- 不在を証明する資料
- 連絡が取れない相続人の財産に関する資料
- 申立人との利害関係を示す資料
不在者財産管理人は、連絡が取れない相続人の財産の管理や保存を行うことができます。
ですが実は、遺産分割協議に参加する権限はありません。
そのため家庭裁判所に協議への参加を認めてもらう「不在者財産管理人の権限外行為の許可」も求めることになります。
許可がおりれば、協議に参加することができます。
一般的に不在者財産管理人は、相続に利害関係のない親族がなるケースが多い傾向にあります。
申し立ての際に候補者を出さなければ、家庭裁判所が弁護士などを選任してきます。
不在者財産管理人には報酬が発生することがありますが、その場合は家庭裁判所の判断で、連絡が取れない相続人の財産から支払われます。 -
(6)家庭裁判所に「失踪宣告」を申し立てる
手を尽くしても連絡がとれず、生死が不明である場合には、家庭裁判所に「失踪宣告」の申し立てを行います。
失踪宣告が認められると、法律上は死亡したものとみなされます。
その相続人に子どもがいる場合には、代わりに遺産分割協議に参加することになります。
なお失踪には以下の区分があります。- 普通失踪:7年間行方不明で、生死が不明の場合
- 特別(危難)失踪:戦争や震災などに遭い、その危難が去ってから1年間生死が不明の場合
もし失踪宣告を受けた方がその後現れた場合は、家庭裁判所に宣告の取り消しを求めます。相続権も復活します。
ただし実施済みの遺産分割は取り消せないため、その相続人はその時点でまだ残っている財産の返還を求めることができます。
4、まとめ
連絡が取れない相続人を探すのは、非常に手間と時間がかかります。
応答がないからと待っていては遺産分割ができず、他の相続人にとっても不利益となってしまいます。
できるだけ早く、ストレスなく進めるためには、弁護士に相談するのがおすすめです。
相続人の調査から不在者財産管理人の選任、失踪宣告の申し立てなど、複雑で面倒な手続きも代行してもらえます。
相続はもめることも多く、手続きも複雑です。気持ちよく納得して相続を終わらせるためにも、弁護士と一緒に進めていきましょう。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています