能力不足でクビは違法? 解雇予告されたら労働者がすべき対策とは
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ある日突然、上司から呼び出され、「指導をしてきたが成績が上がらない。あなたは業務に対して能力不足だ。近日中に解雇する」と言われてしまったらどうしたらよいのでしょうか。そもそも、このような、能力不足を理由とした解雇は認められるのでしょうか。
令和元年度に神奈川県かながわ労働センターに寄せられた相談件数は、1万2491件で、前年度比1.0%増となり、高水準のまま推移が続いています。中でも「解雇・雇い止め・退職」は相談内容のトップ3です。解雇の問題は、もはや誰にとっても対岸の火事ではないといえるでしょう。
本コラムでは、能力不足を理由にした解雇の違法性や、解雇を言い渡された場合に労働者がすべき対応について、ベリーベスト法律事務所 横浜オフィスの弁護士が解説します。
1、能力不足を理由とした解雇は認められるのか?
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(1)解雇権濫用法理
日本の労働法制においては、労働者の権利はとても強く保障されています。特に解雇は、使用者(会社)側から一方的にする労働契約の解約であり、正当な理由を満たさない限り制限されるべきだと考えられています。
解雇が制限される理由は、会社から一方的かつ突然に、労働者の意思に反して解雇されると、労働者として経済的な不利益を被ることになるからです。
しかし、かつての日本の法律における解雇の制限は非常に貧弱であり、労働能力喪失中の解雇禁止や解雇予告の規定があるのみでした。そのような中で生まれたのが、解雇権濫用法理と呼ばれる考え方です。解雇権濫用法理とは、「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効」というものです。この解雇権濫用法理は、2003年に労働基準法18条の2として明文化されたのち、2007年に労働契約法16条に移されました。
労働契約法16条によれば、- ① 客観的に合理的な理由を欠き
- ② 社会通念上相当であると認められない
場合には、解雇権濫用に当たり、解雇は無効となるわけですが、では、能力不足を原因とした解雇は解雇権濫用に当たるのでしょうか。
①と②の要件は、明確な区別が難しい場合も多いですが、客観的に合理的な理由があるとしても、社会通念上不相当である場合には、解雇が無効になることを示唆しています。
なお、①に該当し②に該当しなかったため解雇が認められなかった判例と解釈できるものとして以下のようなケースがあります。放送局のアナウンサーが2週間のうちに2度寝過ごしたためニュースを放送できなくなりました。これを就業規則に定められた解雇事由に該当するとして(①充足)アナウンサーは普通解雇されました。
しかし、2度の寝過ごし以外に勤務態度の問題がなく、謝罪もしていることを勘案すると、アナウンサーの解雇は社会的に相当なものとはいえない(②不充足)として、最高裁判所は解雇を不当であると判断しました(最高裁昭和52年1月31日)。 -
(2)能力不足による解雇は解雇権濫用に当たるか
では、労働者の勤務成績が低いこと、能力が足りないことを理由とした解雇は、解雇権濫用に当たるのでしょうか。
そもそも、勤務成績の評価は、客観的かつ公正になされなければなりません。そのため、「他の従業員と比べて劣っている」といった評価だけでは十分とはいえません。
たとえば、営業職で、契約を取り付けてくるのが主要な業務なのであれば、契約件数が何件であり、他の従業員の件数と比較してどのくらい少ないのか、ということが示されなければなりません。
その上で、正当な解雇であると判断されるには、勤務成績の評価だけでなく、勤務成績が著しく悪く、使用者による指導などの努力を行っても容易には強制できず、さらにそれが将来にわたって継続することが合理的に予測される必要があります。
なお、勤務成績の評価は、通常は使用者によってなされるものですが、ある裁判例では、顧客などの評価アンケートによる、第三者の評価も成績評価の一部として認めています(福岡高裁平成21年5月19日)。 -
(3)就業規則における「退職に関する事項」とは
解雇に関する定めは、会社の就業規則にも、退職に関する事項として定められているのが一般的です。労働基準法89条3号によって、規定しなければならないとされているからです。内容は会社によってさまざまではありますが、一例として、厚生労働省のモデル就業規則を紹介します。
厚生労働省モデル就業規則51条(解雇)
労働者が次のいずれかに該当するときは、解雇することがある。- ① 勤務状況が著しく不良で、改善の見込みがなく、労働者としての職責を果たし得ないとき。
- ② 勤務成績または業務能率が著しく不良で、向上の見込みがなく、他の職務にも転換できない等就業に適さないとき。
このモデル就業規則では、労働契約法16条や労働基準法など、さまざまな法律で解雇は厳しく規定されており、就業規則に解雇の事由を定める際には、それらに抵触しないよう注意を促しています。
したがって、能力不足による解雇が解雇権濫用に当たらず有効であるためには、- どのように勤務状況が不良なのか
- なぜ改善の見込みがないのか
- 改善のために使用者側はどのような努力をしてきたのか
- 他の職務に転換・部署を異動したか。もししなかったら、なぜできないのか
といったことについて、一つ一つ客観的な証拠に基づいて就業規則に示すことが必要である、といえるでしょう。
2、解雇を告げられたとき確認すべきこと
突然の解雇の話には動揺する方がほとんどでしょう。しかし落ち着いて必要事項を確認していくことが重要です。会社から解雇を告げられたときに確認すべきことを紹介します。
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(1)解雇予告か退職推奨か
まず、会社からの告知が解雇通告なのか退職推奨なのかを確かめましょう。退職勧奨とは、はっきり解雇と告げず「もっとあなたの能力をいかせる職場があるのでは」などと自らの判断で退職するよう促す方法です。退職推奨はあくまでも自主的な退職を促すものであり、労働者に退職の意思がなければ拒否することができます。
また、解雇予告の場合には、法律の定める解雇予告期間を満たしているかを確認しましょう。労働基準法では、解雇の少なくとも30日前に予告するか、それより短い期間をもって予告する場合には、30日分以上の平均賃金である解雇予告手当を支払われなければならない旨が規定されています(労働基準法20条1項)。予告日数と平均賃金を支払う日数の合計が30日以上となるように組み合わせることも可能です(同条2項)。 -
(2)解雇通知書・解雇理由証明書
退職推奨ではなく解雇予告である場合には、解雇通知書および解雇理由証明書を受け取り、解雇の理由が適切であるかを確認します。解雇通知書は、会社側が解雇予告手当の支払いを拒否した場合に支払いを求めるための証拠となるので、大切に保管しましょう。
3、納得できない場合の対応方法
会社から解雇予告を言い渡されれば、会社にはもう居たくない、退職したいと考える人もいるかもしれませんが、急に職を失うのは経済的に大きな負担となる可能性が高いため、冷静な判断をする必要があります。
まず、会社からの解雇予告が適法なものであるかどうかを点検しましょう。具体的には、解雇の理由が能力不足のみで、解雇権の濫用に当たらないか、会社が解雇理由証明書や面談などによって示してきた解雇の理由が客観的な証拠に基づくものなのか、その解雇が社会通念上、相当と言えるのかといったことを検討することになります。
しかし、どのような理由・証拠に基づく解雇が解雇権濫用に該当し、無効なのかを判断するのは、法律の知識がない一般の方には難しいケースも多いでしょう。このようなときは、労働問題の実績が豊富な弁護士に相談することをおすすめします。弁護士は、会社が示してきた書類を整理し、過去の判例などに照らして解雇権濫用に当たるかどうかを調査したり、会社との話し合いにおいて主張すべきことや確認すべきことをアドバイスしたりできます。また、会社と交渉に弁護士が同席したり一任したりすることも可能です。弁護士を味方につけることで、労働者の権利をしっかりと会社に伝えることができるでしょう。
4、まとめ
本コラムでは、能力不足を理由とした解雇が認められるのか、解雇を言い渡された場合にどうすれば良いのかといったことについて解説しました。能力不足や勤務成績不良による解雇は法律上可能ではあるものの、理由や証拠を示すことが困難なケースが多く、非常に認められにくいといえます。
突然、解雇を言い渡されたら動揺する方がほとんどでしょう。しかし、落ち着いて必要事項を確認することを忘れないでください。そして、早い段階で弁護士に相談することをおすすめします。弁護士は、法的なアドバイスをしたり、会社と交渉を行ったりすることで、労働者をサポートします。ベリーベスト法律事務所 横浜オフィスの弁護士があなたを支えます。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています