解雇予告には従わないといけないの? 通知書をもらえないときの対処法と注意点

2019年08月22日
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解雇予告には従わないといけないの? 通知書をもらえないときの対処法と注意点

平成28年11月、横浜地裁は、病院を懲戒解雇された常勤医の男性が処分の不当性を訴えた訴訟において、使用者だった病院に対して金銭の支払いを命じました。処分が不相当に重いと判断されたようです。

労働者と使用者の解雇トラブルは全国でも多数報道されており、会社勤めをされている方にとってはひとごとではないでしょう。ある日突然解雇予告を受けてしまったらと、不安に感じる方もいるかもしれません。この記事では、解雇の通知をされた労働者が知っておきたい基礎知識と対処法を、横浜オフィスの弁護士が解説します。

1、解雇予告通知書とは

労働者が解雇を通知されるとき、一般的に「解雇予告通知書」を受け取ります。解雇予告通知書とは、使用者が一方的に労働契約の解除を予告する書面です。労働者の氏名、会社名、代表者氏名のほか、解雇日や解雇理由、通知日などが記載されています。

  1. (1)使用者に課せられた解雇予告義務

    解雇と聞くと「お前は今日でクビだ」と、突然言い渡されるイメージをお持ちの方もいらっしゃるかもしれませんが、通常、解雇は予告をもって行われます。

    労働基準法第20条では、使用者が労働者を解雇する際、労働者に対して少なくとも30日前に予告をしなくてはならないことを定めています。30日前の予告ができない場合は、1日分の平均賃金を支払うことでその期間を短縮できます。

    たとえば、15日前に予告をする場合は、15日分の平均賃金が支払われる必要があるということです。

  2. (2)通知書と口頭による解雇予告の違い

    解雇予告は通知書によるものだけではなく、口頭でもよいとされています。通知書であっても、口頭であっても手続きの有効性に違いはありません。

    通常は、後々のトラブルを回避するために通知書を用いることが多いと考えられますが、使用者によっては口頭で済ませてしまうケースもあります。労働者が口頭による解雇予告を受けた場合は、解雇予告通知書か、後に説明する解雇理由証明書を求めることをおすすめします。

    これらの書面を手に入れておくことで「解雇ではなく労働者が勝手に辞めた」といった理不尽な主張を防ぐことができ、不当解雇を争う際にも役立ちます。

2、解雇予告通知書をもらったときの対処法

解雇予告通知書をもらってしまったら、動揺してその場では何も言えないことがあるかもしれません。しかし、今後の職業人生のためにも冷静に対処することが大切です。解雇を受け入れるにしても、確認を怠ってはいけません。

  1. (1)解雇日と解雇予告手当の有無の確認

    解雇予告通知書を受け取ったとき、まず確認するべきは解雇日です。解雇予告義務についてお伝えしたとおり、解雇日は、通知から30日以上経過した日が設定されていなくてはなりません。それより短い日付が解雇日であれば、解雇予告手当の支払いがあるはずです。いずれの手続きもなされていない場合には使用者に修正を求めることができます。

  2. (2)不当解雇か否かの確認

    次に確認するべきは解雇理由です。労働契約法第16条では、解雇について「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして無効とする」と定めています。つまり、解雇の手続きうんぬんの前に、正当な理由のない解雇は認められていないわけです。では、正当な理由のある解雇とはどのようなものでしょうか。

    使用者の解雇予告義務には次の例外があります。

    • 天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となった場合
    • 労働者の責に帰すべき事由に基づく場合

    たとえば地震で事業所が崩壊して再建不能となったケースや、労働者の重大な経歴詐称や犯罪行為などが発覚したようなケースが考えられます。言い換えれば、上記のようなよほどの理由がない限り、不当解雇にあたる可能性があると言えます。

  3. (3)解雇理由証明書を求める

    解雇理由証明書とは、解雇について正当な理由があることが示されている書面です。解雇予告通知書で解雇理由の詳細が示されていなければ、解雇理由証明書を求めるようにしましょう。

    労働基準法第22条には、使用者は、労働者が解雇理由の証明書を請求した場合に遅滞なく交付しなくてはならない、と定められています。したがって、労働者が解雇理由証明書を求めた場合、使用者は法律上拒否することができません。

    注意するべきポイントは「請求」が必要であるという点です。使用者は労働者から求められれば拒むことはできませんが、そもそも求められなければ書面で示す義務はありません。

  4. (4)解雇理由の確認

    解雇を受け入れる場合で、かつ転職先などが決まっていないのであれば、雇用保険被保険者離職票の交付を求めましょう。失業すると雇用保険から基本手当(いわゆる失業手当)を受給することができます。基本手当の受給要件や受給期間は、自己都合退職か解雇かによって大きく変わります。その判断のため、ハローワークの担当者は離職票を確認します。

    離職票の右側には離職理由を記載する欄があります。解雇にもかかわらず、労働者の自己都合だと記載されていないでしょうか。念のため確認をしたほうがよいでしょう。一方的な解雇だと分かる記載がなければ、使用者に修正を求める必要があります。

    なお、離職票は「資格喪失届」「離職証明書」とともに渡される3枚複写になった書類で、3枚目の離職票が労働者の元に送付されます。離職票が届くのは退職後ですが、原則、本人の記名捺印または自筆の署名が必要です。多くの場合、退職前に一度、本人に確認の機会があることがほとんどです。辞める前に離職票について何もやり取りがないようであれば担当者に確認してみましょう。

3、解雇を拒否する場合に注意するべきこと

ここからは、解雇を拒否する場合の注意点をお伝えします。

解雇に納得がいかない場合、「解雇は受け入れるが解雇手続きの違法性を訴える」のか「解雇自体が不当であると争う」のかによって対応が異なります。

  1. (1)解雇手続きがなされていない場合

    まずは解雇手続きの違法性ですが、解雇予告手続きの違法性と解雇の有効性は別の話です。判例では、解雇予告通知義務違反があった場合、即時解雇としての効力はないものの、以下いずれかのときから解雇の効力が生じると述べています。

    • 通知後30日が経過した。
    • 通知の後に解雇予告手当の支払いがあった。

    つまり、正当な理由のある解雇については、解雇予告手続きの違法性をもって解雇を退けることはできないということです。

    この場合、労働者には以下の2つの選択肢があります。

    • 通知から30日経過するまでは会社に居続ける。
    • 解雇予告手当の支払いを求める。

    ただし、解雇通知を受けてからも会社に居続けることは本人にとって必ずしもメリットとはなりません。解雇予告手当を受け取り、早めに次の就職先を見つけることも視野に入れておきたいところです。

  2. (2)解雇の無効を訴える場合

    不当解雇にあたるとして解雇自体の効力について争う場合は、相手が会社であることから、個人の力だけでは難しい面があります。労働基準法などの知識にたけた相手に相談するほうがよいでしょう。不当解雇の相談先としては次のような場所があります。

    ●労働組合
    使用者は労働組合の交渉に応じる義務があります。また、労働組合は労働者を守るための組織であるためサポートしてくれることでしょう。実際に、労働組合の働きかけによって解雇が取り下げられるケースも珍しくはありません。ただし、労働組合が実質的には機能していない場合、そもそも労働組合が存在しない場合などは使えない方法です。

    ●労働基準監督署
    労働者の駆け込み寺のように思われることがある労働基準監督署ですが、原則、労働者の個別紛争に対する積極的な関与はありません。会社への指導・助言にとどまることが多いでしょう。

    ただし、具体的なアドバイスを受けることはできます。上位機関である労働局のあっせんや、労働審判などの選択肢を教えてくれますので、まったく意味がないわけではありません。

    ●弁護士
    解雇の無効を訴えるだけでなく、不当解雇かどうか判断できない場合や不当解雇による慰謝料を請求したい場合には弁護士が有力な候補になります。不当解雇にあたる場合、同時にパワハラや残業代の未払いなど、複数の問題が生じていることもあります。弁護士に相談する場合はこうした労働問題全般に対応してもらうことができます。

    さらに、労働法規に基づくアドバイスを行うだけではありません。依頼を受けた弁護士は、あなたの代わりに交渉できますし、労働審判や訴訟における代理人として対応します。解雇について本格的に争うときには、依頼することを強くおすすめします。

4、まとめ

今回は、解雇予告を受けた際の対処法を中心に解説しました。解雇予告は予期せず行われることがほとんどです。突然の出来事に頭が真っ白になることがありますが、慌てず対処し、ご自身にとって納得のいく結果を求めましょう。

法的な解雇手続きが踏まれていない場合や、そもそも解雇が不当である場合には打つ手があります。とはいえ、労働者個人が組織である会社と対等に争うことは難しいものがあります。できる限り、弁護士など専門家のアドバイスを受けた方がよいでしょう。

不当解雇などの労働問題でお困りであればベリーベスト法律事務所 横浜オフィスへご連絡ください。労働問題に対応した経験が豊富な弁護士が、ご相談に対して全力でサポートします。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています