夫や妻のアルコール依存症を理由にした離婚は可能? 弁護士が解説します
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平成30年11月、神奈川県はアルコールをはじめとした各種依存症治療の専門医療機関を選定したと発表しました。アルコールや薬物、ギャンブル依存症は専門機関での治療を受けなければ完治することはなく、本人だけでなく周囲の人間関係を破綻させてしまいかねません。
夫婦生活においても、配偶者の飲酒問題は深刻です。離婚調停を申し込む際に提出する申立書で入力を求められる「申し立ての理由」のなかに「酒を飲み過ぎる」の選択肢があることから、配偶者の飲酒に悩む方の多さは想像できるのではないでしょうか。そこで、今回はベリーベスト法律事務所 横浜オフィスの弁護士がアルコール依存症を理由に離婚できるかどうかや、離婚の際の慰謝料、アルコール依存症の治療方法などを解説します。
1、アルコール依存症とは? どんな飲み方、どんな症状?
そもそもアルコール依存症とはどのような病気なのでしょうか。厚生労働省によると、下記項目のうち3項目以上が同時に1ヶ月以上続いた場合、もしくは繰り返し出現した場合にアルコール依存症と診断されるとしています。
<アルコール依存症(alcohol dependence syndrome)のICD-10診断ガイドライン>
- 飲酒したいという強い欲望、あるいは強迫感
- 飲酒の開始、終了、あるいは飲酒量に関して行動をコントロールすることが困難
- 禁酒あるいは減酒したときの離脱症状
- 耐性の証拠
- 飲酒に変わる楽しみや興味を無視し、飲酒せざるを得ない時間やその効果からの回復に要する時間が延長
- 明らかに有害な結果が起きているにもかかわらず飲酒
少し専門用語が多くわかりづらいかもしれません。簡単にいえば「大切にしていた家族や仕事、趣味よりも飲酒をはるかに優先させる状態」がアルコール依存症だといえます。たとえば、配偶者や家族がやめてほしいと言っているのにやめない、健康被害が出ているのにやめない、などの状態はアルコール依存症の可能性を疑ったほうがよいかもしれません。
アルコール依存症の症状は飲酒の渇望と離脱症状にわけられます。飲酒の渇望は、飲酒が禁止されている状態でも飲まずにはいられない状態です。また、少ししか飲まないはずだったのに、長時間飲んでしまったり、大量に飲んでしまったりなどの行動が見られます。
離脱症状とは、アルコールを摂取しなかった場合に起きる症状です。具体的には手の震えや寝汗、高血圧や嘔吐、下痢、さむけ、睡眠障害やうつ状態、イライラや落ち着かないなどの症状があらわれることもあるようです。
現在日本では、アルコール依存症の疑いがある方が440万人、治療が必要なアルコール依存の方は80万人と推定されており、本人だけでなく家族も苦しんでいることが伺い知れます。
アルコール依存症の原因は、「多量飲酒」とされています。多量飲酒とは、1日に、ビールであれば中瓶3本以上、日本酒3合、焼酎300ml以上飲酒することです。ただ、多量飲酒を続けているからといってアルコール依存症になるのではなく、遺伝や環境によって依存症になると考えられています。
2、夫や妻のアルコール依存症を理由に離婚できる?
夫や妻がアルコール依存症になり、長時間の飲酒や大量の飲酒をやめないことを原因に離婚はできるのでしょうか?
結論からいえば、「双方が合意」すればどのような理由であっても離婚できます。
アルコール依存症患者の多くは、飲酒によりさまざまな問題行動を起こします。暴言を吐いたり、暴れたり、飲み過ぎが原因で仕事を放棄してしまったりと、家庭生活に深刻な影響を与えることが少なくありません。そのような生活に耐えられなくなり、離婚を考えるのは当然のことでしょう。
離婚は、夫婦の問題であり、双方が合意しさえすればどのような理由でも離婚できます。つまりアルコール依存症の夫や妻が認めれば、すぐにでも離婚可能です。
ただし、離婚に応じなかった場合は、法的手段によって離婚を求め、場合によっては争う事態に陥ることがあります。つまり、簡単に離婚が認められない可能性があることは知っておく必要があります。
3、法的に離婚が認められる条件って?
前述のとおり、離婚に必要な条件は、「双方の合意」です。しかし、相手が離婚に合意しない場合、日本では裁判などで離婚を争う必要があり、その際には、法的に離婚が認められる「法定離婚事由」が求められます。民法第770条で定められた法定離婚事由に該当する離婚理由でなければ、たとえあなたが離婚を望んだとしても相手が拒んだとき、離婚が成立しない可能性があるということです。
夫や妻のアルコール依存症を原因に離婚を求める場合は、5つある法定離婚事由から、主に「悪意の遺棄」や、「その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき」に該当するかどうかがポイントになります。
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(1)アルコール依存症で悪意の遺棄が認められるケースとは
「悪意の遺棄」とは、夫婦に求められる以下3つの義務を果たしていない場合に認められる可能性があります。
- 同居義務
- 協力義務
- 扶養義務
同居している場合は、同居義務は満たしています。しかし、飲酒によって、夫婦の生活を維持するための協力義務を満たしていない、または飲酒が原因で仕事を辞めて生活費を入れないなどのケースでは協力義務や扶養義務を果たしていないと言えます。
毎日飲酒を続けて家事や育児に協力せず、仕事も辞めてしまった、もしくは休みがちで収入が非常に少ないなどのケースは悪意の遺棄と認定される可能性があります。
もちろん、飲酒のために給与を全部使い果たし、生活費を支払わなければ、扶養義務を果たしておらず、悪意の遺棄が認められる可能性が高いと考えられます。 -
(2)アルコール依存症が「婚姻を継続し難い重大な事由」に該当するケースとは
先ほどの「悪意の遺棄」に該当しなくても、「婚姻を継続し難い重大な事由」に該当すれば法律的に離婚が認められます。
婚姻を継続し難い重大な事由とみなされる可能性がある例は以下のとおりです。- 配偶者による暴力を受けている
- 著しいモラハラ行為を受けている
- 性格の不一致
夫や妻が、飲酒によって暴力をふるってくる、暴言等のモラハラが頻繁である、などの場合はそれを原因に離婚が認められる可能性があると言えます。
4、離婚で慰謝料請求できるケース、できないケース
次に、離婚で慰謝料を請求できるケースとできないケースについて解説します。
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(1)離婚で慰謝料を請求できるケース
離婚の際には、相手方に不法行為があれば慰謝料を請求可能です。具体的には、暴力や不貞行為です。モラハラでの慰謝料も請求可能ですが、暴力や不貞行為と比較すると、請求が認められにくいでしょう。モラハラで慰謝料を請求する場合は、相手に離婚の準備をしていることを察知される前に弁護士に相談して、入念な準備が必要となります。
夫や妻のアルコール依存症による暴力行為やモラハラが原因で、離婚して慰謝料請求する場合は、それぞれの行為があったことの証拠が必要となります。暴力をふるっている最中の動画データや音声データ、なければそれらを記録した日記などです。暴力の場合は、それと合わせて、診断書も必要です。暴力行為があったことを客観的に示す証拠が必要となります。
どちらのケースも慰謝料を確実に請求するためには、証拠と冷静な交渉が必要なので、ひとりで対応しようとせず弁護士に交渉を一任しましょう。 -
(2)慰謝料を請求できないケース
すべての離婚で、慰謝料を請求でできるわけではありません。多くの夫婦の離婚原因である性格の不一致で離婚する場合は、慰謝料の支払いはほとんど認められません。
ただし、慰謝料の支払いは、本人の自由意志でもあるため、アルコール依存症の夫や妻が支払いを認めれば、慰謝料を受け取ることも不可能ではないでしょう。
5、アルコール依存症の治療方法とは
離婚の前にアルコール依存症の治療を考えることもあるでしょう。アルコール依存症は病気です。家族の愛だけでは完治できません。飲酒期間が長ければ離脱症状もつらく、本人の意思だけでは、断酒することは難しいものです。夫や妻のアルコール依存症を完治したければ専門機関での治療を強くおすすめします。
日本ではアルコール依存症の治療のほとんどが「入院治療」です。まずは入院して、精神的、身体的な離脱症状の治療を行います。離脱症状を軽減させるための薬物や点滴などで2週間から4週間の「解毒治療」を行います。
アルコールが体から抜けきり、離脱症状が改善されたら、断酒するためのリハビリ治療が開始されます。カウンセリングにより、飲酒問題に直面させて本人に断酒を決意させます。断酒治療の期間は2ヶ月です。
さらに退院後も、病院やクリニックへの通院、薬の服用、自助グループの参加という3本柱のケアが続きます。
アルコール依存症は本人の意思の問題と考えられがちですが、長期にわたる専門的な治療を要する病気です。「飲まなければいい人だから、飲まないなら結婚を継続したい」と考えている方は、当事者でどうにかするのではなく、専門機関に相談して適切な治療を受けてください。
6、まとめ
アルコール依存症は本人や家族の努力だけでは治療することはできません。しかし、本人に治療の意思がなければ、通院や入院はできず、症状は改善されないまま家族を苦しめることになります。
夫や妻の飲酒行動に耐えられずに離婚を検討している方は、一度弁護士に相談してみましょう。飲酒時の問題行動の度合いによっては法的に離婚が認められる可能性があります。まずはベリーベスト法律事務所 横浜オフィスへお気軽にご連絡ください。親身になってお話を聞き、やるべきことなど適切なアドバイスを行います。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています