暦年贈与が相続対策にならないことがある? 落とし穴に注意
- 相続税対策
- 暦年贈与
- 注意点
神奈川県の中でも最も人口が多い横浜市には、山手町など古くからの西洋館を残す由緒ある街並みがあります。またハマッコという愛称があるように、土地に愛着をもち代々住み続ける人も少なくありません。
そのため、代々受け継ぐ土地・屋敷の節税や相続トラブル回避のため、生前から相続の準備を進めている方もいらっしゃるでしょう。
相続の節税方法として、利用されることが多いのが「暦年贈与」です。上手に使えば大きな節税効果が得られますが、方法を間違えると節税にならないどころか贈与税の支払いに困ることになりかねません。
相続税や相続人同士の争いは、資産額にかかわらず多くの方が直面する問題です。スムーズに相続を進めるために、まずは暦年贈与の仕組みやトラブルのケースなどを知っておきましょう。横浜オフィスの弁護士が解説します。
1、暦年贈与とは
贈与とは財産を無償で渡す意思表示に対し、相手がこれを承諾したことで成り立つ契約のことです。贈与の中でもよく利用されるのが暦年贈与です。どんな制度なのか、仕組みやメリットなどについて説明します。
-
(1)暦年贈与の仕組み
贈与税は贈与の際にかかる税金のことで、暦年贈与(暦年課税)と相続時精算課税の二種類があります。
このうち暦年贈与とは、1月1日〜12月31日までの1年間の贈与額の合計額に対して課税されるものです。贈与税には基礎控除枠があるため、年間の贈与を110万円以内におさめれば、贈与税をゼロにできます。贈与税が発生しないため、申告も必要ありません。
したがって、コツコツと生前に相続財産を贈与すれば、相続発生時の相続税を減らすことができます。 -
(2)節税効果が大きい
暦年贈与は利用の仕方によっては高い節税効果が期待できます。
まず贈与税額は、次の公式で求められます。
(贈与財産額−基礎控除110万)×税率−控除額
この式における税率と控除額は、110万円を差し引いた後の金額に応じて変動し、高額になるほどアップします。また贈与を受ける人の属性によっても変わります。
たとえば父親が長男に1000万円の贈与を予定しているケースで考えてみましょう。長男が1000万円を1年間で受け取った場合、贈与税率は30%、控除額は90万円であり、税額は下記の算出により177万円となります。
(1000万円−110万円)×30%−90万=177万円
一方で10年間にわたり100万円ずつ、合計1000万円受け取った場合、各年の贈与額が110万以下のため贈与税はかかりません。
同じ1000万円の贈与でも、暦年贈与を使えば177万円の節税につながるのです。 -
(3)暦年贈与の注意点
暦年贈与で非課税となるのは「受贈者(贈与を受けた人)が受け取った総額が110万円まで」であり、「贈与者(贈与をした人)が渡した総額が110万円まで」ではありません。
たとえば長男が両親からそれぞれ110万円を受け取った場合、長男が受け取った総額は220万円であり、非課税枠を超えてしまいます。
超過分は課税対象となり、金額や受遺者の属性に応じて贈与税が課されます。
2、暦年贈与と認められないケースとは
暦年贈与の利用を間違えると、節税効果が得られないことがあります。次のような点に注意してください。
-
(1)形式的な贈与とみなされるケース
贈与は渡す側と受ける側の合意に基づき、確実に行われていることが必要です。「形式的な贈与で実際には受け渡しがなかった」と認められる場合には、税務署に贈与が行われていないと判断されてしまう可能性があります。
たとえば親が子ども名義の口座を作り、子どもに告げずに財産を入金していた場合です。キャッシュカードや印鑑を親が管理していたり、子どもが口座の存在を知らなかったりすると、子どもは自由にその財産を使うことができないため形式的な贈与とみなされてしまうでしょう。
また、手渡しでのやりとりも口座に記録が残らないため注意が必要です。
実際の贈与はなかったと判断されれば、暦年贈与による節税にはなりません。こういったケースを防ぐために、贈与を受けた方が口座を管理したり、贈与契約書を作成して両者の合意を文書で残したりするなど確実に贈与を実行し、客観的な証拠を残しておきましょう。 -
(2)定期贈与とみなされるケース
年間110万円までの贈与は非課税ですが「100万円ずつ、10年間にわたって計1000万円を贈与する」といった契約をしていた場合は「定期贈与」にあたります。
定期贈与の場合、最初に贈与があった年に総額に対して贈与税が課されます。
もちろん暦年贈与の非課税の恩恵は受けられません。
贈与契約書を作成していなかったとしても、毎年同じ時期に一定の金額が贈与されている場合、税務署に定期贈与を疑われる可能性があります。
ただし特に計画なく100万円ずつ10年間贈与したというようなケースは、定期贈与ではなく連年贈与となるため非課税です。
暦年贈与を利用する場合には定期贈与で契約しないように、また税務署に定期贈与とみなされないように注意しましょう。 -
(3)相続開始前3年以内は相続税の対象となる
被相続人の相続開始前3年以内(亡くなった日からさかのぼって3年前の日から、亡くなった当日までの間)に被相続人から受けた贈与は、贈与税の対象となります。
相続税の課税対象は「相続発生前3年以内の贈与+相続発生時の財産」です。これを「生前贈与加算」といいます。
対象期間において、贈与額が110万円以下であり相続税がゼロだったとしても、結果として相続税の対象となるため、節税効果はなかったことになります。
したがって被相続人が病気になり、余命数か月と宣告されるような状況になってから贈与をするといったケースでは、節税効果が得られない可能性があります。
3、暦年贈与をめぐるトラブルと対策
節税がトラブルのきっかけになるケースもあります。事前に弁護士へ相談するなど十分な対策をしておきましょう。よくあるトラブルは以下の通りです。
-
(1)贈与の証拠がない
暦年贈与をしても、税務署が定期贈与や形式的な贈与だと判断すれば税金が課されてしまいます。また誰にいくら贈与したのかがわからなければ、遺産分割の際に相続人がもめる原因にもなりかねません。
対策としては、暦年贈与の際に贈与の証拠として毎回必ず「贈与契約書」を作成することです。贈与契約書があれば贈与に双方の合意があったことや金額、日付が明らかになります。税務署から問い合わせを受けた際に、暦年贈与を示す証拠として役に立つほか、どの相続人が生前にいくら受け取っていたかがわかるため、遺産分割の際に役立ちます。
また、贈与の際に口座振込を利用することもおすすめです。贈与金額や日付が残るため、贈与の裏付けとなります。 -
(2)一人の相続人が多額の生前贈与を受けていた
複数の相続人がいる場合、一人だけが被相続人から多額の生前贈与を受けていると、ほかの相続人が不公平と感じ、トラブルになることが珍しくありません。
贈与によりほかの相続人の最低限の取り分である「遺留分」が侵害された場合、侵害分の支払いを求める、遺留侵害額の請求をされる可能性もあります。
なお遺留分の対象となる生前贈与は、次のようなものです。- 相続開始前1年以内の生前贈与
- 相続開始前1年以上であっても、贈与側と受け取り側が遺留分の侵害であることを知っていた贈与
- 相続開始前10年以内の特別受益にあたる贈与
特受受益とは、一部の相続人だけが受け取っていた特別な利益です。暦年贈与をする場合には、すべての相続人への配慮や説明を欠かさないようにしましょう。
-
(3)相続人ではない人物に贈与されていた
贈与は知人など、相続人以外の人物に対してすることもできます。
ただしこの場合も相続人の遺留分が侵害された場合には、遺留分侵害額請求の対象となる可能性があります。特に相続人が知らない人物であったり、生前贈与の結果遺産が大幅に減ってしまったりした場合には争いのもととなりますので、注意してください。
4、トラブルを避けたいときは弁護士に相談
暦年贈与は思わぬ相続トラブルにつながったり、税務署から疑念の目を向けられたりする可能性がありますので弁護士と一緒に進めることでリスクを軽減することが大切です。弁護士に相談すれば次のようなメリットが期待できます。
-
(1)自分にあった正しい節税対策ができる
節税対策をするためには、財産の洗い出しや相続税の計算から始める必要があります。
また暦年贈与以外にも、財産の種類や金額によってさまざまな節税方法が利用できるため、ご自分の状況にあった方法を選ぶことが大事です。
相続問題の経験が豊富な弁護士であれば、財産の洗い出しから相節税の方法のアドバイスまで、総合的にサポートしてくれます。 -
(2)遺言書の作成をサポートしてもらえる
できるだけ被相続人の意思を反映した相続を行うためには、遺言書の活用が欠かせません。
しかし、形式に不備があれば正式な遺言書として認められません。また、一人の相続人に全ての遺産を相続させるなど、相続人全員への配慮が欠けた内容であれば、相続人同士のトラブルのきっかけになります。
弁護士に依頼すれば形式のチェックはもちろん、被相続人の意思を反映しながら、できるだけトラブルにならない内容の遺言書を作成できます。
5、まとめ
相続は財産額にかかわらず、さまざまなトラブルを引き起こします。できるだけスムーズに相続を進めるためには、生前から弁護士と一緒に相続対策をすすめておくことが大切です。暦年贈与をはじめ相続問題でお悩みの際にはベリーベスト法律事務所 横浜オフィスにご相談ください。
弁護士はお客様の財産の内容や家庭の状況などを細かくお聞きし、節税の方法や遺言書作成のアドバイスをいたします。どうぞお気軽にご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています