非嫡出子の相続権とは? 嫡出子との違い・遺産分割の注意点
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相続は、身近な法律問題のひとつです。
裁判所が公表している「平成30年度 家事審判・調停事件の事件別新受件数 家庭裁判所別」によると、横浜市における調停事件のうち「遺産の分割に関する処分など」は891件、審判事件のうち「相続の放棄の申述の受理」は1万1998件、「遺言書の検認」は1626件でした。
相続がはじまると、“愛人が子どもの相続権を主張してきた”など、思わぬもめ事が噴出することは珍しくありません。こういった問題はなかなか相談しづらいものですが、相続にはタイムリミットが明確に定められています。したがって、相続問題が発覚した際にはすみやかに弁護士に相談し、適切な対策を講じることが重要です。
そこで今回のコラムでは、横浜オフィスの弁護士が、愛人の子ども(非嫡出子)との相続争いを避けるための方法について解説します。
1、嫡出子と非嫡出子の違い
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(1)嫡出子・非嫡出子とは
“嫡出子” “非嫡出子”は一般には耳慣れない言葉ですが、れっきとした法律用語です。
“嫡出子”とは法律上の婚姻関係にある男女、つまり婚姻届を出して結婚した夫婦の間に生まれた子どものことです。一度嫡出子として生まれた子どもは、その後父母が離婚したとしても、非嫡出子になることはありません。
一方、“非嫡出子”は、法律上の婚姻関係にない男女の間に生まれた子どものことです。たとえば、既婚者の男性と不倫相手との間に生まれた子どもや、恋人同士の間に生まれたがその後ふたりが結婚しなかったケースなどが“非嫡出子”に該当します。
“非嫡出子”でも、父親が“認知”を行うことにより、法律上の父子関係が認められ、相続権や養育費請求権が発生します。認知とは、親子関係を認める法律上の手続きです。したがって、認知されていない非嫡出子は父親の相続権を有しないということになります。 -
(2)さまざまな嫡出子のケース
夫婦の間に産まれた子ども以外にも、法律上はさまざまな形の嫡出子が存在しています。
たとえば、以下のようなケースも嫡出子となります(民法第772条)。- ●未婚時に誕生→父親が認知→父母が婚姻
- ●未婚時に誕生→父母が婚姻し→父親が認知
- ●父親の死亡後、または離婚後300日以内に誕生
- ●養子縁組 ※再婚相手と養子縁組を結んだ場合も含む
2、非嫡出子の相続
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(1)非嫡出子と嫡出子の相続分は同等か?
2013年(平成25年)に法改正がされるまで、非嫡出子の相続分は嫡出子の2分の1しかありませんでした。しかし同年「法の下の平等を定める憲法14条1項に違反」するとして、非嫡出子の相続に関して違憲判決が最高裁判所で下されたことから、同年12月に非嫡出子と嫡出子の相続分を同等とする改正法が施行されました。
そもそも嫡出子として生まれてくるかどうかは子ども本人が選べるものではありません。したがって非嫡出子であっても子どもが不利益を被るのは不合理であるという考えが、法改正の背景にあります。
なお、改正法が適用されているのは、平成25年9月5日以後に開始した相続になります。 -
(2)非嫡出子の法定相続分
相続人には、それぞれ財産を相続する順位と割合が定められています(民法第900条)。これを法定相続分といい、遺言書がなかった場合、相続人全員で話し合う遺産分割協議か、法定相続分にしたがって遺産を分け合うことになります。
法定相続分の順位と相続割合は、以下の通りです。
1位 配偶者:2分の1、子ども:2分の1 ※子どもが2人以上の場合は2分の1を均等に分ける 2位 配偶者:3分の2、直系尊属(親):3分の1 ※子どもがいない場合 3位 配偶者:4分の3、兄弟姉妹:4分の1 ※親も子どももいない場合
たとえば、被相続人に配偶者と子どもがいる場合には、配偶者と子どものみが相続人となります。もし配偶者がすでに亡くなっている場合には、子どものみが遺産を相続することになります。子どもが複数人いる場合には、全員で均等に分け合うことになります。
なお、非嫡出子と嫡出子は法的に同等の扱いであるため、法定相続分の順位は1位となります。 -
(3)遺産分割協議には非嫡出子も参加の必要がある
非嫡出子が被相続人である父親から生前に認知されていた場合や、遺言の中で認知されていた場合は、嫡出子と同等の相続人とみなされます。
遺産分割協議には必ず相続人全員が参加しなければならないので、「遺産を渡したくないから」と非嫡出子抜きで遺産分割協議を行っても無効となります。必ず非嫡出子も交えて協議を行うようにしましょう。
3、非嫡出子が認知されていなかった場合
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(1)死後認知請求される可能性がある
もしも、父親が非嫡出子を認知しないまま亡くなってしまった場合でも、死後3年以内に死後認知請求の訴訟を提起される可能性があります(民法787条)。
死後認知が裁判官によって認められると、非嫡出子が生まれたときにさかのぼって親子関係があったとみなされ、相続権が発生します。生前であれば父親を被告とするのですが、この場合父親はすでに死亡しているため、代わりに管轄裁判所に対応する地方検察庁を相手に訴訟が提起されます(人事訴訟法12条3項)。 -
(2)死後認知請求と相続分
非嫡出子が死後認知請求訴訟を提起すると、被相続人の配偶者を除く相続人(嫡出子)などの利害関係人のもとに訴訟が提起されたことを通知します(人事訴訟法28条、人事訴訟規則16条)。なぜ配偶者を除くのかというと、非嫡出子が認知されても、配偶者の相続分は2分の1のまま変わらないからです。
一方、子どもが2人以上の場合は、2分の1の相続分を子供の人数で均等に分けることになるため、子どもの人数が増えれば増えるほど、子ども一人当たりの相続分は少なくなります。 -
(3)遺産分割協議が完了していた場合
非嫡出子が死後認知された時点ですでに遺産分割協議が完了していた場合でも、確定した遺産分割協議は無効とはなりません。遺産分割協議をやり直さなければならないとなると、負担が大きすぎるからです。
その場合は、非嫡出子が民事訴訟を提起し、相続分について金銭による支払いを求めてくる可能性があります(民法910条)。
もしも遺産分割協議が完了し、さらに相続税申告も終了した後に死後認知が認められた場合、他の相続人は払いすぎた相続税額の払い戻しを請求できます。“更生の請求”手続きの期限は、死後認知の裁判が確定したことを知った人の翌日から4か月以内です。
4、非嫡出子との相続争いを避けるために
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(1)生前に非嫡出子を認知し家族に知らせておく
非嫡出子と嫡出子の相続争いを避けるためには、やはり父親自身が生前の段階から対策を講じておくことが重要となります。できれば生前から家族に愛人との子の存在について説明を行い、相続についても家族全員が納得できるような方法を決めておくことが理想的です。
しかし、「家族に愛人の子の存在をどうしても言いづらい」と思い悩むケースもあるでしょう。その場合は、遺言の中で愛人の子の存在を明かし、認知することができます。
遺言による認知は、被相続人である父親が亡くなった時点で、非嫡出子の誕生時にさかのぼって効力が生じます。遺言による認知すら行わないまま死亡すると、死後認知請求の訴訟を起こされ、ますます相続争いが複雑化するおそれがあります。 -
(2)遺言書で非嫡出子の相続について明記する
遺言書を作成する際には、何を誰に相続させるのか明記しておくことが、相続争いの防止につながります。家族との関係性を踏まえて、各人が納得のいくような相続割合にすることが大切です。
非嫡出子の遺留分を侵害していないかどうかという点にも、注意しましょう。
遺留分とは、法律により保障されている最低限の相続分です。子どもの場合、遺留分は法定相続分の2分の1となります。非嫡出子に遺産を渡したくないからと、極端に少ない相続分を記載したとしても、遺留分侵害額請求をされる可能性があります。 -
(3)早めに弁護士に相談する
生前対策や相続争いで困ったときは、早めに弁護士に相談することをおすすめします。相続トラブルの実務経験を重ねてきた弁護士であれば、状況に応じてさまざまな解決策を提案してくれることが期待できるでしょう。
相続争いの防止につながる遺言書の書き方についても、弁護士がアドバイスを行います。また弁護士はトラブル当事者同士の間に入って交渉してくれるので、精神的ストレスからもある程度解放されるかもしれません。
相続争いは、家族の感情が露呈しやすく他の法律トラブルよりも長期化しやすい傾向があります。数々の相続争いに対応してきた弁護士なら、冷静な話し合いを実現が期待できます。
5、まとめ
非嫡出子は、婚姻関係にない男女の間に生まれた子どもですが、父親に認知されることによって相続権を取得します。非嫡出子と嫡出子の相続分は同等であり、生前に認知されている場合や遺言書の中で認知された場合には、非嫡出子も相続人として遺産分割協議に参加させなければなりません。もし認知された非嫡出子抜きで遺産分割協議を行っても、無効となります。
非嫡出子を認知しないまま父親が死亡した場合であっても、死亡から3年以内であれば非嫡出子は死後認知請求訴訟を提起することができます。この場合、相続争いがさらに複雑化するおそれがありますので、非嫡出子がいる場合には生前の早い段階から弁護士に相談して対策を講じることが重要になります。
ベリーベスト法律事務所 横浜オフィスには、相続問題の解決実績が豊富な弁護士が在籍しております。相続でお悩みの際はぜひご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています