財産分与の基準時はいつ? 不動産などの財産価値や評価の決め方

2024年06月25日
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財産分与の基準時はいつ? 不動産などの財産価値や評価の決め方

横浜市が公表する統計データによると、横浜市全体における令和4年度の離婚件数は4978件でした。内、同居から離婚までの期間別でみると、最も多いのは「20年以上」で、次点に「5年以上10年未満」、さらに「10年以上15年未満」「15年以上20年未満」が続く結果となっています(「不詳」を除く)。

このように婚姻期間が長い夫婦が離婚を選択する傾向にあることがわかります。婚姻期間が長い夫婦の場合、お互いに築いてきた財産も多くなりますので、離婚にあたっては、財産分与が問題になることが多いです。

離婚を前提に別居をしているという場合には、夫婦の財産が目減りしていく可能性があるため、どの時点の財産を基準として財産分与を行うのかが重要となります。今回は、財産分与の基準時と財産の評価方法などについて、ベリーベスト法律事務所 横浜オフィスの弁護士が解説します。


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1、財産分与の基準時

財産分与をする際には、どの時点を基準に財産を分けることになるのでしょうか。財産分与では「範囲」と「評価」で基準時が異なってきますので、以下ではそれぞれについて説明します。

  1. (1)財産分与の範囲の基準時

    財産分与の「範囲」の基準時とは、どの時点までに存在している財産を財産分与の対象に含めるのかという問題です。

    財産分与は、夫婦が協力して築いてきた財産を分ける制度ですので、財産分与の範囲の基準時を考える際も夫婦の協力関係がいつまで続いていたかという視点で考えることになります。このような視点からは、財産分与の範囲の基準時は、別居時であると一般的に考えられています。

    なぜなら、夫婦が別居をすることになった場合には、夫婦の共有財産の維持・形成に対する協力関係が一応終了したと考えられるからです。

    もっとも、別居後も夫婦の共有財産の維持・形成に対する協力関係が継続していたといえる事情がある場合には、そのような事情を加味した上で、財産分与の基準時を修正する必要があります。

    たとえば、別居後に得た給料は、夫婦の協力関係とは関係なく形成された財産になりますので、財産分与の対象には含まれません。しかし、別居後も配偶者が給料を管理していたなどの事情がある場合には、別居日以降に形成された財産も含まれる可能性があります。

    このように財産分与の範囲の基準時は、別居時を基準にしながら個別具体的事情に応じて修正するという扱いがとられています

  2. (2)財産分与の評価の基準時

    財産分与の「評価」の基準時とは、財産分与の対象に含まれる財産をどの時点を基準にして評価をするかという問題です。評価の基準時をいつにするかは、財産分与対象財産に不動産や株式といった評価する時期に応じて価額が変動する財産が含まれている場合に問題となります。

    財産分与対象財産をいつの時点で評価するのかという問題は、夫婦の協力関係とは無関係な要素となりますので、直近の価額で決めることが最も公平であると考えられています。そのため、財産分与の評価の基準時は、離婚時が基準になります。

    すなわち、協議離婚であれば、離婚の話し合いがまとまった時点になりますし、調停離婚の場合には、調停成立時点、裁判離婚の場合には、事実審の口頭弁論終結時が基準になります。

2、財産の評価方法

財産分与の対象となる財産をどのように評価するのかについては、対象となる財産に応じて異なってきます。以下では、財産分与の対象となる代表的な財産について、評価方法を説明します。

  1. (1)預貯金

    預貯金については、別居時の預貯金口座の残高が基準となります。

    ただし、預貯金口座に特有財産が含まれている場合には注意が必要です。特有財産とは、夫婦の協力関係とは無関係に取得した財産のことをいいます。

    たとえば、婚姻前にためた預貯金や親から相続した預貯金などが特有財産にあたります。このような特有財産が預貯金に含まれている場合には、特有財産部分を控除して財産分与の対象財産を評価する必要があります。

    もっとも、預貯金の場合には、日々残高が変動するものですので、特有財産部分と共有財産部分が混然一体となって区別することができない場合もあります。特有財産を控除するには、特有財産であると主張する側がそれを主張立証していかなければなりません

  2. (2)不動産

    不動産は、預貯金のように一義的な評価方法があるわけではなく、以下のような複数の評価方法が存在しています。

    • 固定資産税評価額
    • 路線価
    • 不動産鑑定士による鑑定額
    • 不動産業者の査定額


    どの評価方法を採用するかによって、不動産の評価額は大きく異なってきますので、不動産が財産分与の対象財産に含まれる場合には、評価方法の選択が非常に重要になってきます。

    基本的には、当事者が合意をすればどのような評価方法でも利用することができますが、お互いに合意ができない場合には、不動産鑑定士による鑑定を利用するのが、最も正確かつ信用性のある金額を出すことができるといえます。ただし、不動産鑑定士による鑑定を利用する場合には、多額の鑑定料を負担しなければならない点に注意が必要です。

  3. (3)生命保険

    掛け捨てではない生命保険は、解約した場合に解約返戻金が発生します。この解約返戻金も婚姻期間中に保険料を負担することで築いた夫婦の共有財産ですので、財産分与の対象財産に含まれます。

    生命保険金は、別居時に解約をしたと仮定した場合の解約返戻金を財産分与の対象財産として評価することになります。

    ただし、独身時代から加入している生命保険については、独身時代の加入期間を控除して、解約返戻金を算定する必要があります。

  4. (4)株式

    株式が夫婦の共有財産に含まれる場合には、別居時点で存在する株式が財産分与の対象財産になります。別居後に新たに取得した株式については、夫婦の協力関係に基づいて取得したものと評価されない限りは、財産分与の対象外となります。

    株式は、その価額が日々変動する性質を持つ財産であるため、どの時点で評価をするかが問題となりますが、前述のとおり「離婚時」の株価を基準にして評価することになります。

3、別居後に財産を一方が浪費した場合

別居後、夫婦のどちらかが財産を浪費した場合は、どのような扱いになるのでしょうか。

  1. (1)別居後の浪費は財産分与額には影響しない

    別居後に配偶者が勝手に預金を引き出して、浪費してしまった場合には、財産分与でもらうことができる財産が減るのではないかと心配になる方もいるかもしれません。

    しかし、財産分与の範囲は原則として別居時が基準になりますそのため、別居後に浪費があったとしても財産分与の対象財産の範囲には影響はありません

    たとえば、共有財産として預貯金が200万円あったところ、別居後に夫が100万円を浪費してしまったという場合、財産分与の対象となるのは、別居時に存在した預貯金200万円です。

    これを夫婦で2分の1ずつ分けることになりますので、妻が100万円、夫が100万円となりますが、夫はすでに100万円を使ってしまったので、夫が財産分与でもらうことができる財産は0円となります。

  2. (2)別居前の浪費の場合には財産分与では考慮されない

    別居後の浪費であれば、財産分与において不利益を受けることはありませんが、別居前の浪費の場合には話が別です。財産分与の範囲の基準時は、別居時ですので、別居前に浪費があった場合には、浪費によって減少した財産が財産分与の対象になります。

    もっとも、財産分与は、夫婦の財産形成・維持に対する貢献度に応じて財産を分ける制度ですので、一方に著しい浪費があった場合には、財産分与の割合を2分の1よりも少なくするなどの方法で対応することができる場合もあります

4、離婚については弁護士へ

離婚についてお悩みの方は、弁護士に相談をすることをおすすめします。

  1. (1)相手との交渉を任せることができる

    離婚をする場合には、相手との話し合いを避けて通ることはできません。離婚を検討するような状態の夫婦だとお互いに険悪な関係になっていることも少なくありませんので、当事者同士では話し合いを進めることが難しい場合もあります。

    弁護士であれば、本人に代わって離婚に関する話し合いを進めることができますので、スムーズな話し合いを実現することができるだけでなく、離婚の話し合いをしなければならないという精神的負担を解消することができます。

  2. (2)有利な条件で離婚できる可能性が高くなる

    離婚をする場合には、離婚をするかどうかだけでなく、親権、養育費、慰謝料、財産分与などさまざまな離婚条件を取り決める必要があります。

    たとえば、財産分与だけでも、どの範囲の財産が対象になるのか、どの時点の財産が対象になるのか、どのように財産を評価するのかなど複雑な問題が生じます。このような問題を適切に解決するためには、法的知識と経験が不可欠となります。

    不慣れな方では、相手方から提示された離婚条件が有利なものであるかどうかを判断することができず、不利な条件で離婚をしてしまう可能性もあります。少しでも有利な条件で離婚をしたいという方は、専門家である弁護士のサポートを受けながら進めていくようにしましょう

5、まとめ

財産分与は、離婚時の財産給付のなかでも、結婚生活が長ければ長いほど金額が大きくなりがちな項目です。離婚後に経済的に不安なく生活するためにも、財産分与をする際には、財産分与の範囲の基準時と評価の基準時をしっかりと理解しておくことが大切です。

離婚に伴い請求しようとしても、相手が財産を隠したり使い込んだりしていたというケースは少なくなく、泣き寝入りされている方は少なくないでしょう。しかし、これまで家族を支えてきた分をしっかり受け取ることで、離婚後も安定した生活を送ることができます。財産分与や慰謝料請求など、離婚に関してお悩みの方は、ベリーベスト法律事務所 横浜オフィスまでお気軽にご相談ください。離婚問題についての知見が豊富な弁護士が新しい人生の一歩を踏み出せるようサポートします。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています