解雇なのに自己都合扱いだった! 失業手当はどうなる? 法的対策は?

2021年09月28日
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解雇なのに自己都合扱いだった! 失業手当はどうなる? 法的対策は?

会社から解雇を言い渡されたのに、送付された離職票の離職理由の欄に、「自己都合」と記載されていた。このように退職事由が事実とは異なる場合、どのように対応すればよいのでしょうか。

自己都合退職は、失業手当の支給開始時期が遅くなるなどの不利益があり、退職後すぐに転職先が見つかっていない方にとっては死活問題です。

今回は、自己都合退職と会社都合退職の違いや、会社が自己都合退職として処理したい理由など、退職事由にまつわる疑問や対処法について、ベリーベスト法律事務所 横浜オフィスの弁護士が解説します。

1、自己都合退職・会社都合退職とは

退職には、「自己都合退職」と「会社都合退職」の2種類があります。自己都合退職も会社都合退職も、民法や労働契約法などの法律上の用語ではありませんが、一般的には次のように区分されます。

● 自己都合退職
転職や結婚、引っ越し、家庭の事情などを理由に、本人からの申し出による退職。定年退職。自己の責に帰すべき事由による懲戒解雇など。

● 会社都合退職
倒産や経営不振によるリストラ、早期退職制度など、会社側の事情による解雇などによるやむをえない退職。

2、会社都合退職にはどんなメリットがあるか

  1. (1)失業手当の支給が優遇される

    会社都合による退職者は、雇用保険上の特定受給資格者となり、基本手当(いわゆる失業手当)の支給制限が免除されるなどの優遇を受けることができます。なぜなら、会社都合で退職した人は、転職活動などの準備が事前にできないまま退職してしまったと想定されるからです。

    失業手当の支給条件の違いは、次のとおりです。

    会社都合 自己都合
    給付制限期間 なし 2か月(5年間のうち2回まで)
    給付日数 90日~330日 90日~150日
    被保険者期間 6か月以上 12か月以上

    なお、自己都合による退職の場合でも、基準を超える長時間労働をしていた人や、上司や同僚からパワハラやセクハラを受けていた人などは、ハローワークの判定により、特定受給資格者となる可能性があります

    また、妊娠や介護、引っ越し、通勤が不可能な場所への異動などが理由の自己都合の退職者は、特定理由離職者として、特定受給資格者と同等の優遇を受けることもできます。

  2. (2)退職金支給が上乗せされる

    退職金制度がある会社では、自己都合よりも会社都合のほうが、支給額が多くなることがあります。運用は会社によって異なりますので、退職金規則などを確認されるとよいでしょう。

  3. (3)国民健康保険料や国民年金保険料が減免される

    会社都合により退職した場合は、国民健康保険料や国民年金保険料の全部または一部の減免を受けられる場合があります。届け出が遅れてもさかのぼって手続きできるケースもあるので、お住まいの市町村の役所に問い合わせてみましょう。

  4. (4)住民税などが減免される

    住民税は前年の所得に対して徴収されるため、会社都合で退職して収入が激減した場合は、納付が困難になります。すべての市町村で実施されてはいませんが、住民税の全部または一部の減免を受けることができます。そのほか、固定資産税などの減免を行っている市町村もあります。

3、会社都合退職にはどんなデメリットがあるか

会社都合退職は、転職活動をする際に不利になるという話を聞いたことがある方もいらっしゃるかもしれません。業務遂行能力が低かったり、勤務態度が悪かったりと、本人の能力不足が懸念されるからです。事実はどうであるかとは別問題として、解雇された人材という印象を採用担当者に与えることがあるかもしれません。

ただし、倒産などで解雇理由が明らかな場合はこの心配は不要です。また、退職理由に関して詳細な理由を伝える義務は、労働者にはありません。

4、なぜ会社は自己都合退職にしたいのか

解雇であるにもかかわらず、なぜ会社側は離職票の離職理由を自己都合としたり、退職届の提出を求めたりするのでしょうか。

ひとつは、会社が厚生労働省などから助成金の支給を受けている場合、労働者を解雇すると、助成金が不支給や返還対象となり得ることが考えられます。

もうひとつの理由として、解雇が不当解雇であった場合、労働者側から損害賠償や不当解雇の取り消しを請求される恐れがあるからです。解雇という事実を隠して自己都合退職として処理しておくことで、こうしたリスクを回避する狙いがあります。

労働契約法第16条では、解雇権の濫用を禁止しており、解雇理由が合理的・客観的であり、社会通念上相当であると認められない限り、その解雇は無効であると定めています。有効性が認められない解雇を「不当解雇」といい、不当解雇であると、労働者は労働審判や裁判を申し立てます。そこで不当解雇と判断された場合は、会社側は、解雇の撤回や解雇後の賃金・慰謝料などの支払いをしなければならなくなります。

解雇が適法・有効となる条件は厳しく、正当な理由があると認められない場合は、不当解雇と判断される可能性が高くなります

5、会社都合なのに自己都合として退職届を求められたときの対処法

正当な理由による解雇であるか、不当解雇であるかに関わらず、会社側から自己都合退職として処理するために、退職届の提出や退職合意書へのサインを求められたときには、どのように対処すればよいのでしょうか。

「会社都合退職では転職活動に不利になる」「退職金を上乗せする」「退職日までの有給休暇取得を認める」など、さまざまな説得や条件の提示があるかもしれません。特に、会社側が不当解雇と認識している場合には、退職の意思表示を強く求められるでしょう。

しかし自己都合退職を望まないのならば、断固として拒否する必要がありますとはいえ、会社側の要求がしつこい場合や、会社側の要求にやむなく応えてしまい、退職届を提出してしまった場合もあるでしょうそのような場合は、なるべく早く弁護士に相談してみることをおすすめします

労働トラブルの解決実績がある弁護士が対応することで、会社との交渉が有利に進み、本来受け取るべき退職金や解雇予告手当、失業手当などの支給を受けられる可能性が高まります。また不当解雇の場合は、解雇の撤回や金銭的な交渉なども、状況や労働者の心情に沿って対応します。

6、まとめ

今回は、会社都合退職にもかかわらず自己都合退職とされてしまった方のために、会社都合退職と自己都合退職の違いや、会社が自己都合退職にしたい理由などをご紹介しました。会社都合と自己都合では、失業手当をはじめとする各種制度の条件が変わることがあり、経済的に大きな違いがあります。自己都合にされてしまうことで不利益を受けることがありますので注意が必要です。

退職事由の食い違いや不当解雇などの労働問題で悩んだら、まずは弁護士に相談しましょう。ベリーベスト法律事務所 横浜オフィスの弁護士が状況を丁寧にヒアリングし、解決に向けて迅速に対応いたします。まずはお気軽にご連絡ください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています