関係を絶ちたい! 「配偶者の親が毒親」という理由で離婚はできる?
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近年、「毒親」という言葉が脚光を浴びました。毒親とは、医学用語でも法律用語でもありません。アメリカのセラピスト、スーザン・フォワードによる造語で、「子どもに害悪を及ぼす親」を表します。ここには、ストレートな虐待はもちろん、言葉や態度によって子どもをコントロールしようとする親などが含まれているようです。支配を受けている子どもは、自らの事態に気づかないまま大人になっているケースも少なくありません。
いざ結婚してみたら、結婚生活を続けるのが苦痛になってしまうほど配偶者の親の干渉がひどく、毒親の存在に悩まされている……という相談を、横浜オフィスでもいただくことがあります。毎日のように電話がかかってくる、頻繁に金銭を要求されるなど、エスカレートする毒親の行動に、できれば配偶者とは親子の縁を切ってもらいたいと思うこともあるでしょう。もし縁を切れないのであれば離婚も考えてしまうかもしれません。
本コラムでは、毒親と配偶者の親子の縁は切れるのか、あなた自身は相手の親が毒親だという理由で一方的に離婚できるのかどうかなどについて解説します。
1、離婚を考える前にまずは見極めが必要
配偶者の親が毒親だったことを理由に離婚を考える場合、まず重要なのは、問題があるのが本当に配偶者の親なのか、あるいは配偶者自身なのかを見極めることです。
そもそも配偶者の認識が以下のようなケースでは、夫婦間の価値観に相違があると考えられます。
- 配偶者が、親とあなたの仲介をしない
- 配偶者が毒親の言いなりになっているケース
- 配偶者も自らの親に従うことが当然だと考えている
- 配偶者が親に依存している
このような場合はまずはしっかり話し合い、価値観をすり合わせてみてはいかがでしょうか。問題は配偶者の親ではなく、あなたの配偶者自身です。場合によっては、あなた自身も相手の話をよく聞き、価値観を見直す必要があることもあるでしょう。それが、他人と他人が寄り添いふたりならではの家族を作っていくということだからです。
反対に、配偶者が自分の親は毒親であるという認識を持ち、毒親からあなたを守ろうとしているのであれば、夫婦間の問題ではありません。
そのいずれかを正しく見極め、今後の対応を考えていくようにしましょう。
2、配偶者も毒親と縁を切りたいと考えているときは?
配偶者も毒親と縁を切りたいと考えている場合、どうすればよいのでしょうか。
結論からお伝えすると、あなたの配偶者はすでに大人になっている以上、結婚しても養子縁組をしても変わらず、法律上の親子関係を切ることはできません。親子である以上は扶養する義務や、相続に関する権利や義務も消えないということです。
しかし、物理的な距離を置き、接点を作らないことはだれにでもできます。適切な距離感を保つことができれば、精神的なストレスを軽減できる可能性は大いにあるでしょう。毒親が訪れることができない場所に住み、とにかく連絡をとらないことに徹する方法です。
それでも毒親は、住民票の写しを請求するなど、なんとか居場所を突き止めようとするかもしれません。親子関係があれば戸籍や住民票の請求は可能となるためです。
その場合、DVやストーカー、子どもの虐待などから身を守るために利用される「住民票の閲覧制限」をかけられることがあります。住民票の閲覧制限をかけられた場合、毒親が子どもの住民票の写しを請求しても役所が拒否してくれるため、居場所を知られることはありません。ただし、毒親の子どもであるあなたの配偶者が手続きを行う必要があるでしょう。
そこまでしても何らかの手段で住所を調べられる可能性は十分考えられます。命の危険を脅かす可能性があるときは、躊躇せず警察に連絡してください。
3、一方的に離婚できる理由とは?
では、配偶者の親が毒親だということを理由に、一方的な離婚はできるのでしょうか。
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(1)離婚が成立する条件
お互いが離婚に同意すれば、離婚届を提出すれば離婚は成立します。個人的な話し合いによって成立する離婚は「協議離婚」です。この場合は、離婚をするかどうかだけでなく、財産分与や慰謝料、子どもがいれば親権や養育費についてもしっかり話し合いを行うことを強くおすすめします。
話し合いをしても、相手が離婚に合意しなかった場合や離婚の条件がまとまらない場合は、家庭裁判所の調停によって話し合う調停を行います。調停を通じて成立した離婚は「調停離婚」と呼ばれています。
調停でも離婚が成立しないときは、いよいよ裁判です。裁判所の判決によって成立した離婚を「裁判離婚」になります。 -
(2)法定離婚事由とは?
相手が離婚を拒んでいる状況下で裁判所を通して離婚しようとするときは、「法定離婚事由」が必要です。価値観が違う、性格が合わないなどというだけでは離婚は認められません。
民法第770条1項では、次の5つを法定離婚事由として規定しています。- ①不貞行為
- ②悪意の遺棄
- ③3年以上の生死不明
- ④配偶者が不治の精神病
- ⑤その他婚姻を継続しがたい重大な事由
不貞行為とは、配偶者以外の異性と自由意志で肉体関係を持つことで、つまり不倫していたような場合です。そして、配偶者に生活費を渡さなかったり、きちんとした理由もないのに働かなかったり、また、理由もなく同居を拒否するなどの行為が悪意の遺棄です。
その他の婚姻を継続しがたい重大な事由とは、長期間の別居生活やDV、モラハラ、薬物依存、異常な宗教活動、ギャンブル、セックスレスなどが原因で夫婦関係が破綻し、信頼関係の回復が不可能と認められた場合のことです。
つまり、配偶者の親が毒親だという事実があっても、配偶者が有責でなければ一方的な離婚は難しいといえるでしょう。ただし、配偶者があなたと毒親との関係を仲介する、もしくは毒親からあなたへの嫌がらせを阻止する役割を担わなかったという事実を立証できれば、⑤の「その他婚姻を継続しがたい重大な理由」に該当する可能性もあります。
なお、いずれの法定離婚事由であっても、「離婚を求めることはやむを得ない」と納得できるだけの証拠が求められます。離婚を決意した時点で証拠を集めておくことをおすすめします。
4、慰謝料を請求できる条件とは?
では仮に離婚が成立するとして、慰謝料の請求はできるのでしょうか。
慰謝料の請求は配偶者へ行うことが原則です。不貞行為などのように配偶者が有責であれば慰謝料を請求することができますが、親が毒親だというだけでは配偶者に慰謝料の請求は難しいでしょう。
ただし、毒親から暴行、脅迫、強要を受けたなど、現実的に損害を受けたことを立証できれば、慰謝料の請求が可能です。この場合、配偶者に有責性がない限り、毒親自身へ直接請求することになります。
5、弁護士に依頼するメリット
最後に、配偶者の毒親問題を弁護士に依頼するメリットをお伝えしましょう。
前述のとおり、残念ながら、配偶者と毒親の法律上の親子関係を断ち切ることはできません。それだけを理由に一方的に離婚することもできませんし、慰謝料の請求も困難です。
しかし、裁判所を通さずに協議離婚に向けての交渉を進められる可能性があります。弁護士に相談することで、できる限り有利な結果になるようアドバイスしてもらうことができます。第三者の立場として毒親との間に入って交渉してもらうことも可能です。
また、裁判所に申し立てを行い、毒親に対して執拗なつきまといを止めるよう仮処分命令を出してもらうという方法もあります。一時的なものではありますが、裁判所からの命令であればいかな毒親であっても効果がある可能性が高いと考えられます。裁判所に親族関係調整調停を申し立て、調停員を間に入れて話し合いの場を設ける方法もあります。
これらの申し立てを行うにあたり、弁護士であればスムーズに必要な準備を進めることが可能です。弁護士を代理人とすれば関係者と直接顔を合わせる心配がありません。あなた自身は身を潜め、日常をつつがなく過ごしたまま話し合いを進めることもできるでしょう。
1日でも早く配偶者の毒親との関係を改善し、平穏な暮らしを取り戻すことができるよう、ひとりで悩まずに弁護士に相談してみてください。
6、まとめ
今回は、配偶者の親が毒親だった場合、それを理由に親子の縁は切れるのか、切れない場合には離婚できるかなどについてお伝えしました。結論としては、毒親であることだけを理由に親子の縁は切れませんし、一方的な離婚もできません。しかし、距離を作ることで環境を改善できる可能性もあります。また、状況に応じて裁判所に申し立てを行うこともできます。
配偶者の毒親問題でお困りの際は、ベリーベスト法律事務所横浜オフィスまでご連絡ください。横浜オフィスの弁護士が、平穏な暮らしに戻れるよう、全力でサポートします。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています