生前贈与はメリットが多い? 注意点や手続きの流れを弁護士が解説
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相続が発生した場合、相続人として遺産を受け取った方は、被相続人が亡くなった際の住所に基づき、相続税の申告を行うことになります。横浜市内には複数税務署がありますので、どこに申告すべきなのかについては、ホームページや電話などで確認するとよいでしょう。
相続は、財産を持つ方が亡くなったときに開始するものです。しかし、生きているうちに指定した相手に対して無償で財産を渡す手続きもあります。それが「生前贈与」です。
節税効果がある、相手を選べるなどさまざまなメリットがあるといわれています。一方で、注意点も多く、慎重な判断が求められる手続きでもあります。必ずしもメリットだけとは限らない点も知っておかなくてはなりません。そのためには制度の仕組みをしっかりと理解する必要があります。
今回は、生前贈与のメリット、デメリット、手続きの概要について、横浜オフィスの弁護士が解説します。
1、生前贈与のメリット
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(1)節税効果
同じ財産でも、相続で渡すときと比較し、節税効果に期待できます。平成25年の税制改正によって、相続税が実質的に増税となったことで、生前贈与の節税効果が高まったといえるでしょう。
非課税枠をうまく使えば、相続として財産を引き継ぐよりも税金を低く抑えることも可能です。たとえば財産の一部を、非課税枠の範囲内で生前に贈与しておけば、贈与税がかからず、贈与した分だけ相続財産を減らすことができますので、相続税も減額されることになります。
贈与税や相続税は誰が払うのかといえば、財産を受け取った方です。これから財産を譲ろうと考えている方が受け取る側へ行う、金銭的な配慮と言い換えることもできます。具体的には「暦年課税」か「相続時精算課税」を選択し、次のような特例を用いて非課税枠を最大限に利用することも可能です。- 住宅取得資金の特例
- 夫婦間贈与の特例
- 教育資金贈与の特例
- 結婚子育て資金贈与の特例
ほかにも多数の特例があります。種類や適用条件は国税庁のホームページなどをご確認ください。
また、令和元年に施行された相続法の改正により、結婚期間が20年を超えた夫婦間で自宅の贈与が行われた場合は、特別受益として扱う必要がないことになっています。そのため、遺された配偶者へより多くの財産を相続してもらうことが可能となりました。 -
(2)時期を選べる
相続は人が亡くなったときに発生するため、いつ相手に渡すことができるのか、時期が不確定です。しかし、生前贈与ならば時期を選ぶことができます。
たとえば不動産など将来的に値上がりが見込まれるものを早めに贈与しておくことで、後になって財産を渡すよりも税金を抑えられるケースがあります。 -
(3)相手を指定できる
相続の場合、法定相続人にあなたの財産を引き継いでもらうことになります。しかし、生前贈与であれば、財産を渡す相手を自分で選択することができます。
たとえば、事実婚の相手、特別世話になった友人など、相続人以外であっても財産を受け取ってもらうことができます。
遺言書を作成すれば、相続人以外の人に財産を渡すことは可能ですが、法律上の形式を満たしていなければ無効となってしまいます。さらには遺言書があっても相続争いが起きるケースがあります。生前贈与であればこのような心配は少ないです。 -
(4)自ら話し合いに参加できる
自分が亡くなった後に発生する相続と異なり、生前贈与は自分が生きている間に行われることです。一定の制限があるものの、自分の意志をしっかりと主張し、受贈者やそのほかの人の意見も聞くことができます。相続では、自分がすでに亡くなっている以上、相続人同士の争いを止めることはできませんが、生前贈与ならばこれが可能です。
2、生前贈与のデメリット
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(1)判断を間違えると余計に税金がかかる
生前贈与を上手に使うことで、確かに節税効果が見込めます。しかし、登録免許税や不動産取得税は、贈与にかかる税率が高くなるため、必ずしも有利になるとは限りません。
どちらの節税効果が高いのかをしっかり見極める必要がありますが、これを一般の方が判断することは簡単ではないでしょう。 -
(2)亡くなる3年以内に行われた贈与は相続扱いになる
生前贈与をしたが3年以内に贈与者が亡くなってしまった場合、相続扱いとなり、相続税の課税価格に含まれます。生前贈与加算といい、支払った贈与税は、支払うべき相続税から差し引かれます。
もちろん、いつ亡くなるのかは誰にも分からないわけですが、生前贈与をしたいのであればできるだけ早い段階で動き出した方がよいでしょう。 -
(3)否認されることがある
生前贈与は、それが贈与であると認められてこそ、税金の控除や特例を適用し、結果として節税につながります。
これを誰が認めるのかといえば税務署です。いくら「この分は贈与にあたる」と口でいっても否認されてしまうことは少なくありません。また、贈与はれっきとした契約ですので、ご自身が贈与したと思っていても、受贈者が承諾していなければ無効となります。
よくあるのが、親が子ども名義で積み立てておいた預貯金について、子どもが合意をしていないとして、相続として扱われてしまうケースです。立証に効果があるのは贈与契約書です。口頭でも成立しますが、必ず契約書を作成しておきましょう。
3、生前贈与の手続きと流れ
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(1)財産の把握とライフプランの設定
まずはご自身の財産と負債がどれくらいあるのかを明確にしましょう。相手のためだと思って贈与しても、それがご自身の生活を圧迫するようでは大きな問題です。人生100年時代の到来ともいわれる昨今ですので、ご自身や配偶者のライフプランもしっかり立て、将来的な収入や支出までを見据えるようにしましょう。
ここまで考えてから、誰にどの財産を与えるのかを決めます。 -
(2)契約書の作成
贈与は双方が合意し、契約書を適切に作成しておくことで、本当に贈与なのかが問われた際に立証できます。契約書の形式に決まりはありませんが、少なくとも税務署に認められるための体裁は整える必要があります。
次の3つは入れておき、署名押印するようにしましょう。- 贈与者と受贈者の氏名
- 贈与の時期
- 贈与の方法および贈与の内容
自筆する、実印を用いる、公証役場で日付の証明を取得するなどした方が、高い証明力を発揮します。
契約書は2通作成し、割り印をして、それぞれ贈与者と受贈者が保管しておきましょう。なお、不動産の場合は登記の申請があわせて必要となり、契約書の記載にも注意点が多くなりますので、専門家を頼ることが賢明です。 -
(3)贈与と税金の申告
いよいよ贈与を行います。現金の場合は下手に手渡しするより、振り込みにして贈与をした証拠を残しておく方が確実です。
その後、受贈者が贈与税の申告をします。年間110万円を超える贈与を受けたか、相続時精算課税を適用するときは申告が必要です。特例を利用した結果として税金がゼロになる場合でも申告自体は必要です。
あなたが贈与者であれば、こうした情報も相手に伝えておくとよいでしょう。
4、スムーズな生前贈与を実現させるためには?
生前贈与をスムーズに行うには、専門家のサポートが必要不可欠です。なぜなら生前贈与には、相続人となる人たちへの配慮や、贈与と相続の仕組みをよく理解することが求められるからです。
何となく見聞きした情報をうのみにし、結果的に受贈者の税金負担が増えたり、相続人同士の争いの種になったりするのでは目も当てられません。場合によっては、その場では節税ができたとしても、やがて子どもが税金を払いきれなくなってしまうケースもあり得るのです。誰にどの財産を譲るのかを考える場面においても、次の相続人のことまで考慮し、税金の計算も行いながら判断しなくてはならないでしょう。
相続法や税法は非常に複雑であり、一般の方がしっかりと理解して行うことは難しいでしょう。弁護士や税理士へ相談する方が、多少の費用がかかったとしても結果として節税できたり、不要なトラブルを防いだりすることにつながります。弁護士と税理士が連携して対応できる法律事務所であれば、ワンストップでの対応が可能です。メリットとデメリットを見極め、検討してみてはいかがでしょうか。
5、まとめ
今回は生前贈与のメリットやデメリット、手続きの流れについて解説しました。
生前贈与にはさまざまなメリットがありますが、気をつけないとかえって受贈者の負担が増えてしまうリスクもあります。法律や制度の仕組みをよく理解して適切に手続きすることは簡単ではありません。ぜひ専門家に相談しましょう。それが財産を受け取る相手にとってもよい結果を生むことになります。
ベリーベスト法律事務所 横浜オフィスでもご相談をお受けします。財産にまつわるトラブルを回避し、節税もかなえるべく、税理士とも連携して全力でサポートいたします。
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