悪意の遺棄とは?配偶者に対して離婚や慰謝料は請求できる?

2020年01月14日
  • 離婚
  • 悪意の遺棄
  • 慰謝料
悪意の遺棄とは?配偶者に対して離婚や慰謝料は請求できる?

平成29年神奈川県衛生統計年報統計表によれば、神奈川県内の離婚件数は平成27年から平成29年にかけて16,234件から15,370件へとやや減少しています。しかし、厚生労働省の平成29年(2017)人口動態統計では、平成29年の時点で神奈川県の離婚率は1.71と全国平均の1.70をわずかに上回っています。

離婚理由として考えられるもののひとつに、悪意の遺棄があります。悪意の遺棄では離婚請求ができるほか、慰謝料の請求もできます。悪意の遺棄を理由として離婚や慰謝料を請求する場合、どうすればよいのでしょうか。

1、悪意の遺棄とは

「悪意の遺棄」とは、配偶者が正当な理由なく同居や婚姻生活への協力を拒むことです。悪意の遺棄とは、具体的にどのようなことを指すのでしょうか。また、悪意の遺棄を理由に離婚は認められるものでしょうか。

  1. (1)夫婦には同居義務がある

    民法752条には、「夫婦は同居し、互いに協力し扶助しなければならない」と定められています。これは夫婦の同居義務や協力義務、扶助義務を規定するものです。ただし、夫婦の一方にもう一方との同居を強制するものではありません。たとえ、「相手方ともう一度同居したい」と裁判を起こしても、裁判所は同居を強制することはできないのです。

  2. (2)同居義務違反にならない場合もある

    夫婦には同居義務があるといえども、正当な理由があれば別居しても同居義務違反にはなりません。別居しても同居義務違反にならないケースは、以下のようなものが該当します。

    • 夫婦どちらかが単身赴任になった場合
    • 実家に住む親の介護をしなければならない場合
    • 自分自身に療養が必要な場合
    • 暴力やモラハラから逃れるための場合  など
  3. (3)悪意の遺棄は法律で認められている離婚原因のひとつ

    民法には以下5つの離婚が認められる理由(法定離婚事由)が定められています。

    • 不貞行為があった場合
    • 悪意の遺棄があった場合
    • (相手の)生死が3年以上不明な場合
    • 強度の精神病にかかり、回復の見込みがない場合
    • その他婚姻を継続しがたい重大な事由がある場合

    離婚協議の場合は、離婚理由が上記のどれにも当てはまらなくても、夫婦の意思だけで離婚が成立します。しかし、裁判になったときは、離婚原因が上記のいずれかにあてはまっていることが絶対条件となります。悪意の遺棄は民法で定められている離婚事由にあたるため、配偶者の悪意の遺棄があれば離婚することが可能です。

  4. (4)悪意の遺棄の具体例

    「悪意の遺棄」と言われてもイメージがしづらいかもしれませんが、以下のようなシチュエーションを思い浮かべていただければよいでしょう。

    • 配偶者が専業主婦(夫)なのに生活費を渡さない
    • 配偶者が病気で看護を必要としているのに看護をしない
    • 専業主婦(夫)なのに「やりたくない」と言って家事をしない
    • 配偶者が実家に帰って戻ってこない
    • 配偶者が一方的に家を出て別居を始めた   など

    もし配偶者の行為が上記のいずれかに当てはまれば、悪意の遺棄と認められる可能性が高くなります。

2、悪意の遺棄を理由として慰謝料請求するには

悪意の遺棄があった場合、離婚請求ができるのはもちろんのこと、精神的苦痛を受けたことに対する慰謝料も相手方に請求することができます。では、慰謝料を請求するにはどうすればよいのでしょうか。また、どのような証拠が必要となるのでしょうか。

  1. (1)悪意の遺棄で慰謝料請求ができる法的根拠とは

    民法には、以下のような規定があります。

    民法709条
    故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

    民法710条
    他人の身体、自由若しくは名誉を侵害した場合又は他人の財産権を侵害した場合のいずれであるかを問わず、前条の規定により損害賠償の責任を負う者は、財産以外の損害に対しても、その賠償をしなければならない。

    悪意の遺棄は、民法上でいう「不法行為」にあたります。不法行為を行った者は、被害者が受けた財産的損害に対する損害賠償責任のほか、財産以外の損害についても責任が生じます。これらを法的根拠として、悪意の遺棄を理由に相手方に対して慰謝料請求ができるのです。

  2. (2)遺棄したこと+悪意であったことが必要

    悪意の遺棄を理由に慰謝料を請求するには、相手方を正当な理由なく遺棄したことに加えて、そこに悪意があったことが必要です。たとえば、専業主婦の相手方が困るとわかっていながら生活費を入れなかった、障害のある子どもの世話が大変なことに気づいていながら勝手に家を出て行ったなどの場合が、「悪意があった」ことに相当します。

  3. (3)悪意の遺棄であることを示す証拠が必要

    悪意の遺棄を理由に慰謝料を請求するには、証拠が必要です。悪意の遺棄があったことを示すには、以下のような証拠があればよいでしょう。

    • 生活費が途中で振り込まれなくなったことを示す預貯金通帳
    • 相手が今住んでいるアパートやマンションの賃貸契約書や資料
    • 相手と「出て行く(出て行け)」「戻ってきてほしい」などとやり取りしたメールや手紙、音声記録
    • 相手方が住民票を移動させたことがわかる記録
    • 別居の原因や時期がわかるような記録・資料   など
  4. (4)悪意の遺棄の慰謝料が高くなる場合

    以下のような要素がある場合は、慰謝料の金額が高くなる可能性があります。特に、悪意の遺棄だけでなく、相手方が不貞行為をした場合は特に慰謝料額が高くなる傾向があります。

    • 婚姻期間が長い場合
    • 同居期間に比べて別居期間が長い場合
    • 相手方が不倫相手と同居するために家を出て行った場合
  5. (5)慰謝料請求の方法

    慰謝料を請求する際は、まず相手方に内容証明郵便を送った上で任意交渉を行います。交渉がうまくいかない場合は、家庭裁判所に離婚調停を申し立て、調停委員の仲介のもとで引き続き話し合うか、裁判で慰謝料を請求することになります。

  6. (6)慰謝料請求の際には時効に注意

    他の金銭債権と同様に、悪意の遺棄を理由とする慰謝料の請求にも時効があります。慰謝料請求の時効は、悪意の遺棄が始まった時点から3年間です。慰謝料を請求せずに3年以上経過してしまうと、1円も請求できなくなってしまうため、注意が必要です。

3、悪意の遺棄が認められた判例・認められなかった判例

悪意の遺棄について、裁判で認めてもらうのは簡単なことではありません。ここでは、悪意の遺棄が認められた事例や、逆に認められなかった事例についてご紹介します。

  1. (1)夫による悪意の遺棄が認められた判例

    結婚後25年経って半身不随となった妻を置いて家を出て行ってしまい、5年間生活費を支払わなかった夫の行為が、悪意の遺棄にあたると裁判所に認められました。妻は不自由な暮らしを強いられ、身内からの借金で生活しているのに対し、夫は安定的な職を得て一人暮らしをしていることから、裁判所は婚姻期間中に購入した土地建物の所有権をすべて夫から妻に移転するよう命じました(浦和地裁昭和60年11月29日判決)。

  2. (2)「婚姻を継続しがたい重大な事由」とされた判例

    夫がたびたび出張や外泊で家を空けて家庭を顧みず、妻に対する協力義務や相互扶助義務を十分に果たさないことが悪意の遺棄になるとは裁判所は認めませんでした。しかし、婚姻を継続しがたい重大な事由にあたるとされ、妻からの離婚請求が認められました(大阪地裁昭和43年6月27日判決)

  3. (3)夫が妻を追い出したことが悪意の遺棄と認められた判例

    夫が妻に暴力をふるうなどして、夫が実力で妻と子どもを家から追い出した事案では、夫が妻を追い出したことが悪意の遺棄であると認められ、妻の離婚請求を認めました(浦和地裁昭和59年9月19日判決)

  4. (4)妻が自国に帰ったことは悪意の遺棄に当たらないとされた事例

    日本人男性と結婚したイタリア人女性が双子の子どもを連れて自国に戻ったことを理由に、夫が悪意の遺棄による離婚と慰謝料を求めた事案がありました。この事案では、夫婦関係の破綻は妻の態度だけを非難することができないとして、離婚は認めたものの妻の行為は悪意の遺棄にあたらないとされました(東京地裁平成7年12月26日判決)。

4、離婚請求や慰謝料請求を弁護士に依頼するメリット

悪意の遺棄はよほどしっかりした証拠がなければ非常に証明がしづらく、認められるのが難しいものです。そのため、悪意の遺棄を理由に離婚や慰謝料を相手方に請求する場合は、弁護士に相談の上、協力を仰いだほうが賢明と言えるでしょう。

  1. (1)交渉を有利に進められる

    相手方と任意交渉をする際、自力で交渉をしようとしても、のらりくらりと言い逃れされたり、逆に相手から責められて「自分が悪いのではないか」と思わせられたりする可能性はゼロではありません。弁護士に間に入ってもらえれば、冷静に話し合いを進めることができ、なおかつ交渉を有利に進められる可能性も高くなります。

  2. (2)慰謝料額がより高額になる可能性も

    自力で相手方と交渉を重ねても、高額な慰謝料を獲得することは容易ではなく、慰謝料を獲得すること自体難しい場合も考えられるでしょう。しかし、弁護士に依頼すれば、きちんと法的根拠をもって論理的に主張を展開し、より高額な慰謝料を獲得できる可能性が高まります。婚姻費用や養育費を併せて請求するときも、より多くの婚姻費用や養育費を得られることも考えられます。

  3. (3)離婚調停や裁判など法的手段も取れる

    交渉の段階から弁護士に相談しておけば、交渉がまとまらなくても、調停や裁判などの法的手段に持ち込むこともできます。調停では調停委員に対し意見を述べるときもサポートを受けられたり、代理人として調停委員を納得させられるような主張を展開し、有利に運ぶこともできます。その後調停不成立となり訴訟に移行しても、裁判官の心証が良くなるように弁論を行い、有利な判決を導くことができるでしょう。

5、まとめ

配偶者が理由もなく突然出て行ってそのまま戻ってこなかったり、定職についていながら急に生活費を入れなくなったりしたら、たちまち生活に困ってしまうでしょう。配偶者のそういった行為は、民法で定められている「悪意の遺棄」にあたる可能性があります。悪意の遺棄にあたれば、離婚請求も慰謝料請求もできるようになります。

ベリーベスト法律事務所 横浜オフィスでは、悪意の遺棄による離婚や慰謝料請求をしたい方のご相談を受け付けております。離婚や男女問題の経験豊富な弁護士が、じっくりお話を伺い、問題が解決するまでサポートいたします。本格的に生活に困ってしまう前に、当事務所までお気軽にご来所の上、ご相談ください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています